目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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2-1-放課後

キャップを目深に被った伊吹生は、自宅から徒歩二十分の道程を俯きがちに進んだ。

「ああ。一度帰ったんだね」

光沢を放つフローリング。高い天井。メゾネットタイプで上階に続くスケルトン階段。
一人暮らしには持て余しそうなL字型のレザーソファがリビングのほぼ半分を占領している。
天井のシーリングライトには淡い光が点っていた。

「貰ったチョコレートはどうしたの?」

制服姿のままの凌貴に問われて伊吹生は眼光を尖らせる。

「家に置いてきた。ここに持ってくるわけないだろ。グチャグチャにされる」
「近くに焼却炉があれば、一斉に放り込んで灰にできたんだけど」
「……」
「一度に纏めて廃棄処分。ああ、でもみんなバラバラにしないと炉に入りきらないかな」
「……お前、何の話をしてるんだ」

部屋の真ん中で棒立ちになった伊吹生を、凌貴は後ろから抱きしめた。

「ここへ来るとき、いつもキャップを被っているのは変装の意味もこめて?」

マウンテンパーカーにトレーナー、ジーンズを履いた伊吹生は、普段はしない舌打ちをして返事を濁す。

「そうだね。周囲には秘密の関係でいたいって、君が望んだ」
「紛らわしい言い方やめろ」
「ふぅん。それなら明日にでも教室で発表しようか。僕達、付き合ってますって」
「付き合ってない」

頑なに反抗的な態度でいる伊吹生に凌貴はクスクスと笑う。
彼の息遣いがずっと首筋に触れていて伊吹生は唇をきつく噛んだ。

(逃げ出したい)

でも、逃げ出したら、拒んだら、凌貴が何をするか。

拓斗、今日介と心春、姉の菖に危害を加えるとほのめかされた手前、下手に抵抗できない。

文化祭の日、正当防衛にしては愉しげだった凌貴の狂気、残虐性を目撃している伊吹生からすれば尚更だった。

(誰にも言えない)

言えば、その相手が凌貴に傷つけられそうで――。

「好きだよ」

不意に鼓膜に注ぎ込まれた告白。
伊吹生は目を見開かせる。

「俺は……嫌いだ、誰よりも、一番」
「それもそれで光栄だけど」

抱擁にぐっと力が増す。

「僕は誰よりも一番、君のこと、グチャグチャにしてみたい」
「ッ……ホラー映画の殺人鬼みたいに俺を切り刻みたいのか」
「そういう意味じゃなくて」

長い指が下唇に触れたかと思えば、おもむろに口内を訪れて、伊吹生は顔を顰めた。

舌の上を執拗になぞられる。
否応なしに湧いてきた唾液を掻き回される。
下顎へと滴れば後ろから大胆に舐め取られた。

「何も考えられなくなるくらいに、君の頭の中、グチャグチャにしてみたい」

中指と人差し指が唇の外と内をゆっくりと行き来する。
何とも言えない刺激を与えられて伊吹生は呻吟した。

放課後の逢瀬は初めてじゃない。
十月の文化祭以来、定期的に続けられている。
学内でも無理やり強要されたことが何度かあった。

「ふ、っ」

指と指で挟み込まれた舌を上下からじっくり擦り立てられて伊吹生はつい声を洩らした。
湧き出す唾液を止める術などなく、さらにだらしなく濡れていく口許。

「んっ……ぅぅ……ッ」

喉奥から洩れる声に不本意な切なさが滲み、伊吹生は、悔しさの余り凌貴の指に歯を立てた。

怒るどころか凌貴は愉悦する。
さらに咬みつかせるように喉奥へ指を突っ込んできた。

「んッ……!?」
「いいよ、噛んでも。何なら食い千切ってもいいよ」
「ん、ぐ……ッ……ンぅ、ぅ……ッ」
「チョコレートの代わりに僕の指、君にあげようか」

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