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エピローグ
06
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封印の旅から帰って直ぐに決めていた通り、学園を卒業してから程なくアシュリーと僕は結婚した。
同性婚は認められているけれど多くはないため披露する人は少ない。けれど、勇者ということと侯爵家同士の婚姻は大々的な結婚式と披露宴を開催するのに十分な理由だった。
僕としてはひっそりと家族に見守られて誓いを立てればそれで良かったけれど、アシュリーはなんのために結婚すると思ってるのと僕の主張は聞いてもらえなかった。それでも、僕の事が心配なアシュリーの気持ちが休まるならと渋々受け入れた。
二人の母上は僕にドレスを着せたがったけれど、さすがにそれを認めるわけにはいかない。悲しいかな僕の成長は止まり、ドレスを着ても不自然なことはない。
しかし、勇者ミシェルのジュリアンは男であると国民全員が知っているのにアシュリーの隣でドレスを着ていれば厄介なことになりかねない。やはり跡取りが必要なため、僕が本妻(妻もおかしな言い方だけど…)で側室を置くのかと噂が流れれば僕は穏やかには暮らせない。
住居は予定通りハーマンさまが住まわれていた離れを改装して使うことにした。王宮にも僕たちの部屋はある。
けれど、母上は反対だ。
庭の花畑の奥に離れを建てるからこちらに住んでとアシュリーに迫った。
身体は一つしかないためそれは不可能だ。イライザさまも楽しみにされている。二人の母上はもともと仲良しで、ここでも話し合いは持たれた。休暇の度にしていたように、交互に住むことで渋々納得した。僕たちの意見は聞いてはもらえなかった。
別にどこでも良い。
場所は関係ないんだ。
誰と一緒か、それが大事なのだから。
花畑を前庭にして建てられた僕たちの新居ではドナが動き回っている。近頃は身体が言うことを聞かず、もう歳なので引退しようかと考えていたらしいけれど、僕の世話をしたいと張り切っている。わたくしがお仕えしないで誰ができると言うのですかとここ最近の体調不良が嘘のように元気だ。新人のメイドに指導したり、自ら掃除に勤しみ忙しそうだ。
新居の裏庭にも小さな花畑がある。
夢に出てきたアルシャントがそこに花壇を作ってと言った。
『お花は植えないでね』
不思議に思いながらアシュリーと二人でレンガで丸く囲い、土を入れた。翌日見てみるとアリルの花がその可憐な白い花を咲かせている。指輪を握りしめありがとうと伝える。
『僕からのお祝いだよ。幸せに…幸せにね』
そんな言葉が聞こえた気がした。隣に立つアシュリーにも聞こえたようで、涙を流す僕を見て優しく背中を撫でながら良かったなと言ってくれた。
学園を卒業して五年が経った頃僕たち五人はまた旅に出た。これは偽りの封印のための旅だ。こんなことをした記録はなく、この旅に目的はない。あの時と同じように北を目指す。怒涛のような五年間の疲れを癒すようにと言われたけれどそれほど疲れは感じていない。精霊の森の守人、リミントン夫妻の元へ着いてからは移転魔法であちこち出掛けた。五十日ほどそのように過ごし王都へ帰ると、封印の儀式が無事に終わったと国民に知らされた。
王都では花火が上がり街はお祝いムードが溢れていた。今回はパレードなどはない。個人でお祝いだと騒いでる人がいるようだった。
そして同じ日、ジョナスとローザの結婚式が執り行われた。
王族のアレース殿下の結婚式となれば各国からお祝いに大勢の人が集まり王都は物々しいまでの警備体制だ。数年前に王太子殿下の成婚の儀式の時も凄かったけれど、今回も庶民とは規模が違う。僕たちの結婚式なんか可愛いものだと思うほど煌びやかだった。
ローザは幸せそうにジョナスに寄り添い、ジョナスもまた慈しむような優しい眼差しでローザを見る。
最近、イーノックはミーガン家の近くに家を建てて休みの度にそこへ逗留する。そこはマシューと一緒に過ごすための家だ。王都では人目を避けて過ごしている二人は一緒に出歩くことは憚られる。モットレイならイーノックを見れば勇者だとわかってもマシューが弟だとは思わないだろう。時々僕たちもお邪魔する。幸せそうな二人を見ると困難な恋もものともしない強さがあった。
卒業してからは地方を回り、普段医者に診てもらえない人たちを訪問している。どこに行っても温かく迎えられることは幸せだ。
