1 / 3
言葉にできたら苦労しない
しおりを挟む
――ミケット・ラキーユ伯爵令嬢は数日後の結婚式を控え、忙しい毎日を送っていた。
「お嬢様、レイモン様がいらっしゃいました!」
慌ててレイモンから贈られた婚約指輪をはめ、部屋を後にした。
私の婚約者、レイモン・タイヨ侯爵は物静かで生真面目な人だ。
お父様が薦めた縁談の中で、一番誠実そうな彼を選んだ。
無理に笑っていない、ぶっきらぼうな感じの肖像画にも惹かれた。
親友のレナからは、よりにもよってレイモン侯爵を選ぶなんて、と呆れられたけど。
◇
「ミケット、信じられないわ! 沢山の縁談から、まさかレイモン様を選ぶなんて!」
「あら、どうして? 誠実で素敵な方よ」
「えー、エスコートも下手だし、寡黙だし……一緒にいて楽しくなさそう」
「貴族の結婚だもの……一緒にいて楽しいだなんて、家門同士の利益が大切でしょ」
「フンッ、優等生ね! せっかくならカッコいい令息を選べばいいのに……爵位以外取り柄ないじゃない」
紅茶をすすりながら、横目でチラッとレナを見やった。
「あっ、ごめん、言い過ぎた……」
「ふふふ、レイモン様はああ見えてとても優しいのよ」
気付くとレナは、私の左薬指に嵌められた婚約指輪をまじまじと見ている。
「確かに、そのダイヤモンドの指輪は素敵ね……。あー、前言撤回! 爵位が一番です!」
「レナったら! 彼を選んだのは、そんな理由じゃないわ」
少し沈黙が続いた後、おずおずとレナが口を開いた。
「それって、ケビン・シェロー伯爵様が原因?」
レナは、気になると聞かずにはいられない性格なのだ。
でも、そういう風に思ったことをすぐ口にするレナだから、こうして友情が続いているのかもしれない。
レナの事をデリカシーが無いと揶揄する人もいるけど、私は素直な可愛い性格だと思っている。
それに、そういう性格の方が信頼できる……。
「違うと言えば違うし、そうと言えばそうかも」
「えっ? 結局どっちなの?」
「そうねぇ、ケビン様と出会ってなければ、ケビン様と同じようなタイプを選んだかもしれないけど」
「けど?」
「ケビン様と出会っても同じようなタイプを選ぶってこと」
「はぁ? 何それ」
レナは眉間にシワを寄せて、難しい顔をして答えを探している。
(いくら考えても答えは見つからないかも……。この想いは、少し歪んでいるの)
「お嬢様、レイモン様がいらっしゃいました!」
慌ててレイモンから贈られた婚約指輪をはめ、部屋を後にした。
私の婚約者、レイモン・タイヨ侯爵は物静かで生真面目な人だ。
お父様が薦めた縁談の中で、一番誠実そうな彼を選んだ。
無理に笑っていない、ぶっきらぼうな感じの肖像画にも惹かれた。
親友のレナからは、よりにもよってレイモン侯爵を選ぶなんて、と呆れられたけど。
◇
「ミケット、信じられないわ! 沢山の縁談から、まさかレイモン様を選ぶなんて!」
「あら、どうして? 誠実で素敵な方よ」
「えー、エスコートも下手だし、寡黙だし……一緒にいて楽しくなさそう」
「貴族の結婚だもの……一緒にいて楽しいだなんて、家門同士の利益が大切でしょ」
「フンッ、優等生ね! せっかくならカッコいい令息を選べばいいのに……爵位以外取り柄ないじゃない」
紅茶をすすりながら、横目でチラッとレナを見やった。
「あっ、ごめん、言い過ぎた……」
「ふふふ、レイモン様はああ見えてとても優しいのよ」
気付くとレナは、私の左薬指に嵌められた婚約指輪をまじまじと見ている。
「確かに、そのダイヤモンドの指輪は素敵ね……。あー、前言撤回! 爵位が一番です!」
「レナったら! 彼を選んだのは、そんな理由じゃないわ」
少し沈黙が続いた後、おずおずとレナが口を開いた。
「それって、ケビン・シェロー伯爵様が原因?」
レナは、気になると聞かずにはいられない性格なのだ。
でも、そういう風に思ったことをすぐ口にするレナだから、こうして友情が続いているのかもしれない。
レナの事をデリカシーが無いと揶揄する人もいるけど、私は素直な可愛い性格だと思っている。
それに、そういう性格の方が信頼できる……。
「違うと言えば違うし、そうと言えばそうかも」
「えっ? 結局どっちなの?」
「そうねぇ、ケビン様と出会ってなければ、ケビン様と同じようなタイプを選んだかもしれないけど」
「けど?」
「ケビン様と出会っても同じようなタイプを選ぶってこと」
「はぁ? 何それ」
レナは眉間にシワを寄せて、難しい顔をして答えを探している。
(いくら考えても答えは見つからないかも……。この想いは、少し歪んでいるの)
20
あなたにおすすめの小説
疑惑のタッセル
翠月るるな
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。
目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。
それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。
でもそれは──?
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる