ミケット・ラキーユ伯爵令嬢の不条理な初恋

栗皮ゆくり

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言葉にできたら苦労しない

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 ――ミケット・ラキーユ伯爵令嬢は数日後の結婚式を控え、忙しい毎日を送っていた。

 
 「お嬢様、レイモン様がいらっしゃいました!」

 慌ててレイモンから贈られた婚約指輪をはめ、部屋を後にした。

 私の婚約者、レイモン・タイヨ侯爵は物静かで生真面目な人だ。

 お父様が薦めた縁談の中で、一番誠実そうな彼を選んだ。

 無理に笑っていない、ぶっきらぼうな感じの肖像画にも惹かれた。

 親友のレナからは、よりにもよってレイモン侯爵を選ぶなんて、と呆れられたけど。

 ◇

 「ミケット、信じられないわ! 沢山の縁談から、まさかレイモン様を選ぶなんて!」

 「あら、どうして? 誠実で素敵な方よ」

 「えー、エスコートも下手だし、寡黙だし……一緒にいて楽しくなさそう」

 「貴族の結婚だもの……一緒にいて楽しいだなんて、家門同士の利益が大切でしょ」

 「フンッ、優等生ね! せっかくならカッコいい令息を選べばいいのに……爵位以外取り柄ないじゃない」

 紅茶をすすりながら、横目でチラッとレナを見やった。

 「あっ、ごめん、言い過ぎた……」

 「ふふふ、レイモン様はああ見えてとても優しいのよ」

 気付くとレナは、私の左薬指に嵌められた婚約指輪をまじまじと見ている。

 「確かに、そのダイヤモンドの指輪は素敵ね……。あー、前言撤回! 爵位が一番です!」

 「レナったら! 彼を選んだのは、そんな理由じゃないわ」

 少し沈黙が続いた後、おずおずとレナが口を開いた。

 「それって、ケビン・シェロー伯爵様が原因?」

 レナは、気になると聞かずにはいられない性格なのだ。

 でも、そういう風に思ったことをすぐ口にするレナだから、こうして友情が続いているのかもしれない。

 レナの事をデリカシーが無いと揶揄する人もいるけど、私は素直な可愛い性格だと思っている。

 それに、そういう性格の方が信頼できる……。

 「違うと言えば違うし、そうと言えばそうかも」

 「えっ? 結局どっちなの?」

 「そうねぇ、ケビン様と出会ってなければ、ケビン様と同じようなタイプを選んだかもしれないけど」

 「けど?」

 「ケビン様と出会っても同じようなタイプを選ぶってこと」

 「はぁ? 何それ」

 レナは眉間にシワを寄せて、難しい顔をして答えを探している。

 (いくら考えても答えは見つからないかも……。この想いは、少し歪んでいるの)
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