いつもニコラス・グレンが付き従ってくれる。剣の腕も達者で魔法も満遍なく使いこなせるニコラスはミシェル付きの護衛になった。気心が知れているし、アシュリーのお眼鏡に叶うのが一番の決め手だった。
アシュリーは思ったのだ、ニコラスなら安心だと。
アシュリーはここでも、かつて寮の部屋割を国王陛下にお願いしたように直接陛下にミシェルへ護衛をつけて欲しいと願った。
どこまで行っても過保護な僕の伴侶だけど、僕もニコラスと一緒なら心強い。ずっと隊長を勤めてくれていたケントが悔しそうにしていたけれど、テニエル家の嫡男をそうそう連れ回すわけにはいかない。
ケントと言えば…ガイはジョナスに言われていた通り近衛隊に入り、三年シンクレア隊長に付いて頑張っていた。ガイにとっては、ケントと離れることは一番したくないことだとは思うけれど、積極的に剣の腕を磨き、ケントを守るためにこれから自分には何が必要かを常に意識して行動しているようだとジョナスが教えてくれた。
地方に行く時は、僕の助手として医者を志す新人(僕より年上だけど…)とニコラスの補助として近衛隊に配属された新人の一人と、だいたい四人で移動する。
僕だけの力では求める人全員に与えられるものではないけれど、できることがしたかった。助手として付けている人だけじゃなくて、後進の指導も怠らない。けれど、学園に在籍していた時と変わらず教えるのが得意ではない。感覚でできてしまうことが多いため、手順を追って説明できないのだ。少しの知識があれば患者の身体を診ることができる魔道具をダレルと協力して作ったりしている。
その旅に何回も出る中で僕は天使のミシェルと言われるようになった。
別に通り名なんてどうでも良いけれど、あの精霊の森の勇者の館の中の羊皮紙の中で男性のミシェルが『俺も麗しかよ』と文句を言っていたのを思い出す。
天使って……。
そして秘宝のローブにも天使のローブと名が付いた。
僕の周りには僕の、ミシェルの力が必要な人がたくさんいる。
「おはよう、アシュリー」
「おはよ…ジュリ、おいで」
「ふふっ、寝ぼけてるの?朝ですよ」
今日も勇者としての一日が始まる。
アシュリーは王宮で近衛兵相手に剣の稽古を付けた後、グレネル公と魔道具の研究。僕はニコラスたちとテニエル家の領地へ行く。
一緒に行動することは少ないけれど寂しくはない。
「ジュリアン、愛してる」
「んっ、僕も、愛してる」
窓から裏庭を見るとアリルの花が風に揺れていた。
おわり
同性婚は認められているけれど多くはないため披露する人は少ない。けれど、勇者ということと侯爵家同士の婚姻は大々的な結婚式と披露宴を開催するのに十分な理由だった。
僕としてはひっそりと家族に見守られて誓いを立てればそれで良かったけれど、アシュリーはなんのために結婚すると思ってるのと僕の主張は聞いてもらえなかった。それでも、僕の事が心配なアシュリーの気持ちが休まるならと渋々受け入れた。
二人の母上は僕にドレスを着せたがったけれど、さすがにそれを認めるわけにはいかない。悲しいかな僕の成長は止まり、ドレスを着ても不自然なことはない。
しかし、勇者ミシェルのジュリアンは男であると国民全員が知っているのにアシュリーの隣でドレスを着ていれば厄介なことになりかねない。やはり跡取りが必要なため、僕が本妻(妻もおかしな言い方だけど…)で側室を置くのかと噂が流れれば僕は穏やかには暮らせない。
住居は予定通りハーマンさまが住まわれていた離れを改装して使うことにした。王宮にも僕たちの部屋はある。
けれど、母上は反対だ。
庭の花畑の奥に離れを建てるからこちらに住んでとアシュリーに迫った。
身体は一つしかないためそれは不可能だ。イライザさまも楽しみにされている。二人の母上はもともと仲良しで、ここでも話し合いは持たれた。休暇の度にしていたように、交互に住むことで渋々納得した。僕たちの意見は聞いてはもらえなかった。
別にどこでも良い。
場所は関係ないんだ。
誰と一緒か、それが大事なのだから。
花畑を前庭にして建てられた僕たちの新居ではドナが動き回っている。近頃は身体が言うことを聞かず、もう歳なので引退しようかと考えていたらしいけれど、僕の世話をしたいと張り切っている。わたくしがお仕えしないで誰ができると言うのですかとここ最近の体調不良が嘘のように元気だ。新人のメイドに指導したり、自ら掃除に勤しみ忙しそうだ。
新居の裏庭にも小さな花畑がある。
夢に出てきたアルシャントがそこに花壇を作ってと言った。
『お花は植えないでね』
不思議に思いながらアシュリーと二人でレンガで丸く囲い、土を入れた。翌日見てみるとアリルの花がその可憐な白い花を咲かせている。指輪を握りしめありがとうと伝える。
