sweet!!-short story-

仔犬

文字の大きさ
25 / 193
連れ去りたい背中

連れ去りたい背中

しおりを挟む

「秋?」

ダンス練習の帰りに道端から聞き慣れた声がかけられる。帰り道が途中まで同じダンス友達とちょうど別れの挨拶をしようとした時だった。

バイクに跨った声の主はフルフェイスを取るとクリアブラウンの髪がさらりと落ちる。透き通るように綺麗だが、その整った顔の方が男から見てもうっとりする。

俺の横にいた友達も男だけど暮刃先輩に目を奪われているのが手に取るように分かった。すぐに現実に気づいたのかギョッとして俺を見る。

「え、てか、あの天音蛇さんと知り合いなのかよお前……」

「うん。お世話になってんの」

「こんにちは」

にっこりと綺麗な笑みだけど久しぶりに壁のある暮刃先輩を見た。この人そう言えば壁を作るって前に話してたな。ここまで仲が良いと何が普通なのかわからなくなってしまう。

「は、はじめまして!」

ガバッと頭を下げた友達は気まずくなったのか手を挙げてそれじゃあ!とその場を後にしてしまった。

その行動に俺は本来の先輩達の認識を思い出す。そうか、普通の人から見れば少し怖いイメージもあるのだろう。


「怖がらせちゃったかな」

「んー、でも見惚れてたんで大丈夫ですよ」


そう?と笑った暮刃先輩に最初から怖いなんて感情は持っていなかった。暮刃先輩の事は今度教えてあげよう。優しいって。

ふいにヘルメットがポンと渡される。

「秋、送ってあげる」

「良いんですか!」

バイクに詳しくは無いけど大型のそれはスマートでカッコいい。俺も免許取ろうかな、ああでもバイクだと2人乗せられないしな。そこまで考えたら笑ってしまった。2人が居る基準で物事を考えている。

「バイク初めて見ました」

「あれ、そうか……俺らみんな持ってるよ。ああでも秋達と会ってる時はいつも車だもんね」

「いつもいつも有り難いです本当」

頭を下げれば大きな手がのっかる。最近ではすっかり安心できる居場所の1つだ。
すっかりクラブまで送り迎えが習慣になっている俺たちはその優しさに頭が上がらない。


「ダンス帰りか……いつもこんな遅いの?」

「今日は打ち上げだったんで!焼肉たらふく食べました」

「それは良いね」


暮刃先輩には安い食べ放題の焼肉なんて誘えないなと思う。それでも行きたいと言えば行ってくれそうだ。しかも良いお店に勝手に変えられそうだから安易に言わないようにしよう。優しいんだよなマジで。

「俺達車出してもらってばっかりだし、全然歩きますからね!」

「うーん、今後ろから秋見つけてさ」


暮刃先輩の後ろに跨りながらそう言うと曖昧な返事が来た。ヘルメットが少し大きく頭からずれる。

「なんです?」

「連れ去りやすい背中してるなぁって」

「ええ」


どんな背中してるんだ。先輩達くらいになれば人の背中で警戒心を測れるのか。

「だからダメ。ほら掴まって」

「はーい」

ヘルメットのベルトをしめて暮刃先輩の腰を掴んだ。スレンダーだけどやっぱりガタイは全く違うんだよな。筋トレ増やそ。


ぐんとスピードが出ると周りの景色が残像のように移り変わっていく。少し冷えるけど満腹食べた後は夜風が気持ちいい。

「そう言えば暮刃先輩ってお兄ちゃんなんですよね!」

必然的に大きくなる声に暮刃先輩が頷いた。

「秋の1つ下がいるよ!」

と言うことは中学3年かぁ。可愛いんだろうな。信号が赤に変わり静かになった。少しだけを顔を後ろに向けた暮刃先輩が言う。

「君たちよりは可愛げないけど」

「俺ら可愛げあります?」

「食べたいくらい」

「わあ……」

フルフェイスのせいで顔が見えないけど、からかっているわけではなさそうだ。可愛いって言われるのはむず痒い、唯ならありがとうございますと笑うんだろうけどあそこまで振り切ってない。

「わあって!」

くすくすと笑うと振動が来て俺も笑ってしまった。

「色気ないなぁ」

「いやいや、ないっすよ。だいたい先輩達が色気ありすぎる」

「みんな持ってるよ。秋もあるし、なんて言ったってあの瑠衣が食いついてるんだから」

「それはそれ、これはこれです」

俺の答えにまたくすくすと笑った暮刃先輩は信号の青で走り出した。マンションの近くまで近づくと速度を緩め、少し入り組んだ道に入る。


見えてきたマンションを暮刃先輩の後ろからちらりと覗けば入り口付近に見慣れた後ろ姿が2つ。


「おーい」


俺の声に気付いた2人がこっちを振り向く。

立ち上がったその手にはペットボトルと中身の詰まったコンビニの袋。きょとんとした顔のままで、声は俺だけど俺も暮刃先輩もフルフェイスで半信半疑なのかもしれない。

ゆっくりと2人の前で暮刃先輩が降ろしてくれた。駆け寄ってくる優と唯に手をあげる。


「おれおれ」

「最近のオレオレ詐欺は直接言うシステムに変わったの?」

流石に声で分かるだろ。唯が出会い頭からボケてくるので暮刃先輩が吹き出した。ぷはっと俺がヘルメットを外したら唯が笑う。

「おかえり、秋」

「たでーま」

「……もしかして暮刃先輩?」

優が訝しげに見ているがフルフェイスは黒くて中が見えないのだ。よく体型だけで分かったな。優の頭をポンと撫でると暮刃先輩もヘルメットを外した。やあと爽やかに笑ったが視線は優の手元に移る。

「何してたの?」

「唯とコンビニまで散歩して外で乾杯です」

乾杯というがその手に持っていたのはコーラだ。暮刃先輩が困った顔で笑う。

「楽しそうだけど、夜なんだから気をつけて」

「家の前ですよ」

優がすぐ横のマンション入り口を指差した。
このマンション入り口付近はちょっとした広場とベンチがあるから良くここで遊ぶのだ。春になると数本の桜も見れちゃったりする。


暮刃先輩と俺の手を引っ張った2人が先にベンチに座るとビニール袋の中からお菓子やらジュースやらを楽しそうに取り出した。

「いっぱい買ったんです。先輩も夜見しましょう?」

「何それ」

くすくす笑う暮刃先輩だが大人しく引っ張られているところを見ると付き合ってくれるようだった。

月見ならぬ夜見。何を見るのか分かったものではないが、これがよく俺達の間では開催される。いつでもパーティを始められるところが俺達の良いところだと自負しているが、今日は後から参加したせいか少し違って見える。


「唯、何このお菓子」

「パッケージで選んだから分かんない……」

「しかも見て、ロシアンルーレットらしいよ」

「え?しかもちょうど4つ!」


笑いながらへんな形のお菓子に夢中の背中。
無邪気に遊んでいる2人を見ていたら暮刃先輩の言っていた連れ去りやすい背中がなんだか頷けた。


「……後ろから見てたら不安になってきました」

「丸っと持って帰れそうでしょ」


やれやれと苦笑しながら暮刃先輩がベンチに腰掛けた。俺はもうおかしくなってきてにやけが止まらない。そうか先輩達には俺たちがこう見えてるわけか。

「秋早く!」

唯が俺の手を引っ張ってベンチに着席。広げられたお菓子は確かに大量だ。


「暮刃先輩もコーラね」

「はいはい」

「かんぱーい!」


コーラとコーラが重なればパーティが始まる。








しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...