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『それはマナー違反です。誰かに言われないとわかりませんか?』
凌貴に注意された文化祭の来客は、人目に大いに触れる場所で恥をかかされて、相当根に持ったらしい。
その場では一旦退いたが、賑やかな学内で一人でいた凌貴の元へ、人気のない最上階まで彼を誘い込むのに成功した。
『いいとこのご子息様みたいだけど、ちょっと調子に乗り過ぎちゃったかな?』
一見してこぎれいな容姿で身なりに気を遣う大学生グループに見えたが、殊の外プライドが高く、悪質であったようだ。
『痛い目に遭いたくなかったら、とりあえず土下座して謝ってくれる?』
グループの一人が隠し持っていた小型ナイフを突き出してきた。
屋上自体は立ち入り禁止で閉め切られた扉の前。
肌寒く狭いフロア。
年上の男らに囲まれていた凌貴は、ナイフを持った人物の剥き出しの急所となる喉仏を片手で捕らえるなり、瞬時に潰した。
俊敏で無駄のない身のこなしだった。
一秒の躊躇もなく、正確に冷静に外敵を仕留めてみせた。
落ちたナイフを拾い、仕舞われていた刃を手慣れた様子で凌貴が引き出してみせれば、彼等はすっかり怯えて我先にと逃げていった。
伊吹生は階下の踊り場から一部始終を窺っていた。
質の悪い来客が別の生徒に手を出さないか、彼等をこっそりマークしていたのだ。
今日介を傷つけ、他のオメガもとことん足蹴にする凌貴のことは嫌いだった。
しかし屋上へ連れていかれるのを目の当たりにして放置はできなかった。
何かあったら仲裁に入るつもりでいたのだが……。
(……狼と駄犬の群れみたいだった)
伊吹生が階段を上って近づけば、刃先をなぞっていた凌貴に悠然と出迎えられた。
『護身術だよ。自分の身を守るために仕方なく、ね』
凌貴は有名なホテルグループの創業者一族の直系にあった。
『しばらく声は出せないだろうけど』
大丈夫か、と気遣うのも妙な気がした。
どう見ても凌貴の圧勝で雑魚を追い払ったようにしか思えなかった。
そもそも普段は取り巻きを侍らせているというのに、敢えて一人でいたのは、あのまま引き下がりそうになかった外敵を迎え撃つ気でいたのでは――。
『彼等が陰気なオメガに言い寄っているのを止めに入ったのも、仕方なく、だよ。これ以上、君の信者を増やしたくなくて』
伊吹生は少しばかり驚いた。
学園の頂点に立つ凌貴にライバル視されているとは夢にも思わなかった。
競う気もない伊吹生にとっては、ただ鬱陶しいだけで。
一切の手加減もなしに微笑みながら相手の喉を潰した凌貴が不気味でもあり、足早に退散しようとした。
『先生には黙っとく。アイツ等が通報したら元も子もないけどな』
『本当? 誰にも言わない? 今日介にも?』
階段を下りようとしていた伊吹生は振り返る。
ナイフを携えて微笑む凌貴と目が合い、反射的に背筋がゾクリと震えた。
『今日介の妹にも? クラスメートの目障りで耳障りなあのベータにも?』
『……誰にも言わない』
『血の繋がっていない義理の姉にも?』
『……なんで菖のことを――』
『言葉だけじゃあ、信用できないな』
すぐ目の前までやってきた凌貴に視線を絡めとられる。
血糊が映えそうな滑らかな真珠色の手に頬を撫でられた。
『僕の言うことを何だって聞いてくれるのなら、伊吹生君の周りの人間には手を出さないであげる』
……どうしてだ。
……なんで俺が追い込まれてるんだ。
『僕の奴隷になって、伊吹生君』
凌貴に注意された文化祭の来客は、人目に大いに触れる場所で恥をかかされて、相当根に持ったらしい。
その場では一旦退いたが、賑やかな学内で一人でいた凌貴の元へ、人気のない最上階まで彼を誘い込むのに成功した。
『いいとこのご子息様みたいだけど、ちょっと調子に乗り過ぎちゃったかな?』
一見してこぎれいな容姿で身なりに気を遣う大学生グループに見えたが、殊の外プライドが高く、悪質であったようだ。
『痛い目に遭いたくなかったら、とりあえず土下座して謝ってくれる?』
グループの一人が隠し持っていた小型ナイフを突き出してきた。
屋上自体は立ち入り禁止で閉め切られた扉の前。
肌寒く狭いフロア。
年上の男らに囲まれていた凌貴は、ナイフを持った人物の剥き出しの急所となる喉仏を片手で捕らえるなり、瞬時に潰した。
俊敏で無駄のない身のこなしだった。
一秒の躊躇もなく、正確に冷静に外敵を仕留めてみせた。
落ちたナイフを拾い、仕舞われていた刃を手慣れた様子で凌貴が引き出してみせれば、彼等はすっかり怯えて我先にと逃げていった。
伊吹生は階下の踊り場から一部始終を窺っていた。
質の悪い来客が別の生徒に手を出さないか、彼等をこっそりマークしていたのだ。
今日介を傷つけ、他のオメガもとことん足蹴にする凌貴のことは嫌いだった。
しかし屋上へ連れていかれるのを目の当たりにして放置はできなかった。
何かあったら仲裁に入るつもりでいたのだが……。
(……狼と駄犬の群れみたいだった)
伊吹生が階段を上って近づけば、刃先をなぞっていた凌貴に悠然と出迎えられた。
『護身術だよ。自分の身を守るために仕方なく、ね』
凌貴は有名なホテルグループの創業者一族の直系にあった。
『しばらく声は出せないだろうけど』
大丈夫か、と気遣うのも妙な気がした。
どう見ても凌貴の圧勝で雑魚を追い払ったようにしか思えなかった。
そもそも普段は取り巻きを侍らせているというのに、敢えて一人でいたのは、あのまま引き下がりそうになかった外敵を迎え撃つ気でいたのでは――。
『彼等が陰気なオメガに言い寄っているのを止めに入ったのも、仕方なく、だよ。これ以上、君の信者を増やしたくなくて』
伊吹生は少しばかり驚いた。
学園の頂点に立つ凌貴にライバル視されているとは夢にも思わなかった。
競う気もない伊吹生にとっては、ただ鬱陶しいだけで。
一切の手加減もなしに微笑みながら相手の喉を潰した凌貴が不気味でもあり、足早に退散しようとした。
『先生には黙っとく。アイツ等が通報したら元も子もないけどな』
『本当? 誰にも言わない? 今日介にも?』
階段を下りようとしていた伊吹生は振り返る。
ナイフを携えて微笑む凌貴と目が合い、反射的に背筋がゾクリと震えた。
『今日介の妹にも? クラスメートの目障りで耳障りなあのベータにも?』
『……誰にも言わない』
『血の繋がっていない義理の姉にも?』
『……なんで菖のことを――』
『言葉だけじゃあ、信用できないな』
すぐ目の前までやってきた凌貴に視線を絡めとられる。
血糊が映えそうな滑らかな真珠色の手に頬を撫でられた。
『僕の言うことを何だって聞いてくれるのなら、伊吹生君の周りの人間には手を出さないであげる』
……どうしてだ。
……なんで俺が追い込まれてるんだ。
『僕の奴隷になって、伊吹生君』
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