『僕からのお祝いだよ。幸せに…幸せにね』
そんな言葉が聞こえた気がした。隣に立つアシュリーにも聞こえたようで、涙を流す僕を見て優しく背中を撫でながら良かったなと言ってくれた。
学園を卒業して五年が経った頃僕たち五人はまた旅に出た。これは偽りの封印のための旅だ。こんなことをした記録はなく、この旅に目的はない。あの時と同じように北を目指す。怒涛のような五年間の疲れを癒すようにと言われたけれどそれほど疲れは感じていない。精霊の森の守人、リミントン夫妻の元へ着いてからは移転魔法であちこち出掛けた。五十日ほどそのように過ごし王都へ帰ると、封印の儀式が無事に終わったと国民に知らされた。
王都では花火が上がり街はお祝いムードが溢れていた。今回はパレードなどはない。個人でお祝いだと騒いでる人がいるようだった。
そして同じ日、ジョナスとローザの結婚式が執り行われた。
王族のアレース殿下の結婚式となれば各国からお祝いに大勢の人が集まり王都は物々しいまでの警備体制だ。数年前に王太子殿下の成婚の儀式の時も凄かったけれど、今回も庶民とは規模が違う。僕たちの結婚式なんか可愛いものだと思うほど煌びやかだった。
ローザは幸せそうにジョナスに寄り添い、ジョナスもまた慈しむような優しい眼差しでローザを見る。
最近、イーノックはミーガン家の近くに家を建てて休みの度にそこへ逗留する。そこはマシューと一緒に過ごすための家だ。王都では人目を避けて過ごしている二人は一緒に出歩くことは憚られる。モットレイならイーノックを見れば勇者だとわかってもマシューが弟だとは思わないだろう。時々僕たちもお邪魔する。幸せそうな二人を見ると困難な恋もものともしない強さがあった。
卒業してからは地方を回り、普段医者に診てもらえない人たちを訪問している。どこに行っても温かく迎えられることは幸せだ。
いつもニコラス・グレンが付き従ってくれる。剣の腕も達者で魔法も満遍なく使いこなせるニコラスはミシェル付きの護衛になった。気心が知れているし、アシュリーのお眼鏡に叶うのが一番の決め手だった。
アシュリーは思ったのだ、ニコラスなら安心だと。
アシュリーはここでも、かつて寮の部屋割を国王陛下にお願いしたように直接陛下にミシェルへ護衛をつけて欲しいと願った。
どこまで行っても過保護な僕の伴侶だけど、僕もニコラスと一緒なら心強い。ずっと隊長を勤めてくれていたケントが悔しそうにしていたけれど、テニエル家の嫡男をそうそう連れ回すわけにはいかない。
ケントと言えば…ガイはジョナスに言われていた通り近衛隊に入り、三年シンクレア隊長に付いて頑張っていた。ガイにとっては、ケントと離れることは一番したくないことだとは思うけれど、積極的に剣の腕を磨き、ケントを守るためにこれから自分には何が必要かを常に意識して行動しているようだとジョナスが教えてくれた。
地方に行く時は、僕の助手として医者を志す新人(僕より年上だけど…)とニコラスの補助として近衛隊に配属された新人の一人と、だいたい四人で移動する。
僕だけの力では求める人全員に与えられるものではないけれど、できることがしたかった。助手として付けている人だけじゃなくて、後進の指導も怠らない。けれど、学園に在籍していた時と変わらず教えるのが得意ではない。感覚でできてしまうことが多いため、手順を追って説明できないのだ。少しの知識があれば患者の身体を診ることができる魔道具をダレルと協力して作ったりしている。
その旅に何回も出る中で僕は天使のミシェルと言われるようになった。
別に通り名なんてどうでも良いけれど、あの精霊の森の勇者の館の中の羊皮紙の中で男性のミシェルが『俺も麗しかよ』と文句を言っていたのを思い出す。
天使って……。
そして秘宝のローブにも天使のローブと名が付いた。
僕の周りには僕の、ミシェルの力が必要な人がたくさんいる。
「おはよう、アシュリー」
「おはよ…ジュリ、おいで」
「ふふっ、寝ぼけてるの?朝ですよ」
今日も勇者としての一日が始まる。
アシュリーは王宮で近衛兵相手に剣の稽古を付けた後、グレネル公と魔道具の研究。僕はニコラスたちとテニエル家の領地へ行く。
一緒に行動することは少ないけれど寂しくはない。
「ジュリアン、愛してる」
「んっ、僕も、愛してる」
窓から裏庭を見るとアリルの花が風に揺れていた。
おわり
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