ルイ・ワイズ男爵のほろ苦い恋

栗皮ゆくり

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たとえ分かり合えなくても

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 その後も不思議と気が合うのか、ミケット嬢と何度かカフェに出掛けたりした。

 だけどミケット嬢には恋心を持たなかった。

 異性ではあるけど、友達になりたいと思わせる人柄だからかもしれない。

 ミケット嬢曰く、僕はレナ嬢とどこか似ている所があるらしい。

 未婚の男女が二人きりで会うと嫌な噂が立つ。

 けれど、僕たちは社交界では余ほど目立たない存在なのか、気にも留められなかった。

 「私、ケビン様と付き合ってるの」

 突然ミケット嬢に明かされ、僕は本当に驚いた。

 「言ってもいいのかな、ケビンは……」

 「知っているわ。他に大切な人がいるんでしょう?」

 今度は僕がミケット嬢を慰める番なのに、気の利いた言葉ひとつ言えなかった。

 ほどなくして、たぶんケビンとは別れるだろうとミケット嬢から聞いた。

 ◇

 「実はエマとは別に、ミケット・ラキーユ伯爵令嬢と付き合っているんだ。もう終わりそうだけどな……」
 
 僕は心の中で怒りがこみ上げたが、ケビンを優しく励ました……親友だから。

 そして最後のチャンスをケビンにあげた。

 「この間、紳士クラブで耳にした話だけど、ラキーユ伯爵が娘のミケット嬢の縁談相手を探し始めたらしい」

 案の定、ケビンはミケット嬢が自分を選ぶと信じて縁談を申し込んだ。

 だけど、結局ミケット嬢はケビンを選ばなかった。

 「レイモン・タイヨ侯爵と婚約したのか……。彼は人柄が良いからな」

 (……ケビンだって人柄は良いよ。だけど、そうじゃない)

 なんとなくミケット嬢との会話から、ケビンを選ばない気がしていた。

 ◇

 「ミケット嬢、おめでとう。タイヨ侯爵様と結婚なんてすごいじゃないか!」

 「ありがとう、ルイ様もきっと良い方と巡り会えるわ」

 僕たちの友情は、きっと細く長く誰にも気付かれず続くのだろう。

 あの時ミケット嬢は、ケビンが縁談を申し込む確信は無かったはずだけど、それとなく僕に縁談の話題を振ってきた。

 そして僕は、ケビンが縁談を申し込むと確信して情報を教えたんだ。

 僕とミケット嬢は、どこかケビンを懲らしめたいという気持ちを共有していたのだろう。

 ケビンは失恋の痛手の大きさも友情の大きさも親密さに比例していると思っている。

 違うんだよ。

 「親密さよりも勝るもの……それは相手に寄添う気持ちなんだ。僕の失恋に寄り添ってくれたのはミケット嬢だった」

 だけど、ケビンもミケット嬢も僕の大切な友達には違いない。

 (そうさ、それぞれの物差しが違うだけ……ただそれだけさ)
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