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掃除時間になり、伊吹生はキャンパスの片隅にあるごみ収集場へ一人向かった。
無人のグラウンドを強風が吹き抜けていく。
ごみ捨てを終えた伊吹生はズボンのポケットに両手を突っ込み、大股で校舎へ戻った。
「甫だ」
「いつも一人か、ベータかオメガとつるんでるよな。弱者の前では強者気取りとか情けな」
こちらに聞かせる意図丸出しの耳慣れた会話。
何とも思わない伊吹生は平然とスルーした。
他校と比べて「第二の性」の階層が強調された学びの空間。
最も如実にしているのは、学園の頂点に君臨する、他の追随を許さない深黒のアルファ――。
「ッ……!?」
伊吹生はギクリとした。
いきなり空き教室から伸びてきた手に片腕を掴まれたかと思えば、抵抗の余地なく引き摺り込まれた。
多くの生徒や教員が行き交う廊下、ふとした拍子に生じた死角で起こった、ほんの一瞬の出来事。
「ンッ……ぅ……ッ」
あっという間に死角は崩れ去り、何事もなかったように生徒の行き来が再開された廊下。
扉が細く開かれたままの空き教室。
そこで紡がれる微かな断末魔は校内のざわめきに容易く掻き消された。
「んんッ……ん……ン」
強張る唇を強引に抉じ開けて口内を犯す音色も。
舌に舌が絡みつき、唾液が交わり、ねっとりと糸を引く卑猥な水音も。
強者が弱者を嬉々として嬲るようなキスに伊吹生は……耐える他なかった。
「――ずっと我慢してた」
伊吹生には長い責め苦に思えたが、実際には一分にも満たない束の間のキスだった。
「君があんまりにも僕を煽るから」
伊吹生は目の前に迫る闇夜色の双眸を睨みつける。
「……学校ではやめろって言ったよな」
「だから。朝から煽られっぱなしで、ずっと我慢してたんだよ。むしろ今までよくお利口にしてたと褒めてほしいくらい」
「どこがお利口だ……」
壁に両手を縫い付けられ、身動きがとれずに歯痒そうにしている伊吹生に、彼はうっとり微笑する。
「それとも、伊吹生君、確信犯だったのかな」
制服を規則正しく着用した凌貴の発言に伊吹生は限界まで眉根を寄せた。
「今日介と彼の妹からチョコレートを貰っていたね」
「本当に盗み見、盗み聞きが得意だな、お前は」
「あの義理の姉にも貰ったみたいだね」
「朝一から聞き耳立ててたのか。心底、胸クソ悪い奴」
「君は僕を挑発するのが本当に得意だね」
身長181センチの凌貴は、自分より5センチ低い伊吹生の目を間近に覗き込んできた。
「放課後、僕のマンションにおいで」
「……」
「約束だよ」
捕らえていた伊吹生の両手首を解放すると、凌貴は速やかに空き教室を出ていった。
残された伊吹生は満遍なく濡れた唇を乱暴に拭う。
「……クソ……」
(俺はアイツに抗えない)
無人のグラウンドを強風が吹き抜けていく。
ごみ捨てを終えた伊吹生はズボンのポケットに両手を突っ込み、大股で校舎へ戻った。
「甫だ」
「いつも一人か、ベータかオメガとつるんでるよな。弱者の前では強者気取りとか情けな」
こちらに聞かせる意図丸出しの耳慣れた会話。
何とも思わない伊吹生は平然とスルーした。
他校と比べて「第二の性」の階層が強調された学びの空間。
最も如実にしているのは、学園の頂点に君臨する、他の追随を許さない深黒のアルファ――。
「ッ……!?」
伊吹生はギクリとした。
いきなり空き教室から伸びてきた手に片腕を掴まれたかと思えば、抵抗の余地なく引き摺り込まれた。
多くの生徒や教員が行き交う廊下、ふとした拍子に生じた死角で起こった、ほんの一瞬の出来事。
「ンッ……ぅ……ッ」
あっという間に死角は崩れ去り、何事もなかったように生徒の行き来が再開された廊下。
扉が細く開かれたままの空き教室。
そこで紡がれる微かな断末魔は校内のざわめきに容易く掻き消された。
「んんッ……ん……ン」
強張る唇を強引に抉じ開けて口内を犯す音色も。
舌に舌が絡みつき、唾液が交わり、ねっとりと糸を引く卑猥な水音も。
強者が弱者を嬉々として嬲るようなキスに伊吹生は……耐える他なかった。
「――ずっと我慢してた」
伊吹生には長い責め苦に思えたが、実際には一分にも満たない束の間のキスだった。
「君があんまりにも僕を煽るから」
伊吹生は目の前に迫る闇夜色の双眸を睨みつける。
「……学校ではやめろって言ったよな」
「だから。朝から煽られっぱなしで、ずっと我慢してたんだよ。むしろ今までよくお利口にしてたと褒めてほしいくらい」
「どこがお利口だ……」
壁に両手を縫い付けられ、身動きがとれずに歯痒そうにしている伊吹生に、彼はうっとり微笑する。
「それとも、伊吹生君、確信犯だったのかな」
制服を規則正しく着用した凌貴の発言に伊吹生は限界まで眉根を寄せた。
「今日介と彼の妹からチョコレートを貰っていたね」
「本当に盗み見、盗み聞きが得意だな、お前は」
「あの義理の姉にも貰ったみたいだね」
「朝一から聞き耳立ててたのか。心底、胸クソ悪い奴」
「君は僕を挑発するのが本当に得意だね」
身長181センチの凌貴は、自分より5センチ低い伊吹生の目を間近に覗き込んできた。
「放課後、僕のマンションにおいで」
「……」
「約束だよ」
捕らえていた伊吹生の両手首を解放すると、凌貴は速やかに空き教室を出ていった。
残された伊吹生は満遍なく濡れた唇を乱暴に拭う。
「……クソ……」
(俺はアイツに抗えない)
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