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溺れる
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しおりを挟む「ひー、顔やばいヨ」
「氷怜が気の抜けた顔するから驚いて優と秋に逃げられたじゃないか」
「……うるせえ」
気を抜いていた。
サラッと恥ずかしげもなく愛の言葉をいうのは唯の特徴でもあるが、同時に照れてずいぶんと可愛い顔をする時がある。言葉の選び方は幼くとも出現の掴みどころがない照れ方といい表情といい咄嗟に反応できなかったのは
メイクのせいで余計にあの丸い目が潤むように見えるからかもしれない。
「唯たんが可愛いなんて最初からでショ。あー今すぐにでも押し倒したかった?キャー!ひーのエッチー!」
ふざけて言う瑠衣に氷怜は眉間に皺を寄せた。
「いや……サクラに初めて感謝してる。今回お前らと同じ部屋でチケットを寄越したことを」
氷怜が苦悩して言うので瑠衣がレストランに響くほどお腹を抱えて笑いはじめた。暮刃は苦笑しながらも瑠衣の口にサラダを無理やりねじ込む。
「瑠衣静かに。まあ、本当に氷怜が踊らされてるのは見飽きないよ」
「人の事言えねぇだろ……」
「まあまあ」
上機嫌にワインを口にする暮刃。
そこでふとレストランの入り口に視線を移す。
「遅くないかな」
「あの格好じゃ一旦部屋まで戻ってるかもな」
「ああ、そうか」
流石の唯の腕もあり、全員あまりにも違和感が無かったので女性用でも問題はなさそうだと暮刃は思うが、律儀な彼らは使わないだろう。
「お、良い男発見ー!」
パシャリと音がして目線を向ければ珍しくジャケットを合わせて上品に着こなす柚の姿。その横には紫苑と赤羽も立っている。
「他の奴らどうした?」
「さあー?戻ってこないから良いの捕まえてしけ込んでるんじゃないですかね」
「お前たち遊ぶときは本当に遊ぶよね」
あっけらかんと答える柚に苦笑する暮刃。テーブルを見て紫苑が首をかしげた。
「すっかりお姫様になってたあの子達はどうしたんですか?」
「色々あってー、立て直しにいったヨ」
なにを?と紫苑は首を傾げたが、主人の気分が良いのだけはよく分かる。またあの子達が喜ばせるような事でもしたのだろう。
「そう言えばアレン・Jに会いましたか?被写体になってもらったんですけどさすがって感じでしたよー!後で一緒に並んで貰いたいんですけどね!」
「ああー、グリグリオねー……」
瑠衣の声が数段低くなる。
その名前だけは今出すな!と言う意味を込めて紫苑は柚の頭を叩く。何だよ、いてえ!と叫ばれてもお構いなしに紫苑は得た情報を口にした。
「例の変態、ヤコノ・シヴァって言うんですが、やっぱりこのホテルでも評判が悪いみたいで。ただ、まあここの出資者でもあるので口出しが出来ないようです」
「まあ、どこもそんなもんだろ」
その後にくだらないと続けて言うのは氷怜にはそれをどうにかする力があるからだ。サクラがよくここを使うのなら、念のため処理する必要がある。たとえサクラがヤコノの対象でなくとも心配要素は少ない方がいい。
「少し心配なのはヤコノの部屋がビーチ側なんです、だから昼間見られていた可能性があります。とは言っても人の形は米粒くらいですが」
「ああ……まあ、用心するようには言ってる」
氷怜の視線の先にはさっきまで唯達がいた席がある。
少しの沈黙。全員に過ぎる不安は何故だろう。
紫苑は遠慮がちに口を開く。
「式と桃花も今一緒なんですよね、なら……」
「んー?今回はその2人も危ないんじゃないのか?」
柚にしては珍しくまともなことを言うので全員が黙り込む。戻ってくるのが遅いなと、流石に思うのだ。かれこれ20分はかかっている。全員が本当にトイレに行っているわけでも無いだろうに。
暮刃はスマホを開いた。
優が入れたGPSアプリは子供向けにしてはかなりの優れもので、いる場所がわかれば建物の階数まで限定してくれるのだ。
ホテルにはいる。だがおかしいのは階数だ。部屋は最上階のはずなのにいくつか下の階に全員いる。まさかと思い画面を赤羽に向ける。
「赤羽、ヤコノの部屋はこの階か?」
「……そうです」
赤羽も画面を見てすぐに察したらしい、珍しく固まった笑顔だ。
どうしてこうも引き寄せるのか。
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