おれがアレを授かりまして

石月煤子

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平凡DKのおれがアレを授かりまして

1-1-はじまり

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※前章「平凡男子のおれがアレを授かりまして」との繋がりはありません
 また別の世界の比良くんと柚木のお話になっています





「あ」


まさか中に誰かいるとは思わずに。

教室のドアを開け放った柚木はその場で凍りついた。



期末テストを来週に控えた十一月の放課後。



帰りがけにコンビニへ寄り道して肉まんを買ったとき、教室にスマホを忘れてきたことに気がついた。

慌てて徒歩通学圏内の学校へ駆け足になって戻って。

高校二年生にしては体力がなく、どっと疲れ、校内ではヨロヨロ遅足になって、本館三階まで手摺りを頼りに階段を上って。

夕方五時過ぎの静寂に包まれた廊下を突き進み、蛍光灯の明かりが消されていた自分の教室のドアをガラリと開いてみれば。


男子生徒と女子生徒が二人、向かい合って立っていた。


男子生徒は柚木のクラスメートの比良だった。


スラリとした長身で黒短髪。
キリッと凛々しく整った顔立ち。
ナチュラルな上がり眉が男前っぷりに磨きをかけている。


弓道部所属、男子個人戦で優勝経験あり、いつだって背筋ピーン、上級ルックスのみならず性格も穏やかで優しい、そして成績優秀、正に非の打ちどころなし、つまり学校一人気のある生徒だった。


そんな比良の前で、俯き、肩を震わせ、女子生徒は今にも泣き出しそうだった。


……あ、これって、もしかして。


女子生徒は俯いたまま、どんっ、ドアのところで棒立ちになって障害物でしかなかった柚木にぶつかりつつ廊下へ走り去っていった。


鼻先でふんわり散ったバニラが強めのボディミスト。


……ど、どないしよ……。


気まずい場面に遭遇し、何故か脳内で関西弁になって焦っている柚木に、おもむろに比良の声が届いた。


「ごめん、柚木」


柚木はパチパチ瞬きした。


「驚かせて悪かった」
「え……あ……ううん……おれの方こそ……」
「何か忘れ物か?」


スクールバッグの取っ手を握り締め、まだドアのところで立ち往生している柚木に柔らかく笑いかけ、察しのいい比良は黒板前から移動した。


教室後方、横列のほぼ真ん中に位置する柚木の席へ。


「う、うん、スマホ忘れちゃって」


さすがだ、比良くん。

勘がよくて、モブ中のモブみたいなおれの席まで把握してるなんて、心にゆとりがありまくりなんだろうな。


「よかった、あった~」
「何か大事な連絡でもあるのか?」
「えっ? ないないない、テスト勉強の息抜きにゲームしたかっただけ」
「彼女からメールとか」
「ははは……カノジョなんかいないし……ははははは……」


あれ、ていうか。
一年も二年も同じクラスだったけど。


おれは地味グループ、比良くんは意識高い系運動部と大体つるんでる、というより意識高い系運動部の皆様が比良くんに毎回自然と吸い寄せられてってる。


同じクラスにいても属する世界が違ってた。

だから、こんな風に比良くんと話(はなし)するの、初めてかもしれない。


「それ、肉まんか?」


学校サイドが柄物を禁止しているため、比良はオフホワイトの無地セーターを着ていた。

第一ボタンが外された制服シャツ。

男子全員同じなのに比良の足だけ特別に長く見えるチャコールグレーのズボン。

新品並みに綺麗な上履き。


「今時期、買いたくなるよな」


身だしなみも清潔感があってきちんとしている比良をそばにして柚木は「う」となる。


教室暗いのに比良くん眩しい……。


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