天使のローブ

茉莉花 香乃

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第五章

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「ジュリアン、アシュリーちょっといいか?」
「あっ、ジミー。どうしたの?」
「あの、その前に。おめでとうございます」

ちょこんと頭を下げて、少しおどけてお祝いを言われた。

「な、何が?」
「えっ?だって、勇者だろ?」
「でも、おめでとうって…」
「変かな?」
「いや、まあ…ありがとう」

授業が終わり、教室で移動する準備をしていた時だった。

「お前らに会うのに、面会許可…みたいなものが必要でさ、参ったよ。幸い、ジュリアンの親衛隊隊長がケントだったからさ。まあ、顔パス?でさ、直ぐに会えたけど、大変だな」
「ごめんね」

ジミーの後ろにケントとガイがいて、僕たちが話し始めたのを確認して教室から出て行った。

「仕方ないさ、勇者だもんな。ライナスさんも一緒にパレード歩いたんだろ?俺、前に行きたかったけど、凄い人でさ、後ろの方で見てたんだ」

きっと、勇者を見たかったんじゃなくて、シンクレア隊長が見たかったんだろう。それより、前はシンクレアさんって呼んでたのに名前呼びに変わってる。少しは進展してるんだろうか?

「で、今日は何の用ですか?」

このままジミーにしゃべらしておけばシンクレア隊長の話になると思ったのかアシュリーがジミーに先を促す。別に聞きたくないわけじゃないけど、本題に入れないよね。

「おお、そうだった。あのさ…」

そう言って、辺りをキョロキョロ見回し、教室の隅に連れて行く。

「俺たちのクラスに六年生から転校してきた奴がいるんだけど…」
「珍しいですね?」
「まあな」

転校生自体が珍しい上に、能力別のこの学園の一番上のクラスに六年生から入れるのは難しいと思う。

「その人がどうかしたのですか?」
「ハリソン・ミーガンって言うんだけど、最初から誰かを探しにここに来たんだって言ってたんだ。だんだん仲良くなってハリソンと話すうちに養子に出された弟を探してるってわかって…」
「弟ですか?」
「でも、頑張って探してる様子がなかったから、おかしいなって思ってたんだよ。侯爵家の話を聞きたがったりしたけどさ、地方から来た奴や庶民なら誰でもちょっとは興味あるだろう?」
「それで?」

まだ、僕たちにこの話をしに来た意図がわからない。

「そいつ、新学期が始まって、ソワソワしてるんだ。そりゃあ、学園中…ううん、国中がそうだから、不思議はないんだけど」

それって、僕たちのことでだよね…。

「俺がお前たちと仲良しって誰かに聞いたのか、会わせてくれってお願いされてさ。自分でも会おうとしたみたいだけどな…、ダメだったらしい」
「俺たちにですか?」
「そうなんだ。イーノックに会わせてくれって」

なんだ…、僕とアシュリーじゃないのか。別に残念なんじゃないよ?それに仲良しって…。仲悪いわけじゃないけど、ジミーがシンクレア隊長への愛ゆえに僕たちに近寄って来ただけなのにね。

「俺は…ほら、イーノックはさ…。イーノックはいい奴…いや、いい人でさ、俺のしたことを笑顔で許してくれたよ。でも、俺から話しかけるのはさ…やっぱりできなくって…。それに!親衛隊!声掛けることもできなくなった。イーノックの親衛隊隊長は俺がしでかしたことをまだ根に持ってて、怪しむんだよ。また、何かするんじゃないかって。イーノックには許してもらってるって言ってもダメでさ」

イーノックの親衛隊隊長は同室のザカリー・ライトだ。

八年生に相談したら、隊長を置いて統率を図った方がまとまりがあるということになった。最上級生の八年生に隊長職をお願いしたけれど、僕たちのクラスメイトの方が良いだろうと、上級生が副隊長に就くことで話がついたそうだ。

僕の隊長さんはケントで副隊長さんはルシアン兄上。兄上は正式な副隊長ではないらしく、正式に決まれば変わるらしい。

随分大袈裟なことになった。
定期的に食事会と称した交流会があって、申し込んだ人の中から抽選で昼食や夕食の時に一緒に食事をする。

普段は隊長のケントやアシュリーと一緒に食べる。アシュリーの隊長さんはガイで副隊長さんはフランクさま。だからケントとガイはいつも一緒にいる。僕とアシュリーが一緒にいるから当たり前だけど…。

ガイは僕たちの前ではケントに敬語を使うけれど、二人きりの時は変わってきたそうだ。それが嬉しいと、笑顔を見せるケントは綺麗になった。

僕に近寄ろうとする人をルシアン兄上と並んで睨むと、みんな恐れをなして逃げていく。凄い二人なのだ、僕の隊長と副隊長は。
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