リズムが合わない2人はワルツを踊れるか。

仔犬

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理屈じゃない

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原島あおいは仕事以外の興味がなかった。
その他でやりがいを感じたことがなければ、他人にも無関心だ。それでもあおいに話しかける人間は後を絶たないし、あおい自身もそれを仕事の一貫だと思っていた。

その顔もスタイルもそのために持って生まれたのではないかと思うほどに相手はすんなりとあおいを気に入っていく。


「原島さんは本当に優しいです!」


キラキラした目があおいを覗く。その目にはすでに上司に対する尊敬以上の熱が含まれている。あおいはそれをわかっていたし、邪険にするでも受け止めるでもなく会話そのものを楽しんでいた。それで円滑に仕事が回るのだ。


1つ困った事と言えば裕福な生まれのあおいは頭こそいいが、一般市民の生活常識が足りていない事だった。コンビニに行ったこともなければ自販機を使った事もない。

そもそも飲み物だって買わなくても毎日代わる代わる誰かが、良かったらと言って好意を差し入れという形で渡してくる。もともと種類に興味がなかったし喉が乾いたら何か飲めればいい、そんな程度だった。


しかしその日は違っていた。
大きな商談が終わり、あおいにしては疲れていたのだ。それに蒸し暑い外を出たせいか喉が乾く、初めて自分で買おうと思った。

目の前の自販機を見つめあおいは思った。今まで貰った飲み物で美味しかったもの、と言われても覚えていない。興味がなかったのだからいざ自分で買うとなると悩むものがあった。

ミルクティーと書かれた缶を見つめる。もちろん内容は理解ができるが美味しいかと問われれば覚えてないので知らないに近い。それにもう1つ気になるものがある。

おしるこだ。おぞましい色の飲み物はあまり美味しそうではない、原材料、小豆、その他諸々。なぜ缶に小豆を入れようと思ったのか、あおいには見当もつかない。幼い頃から海外に住んでいたあおいはあまり日本食に知識がない。実家では未だに洋食しかでず、自分の食事も執事に任せたきりで、日本食を食べない。


無難に無糖紅茶かミルクティーにしよう。

絞った所で今度はどちらか美味しいのかわからない。




「あの」


あおいの思考がぐるぐると渦巻く中で唐突に声がかかった。驚いてボタンを押してしまい出てきたおしるこ。
取り上げるとあったかい。


「ご、ごめんなさい」


謝ってきた女性がわざわざ買い直してくれる申し出をあおいは断る。代わりにミルクティーか美味しいかを聞いてみると美味しいというので今度はそれにしようと決めた。

もう一度買い直すと言った女性に律儀な人だなとのんびり思いながら断る。今のは誰だったか顔もよく見ていなった。

掴んでいるコーヒー缶と同じくらい小さいそれはやはり実物も美味しそうではない。謎だ。誰がこんなものを買うのか。それがだんだん未知の生命体のように見えてきた。



「…………おしるこって何?」


甘い小豆と分かるけど不思議だなと見つめていた所で、随分と激しい足音が聞こえてきた。曲がり角から見えたのは先ほどの女性。忘れ物だろうかと思えばあおいに何かを押し付けてきた。
さっきのミルクティーだ。



「どっちも飲めばいい!」



驚いたのも束の間あおいは目を奪われた。
長い黒髪に流し目がちな黒の目。綺麗に上がった長い睫毛に白い肌、それに、形のいい唇。


初めて湧く他人への興味。




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