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つまり俺は売られたのだ。


ベルドラの部下らしき男が四角い皮のケースを夫婦に渡す。
あれは俺だ。俺に相当する金だ。今までにないほどだらけ切った顔で浮気男がそれを受け取るのを見てどろりと黒い感情が流れる。

なぜお前らが良い思いをするのか、やはり神はいねぇ。絶対にいねぇ。あんな奴が美味い思いをする意味が分からない。夫婦にはもう俺の事なんて商品にしか見えていないのだろう。
俺のことを金を渡した男に押し付ける。


「煮るなり、焼くなり好きにしてください。旦那」

「……行くぞ」


浮気男を無視して、ベルドラは出口に向かっていく。俺の腕を部下が掴み、無理やり歩かせようとした。


最後に夫婦と目があった。目は笑い出しそうなほど弧を描き、俺を憐れむふりをしながら嘲笑っている。

ああ、そうかよ。お前らはそうやって最後まで俺をただ働く機械のように思っていたんだろうよ。


「おい、ちゃんと歩け」

動きを止めた俺に部下が咎める。
良いさ、この世は狡猾でなければならない。知ってるさ。痛いほど知っているさ。
俺の親がそれを知らずに生きてきたおかげで俺はこうして惨めな生活をしてきたわけだ。そしてそれを免れるような動きを出来たなかった俺の落ち度だ。

だから俺は這い上がる。地獄からさらに地獄に落ちたとしても。

感謝してるよ。俺が野垂れ死ぬ事が無かったのはお前らのおかげだ。恨んじゃいない。だけど、その大金に見合うだけのことをお前らはしてない筈だ。その精算は俺がしてやる。


「おい……!」


もう一度部下の男が俺を強く引っ張った。その時にはもう一気に全体重を右足に乗せ、持てる全ての力を拳に込めた。

驚いた浮気男の顔に俺の拳がめり込む。歪んだ顔、そして皮膚の感触に、ゴキリと嫌な音。

そのまま浮気男が倒れ込んだ拍子に皮のケースが落ちる。ケースが壊れて中身が飛び散った。ひらひらと舞う紙幣が馬鹿みたいに綺麗だった。


殴られた事が理解できないのか倒れたまま乙女のように頬に手を当てている浮気男。隣では自分の旦那が殴られたと言うのに呆然と立ち尽くすヒステリー女。
こいつにはそう、言葉をやる。


「……あんたも浮気すれば楽しい人生だったかもよ?」


一気に頬が蒸気した女をみてようやくスッキリした。こっちは何百回叩かれて蹴られて腐った食いもん食わされて今よりやばい罵倒されてんだ。これくらい神は許す。いや、俺が許す。


ベルドラの部下は何が起こったか理解が追いつかないのか口を開けたままだ。
俺はもう全てを切り変えた。後ろでこんな騒ぎがあったと言うのに振り返りもしないボスを睨みつける。


俺は必ず、チャンスを掴む。
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