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恋に落ちたら最後
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――レイモンと婚約する前、最初は軽い気持ちでケビン・シェローと付き合い始めた。
「ミケット、このまま私たち恋もせずに結婚するのは不幸すぎるわよね……」
「別に普通のことじゃない」
「頭が固いなー、ミケットは。昔から冒険しないもんね」
何となく、レナの『冒険しない』という言葉が胸に引っかかっていた、ある日……。
お父様に言い付けられた用事を済ませ、馬車に向かう途中、突然の強風に煽られた。
「やぁ、どうしたの? こんな賑やかな通りで、キレイな人が泣いているのは見過ごせないな」
「えっ? 違います……目にゴミが入っただけですわ」
「それは痛いね、ちょっと見せて」
「あっ、お待ちくだ……」
急に顔を近づけられ驚いたが、あろうことか美しい顔に見惚れてしまった。
顔に手を添え、私の目にフーッと息を吹きかける。
「もう痛くないかな?」
優しく問いかける声と男性らしい手に、思わず胸が高鳴り、どうしようもなく緊張してきた。
よく見ると、この人懐っこい笑顔の男性が、令嬢から人気を集めているケビン・シェロー伯爵だと気づく。
「シェロー伯爵様! あ、ありがとうございます。馬車を待たせていますので……」
「ハハ、これも何かの縁だと思わないかい? あそこのカフェのスイーツ美味しいんですよ」
いつもの私ならば、すぐに断っていただろう。
(冒険……)
「分かりました、伯爵様の好意を無下にはできませんもの」
「アハハハ、ケビンでいいよ」
(本当に太陽のような笑顔……令嬢たちに人気なのも分かるわ)
未婚の令嬢にスキャンダルはご法度だが、ケビンは上手に配慮してくれた。
そうして私たちは、密かに恋愛を始めたのだった。
ケビンのスマートな振る舞いは心地よく、逞しい男らしさも魅力的で、すぐに本気で好きになった。
もう、自分でハマっていると分かるほどに。
◇
暫く、愛おしい時間が穏やかに過ぎて行った。
ところがある時、ケビンには別に大切な人がいると悟ってしまった。
いつもはどんな私の願いも叶えてくれるのに、たった一度だけ、聞き入れてくれなかった。
「ケビン、その珍しいブレスレットは、職人の手作りかしら? とっても素敵!」
「ああ、これ? どこの職人だったかな……。それより、シュマン通りに新しいカフェができたって」
ケビンは、これ以上この話題を続けたくなさそうに、話を逸らした。
女の勘が働いたのか、ケビンを逃がすまいと話を続けた。
「もう覚えてないなら、手に入れるのは難しいわね。だったら……そのブレスレットが欲しいわ」
今でも頭に響く、低く重いひと言。
「ダメだ」
レナ曰く、そこで止めればいいものを、私は食い下がった。
「それがいいの! どうしてダメなの? いつもは断らないじゃない……何かあるの?」
ケビンは黙り込み、私の顔を見ることもなく立ち去った。
◇
それから、何となくお互い気まずくなったが、ケビンは変わらず『好きだ』と私に囁いた。
でも、私は気付いていた。
ケビンから私に触れなくなったことを……。
ケビンと過ごす時間は息苦しく、心の淋しさにも耐え切れなくなって、自然と会わなくなった。
「もったない! あんなにカッコいいのに、会えるだけでいいじゃない」
レナには何度もそう言われたが、そんな気持ちにはなれなかった。
「ミケット、このまま私たち恋もせずに結婚するのは不幸すぎるわよね……」
「別に普通のことじゃない」
「頭が固いなー、ミケットは。昔から冒険しないもんね」
何となく、レナの『冒険しない』という言葉が胸に引っかかっていた、ある日……。
お父様に言い付けられた用事を済ませ、馬車に向かう途中、突然の強風に煽られた。
「やぁ、どうしたの? こんな賑やかな通りで、キレイな人が泣いているのは見過ごせないな」
「えっ? 違います……目にゴミが入っただけですわ」
「それは痛いね、ちょっと見せて」
「あっ、お待ちくだ……」
急に顔を近づけられ驚いたが、あろうことか美しい顔に見惚れてしまった。
顔に手を添え、私の目にフーッと息を吹きかける。
「もう痛くないかな?」
優しく問いかける声と男性らしい手に、思わず胸が高鳴り、どうしようもなく緊張してきた。
よく見ると、この人懐っこい笑顔の男性が、令嬢から人気を集めているケビン・シェロー伯爵だと気づく。
「シェロー伯爵様! あ、ありがとうございます。馬車を待たせていますので……」
「ハハ、これも何かの縁だと思わないかい? あそこのカフェのスイーツ美味しいんですよ」
いつもの私ならば、すぐに断っていただろう。
(冒険……)
「分かりました、伯爵様の好意を無下にはできませんもの」
「アハハハ、ケビンでいいよ」
(本当に太陽のような笑顔……令嬢たちに人気なのも分かるわ)
未婚の令嬢にスキャンダルはご法度だが、ケビンは上手に配慮してくれた。
そうして私たちは、密かに恋愛を始めたのだった。
ケビンのスマートな振る舞いは心地よく、逞しい男らしさも魅力的で、すぐに本気で好きになった。
もう、自分でハマっていると分かるほどに。
◇
暫く、愛おしい時間が穏やかに過ぎて行った。
ところがある時、ケビンには別に大切な人がいると悟ってしまった。
いつもはどんな私の願いも叶えてくれるのに、たった一度だけ、聞き入れてくれなかった。
「ケビン、その珍しいブレスレットは、職人の手作りかしら? とっても素敵!」
「ああ、これ? どこの職人だったかな……。それより、シュマン通りに新しいカフェができたって」
ケビンは、これ以上この話題を続けたくなさそうに、話を逸らした。
女の勘が働いたのか、ケビンを逃がすまいと話を続けた。
「もう覚えてないなら、手に入れるのは難しいわね。だったら……そのブレスレットが欲しいわ」
今でも頭に響く、低く重いひと言。
「ダメだ」
レナ曰く、そこで止めればいいものを、私は食い下がった。
「それがいいの! どうしてダメなの? いつもは断らないじゃない……何かあるの?」
ケビンは黙り込み、私の顔を見ることもなく立ち去った。
◇
それから、何となくお互い気まずくなったが、ケビンは変わらず『好きだ』と私に囁いた。
でも、私は気付いていた。
ケビンから私に触れなくなったことを……。
ケビンと過ごす時間は息苦しく、心の淋しさにも耐え切れなくなって、自然と会わなくなった。
「もったない! あんなにカッコいいのに、会えるだけでいいじゃない」
レナには何度もそう言われたが、そんな気持ちにはなれなかった。
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