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地下のバーに響き渡った悲鳴。
「このクソガキ、マジかよ」
「舐めやがって」
「ぶっ殺してやるッ」
ベータの面々は殺気立った。
武装して威圧しているにもかかわらず、人数が多い自分達よりも先に堂々と凶器を振るわれて、コケにされたも同然だ。
人質の伊吹生や心春ではなく、泣き叫ぶアルファのリーダー格を冷ややかに見下ろす凌貴に一斉に襲い掛かろうとした。
「止まれ」
野太い一声で集団暴行を未然に防いだのは意外にも彼等のボスであった。
「ソッチのアルファは新しい取引相手だ、手ぇ出すな」
予想外の言葉に部下は驚愕した
アルファの三人も同様に目を剥いた。
「は? おい、どーいうこと? オレらが取引相手だろ?」
「金払っただろーが!」
革靴を貫いて足の甲に突き立てられたナイフを抜くこともできず、床を転げ回るリーダー格におろおろしつつ、アルファの二人は無様に喚く。
凌貴から渡されたスクールバッグの中を覗き込んでいたオーナーは答えた。
「お前らは百万。ソッチのアルファはその十倍払った」
「は……?」
「じゅ、十倍って……」
「帰っていいぞ、ソッチのアルファ。ガキ二人連れて帰れ。コッチのアルファ三人はまだ用があるから残れ」
無意識に息を止めていた伊吹生は、凌貴に肩を撫でられ、呼吸を取り戻す。
「帰ろう、伊吹生君」
凌貴はテーブルに放置されていた別のナイフをいつの間に手にしていた。
ベータがギクリとする中、伊吹生の結束バンドを切断すると、置かれていた場所に律儀に戻した。
「ちょっと待て、これはどういう――」
「後で説明するよ」
「ッ……心春も、一緒に……」
伊吹生がそう言えば。
凌貴は心春の目隠しも結束バンドもそのままに、速やかに難なくソファから彼女を抱き上げた。
「!?」
「しー。喚いたり暴れたりしたら落とすよ。打ち所が悪くて再起不能にでもなったら今日介が悲しむだろうね」
「ッ……ッ……ッ」
ベータの男達は不服そうにしながらもボスの命令に従って手を出してこない。
片足から血を流して呻くアルファと両隣の二人は途方に暮れているようだった。
「ああ、そうだ」
心春を抱き抱えた凌貴は店の出入り口の前で振り返る。
「伊吹生君の頬を叩いたのは誰ですか?」
「お前が足をブッ刺したアルファだ」
オーナーが即答し、呻いていたリーダー格はヒッと悲鳴を洩らす。
これ以上の流血沙汰は回避したく、伊吹生は反射的に凌貴の前に立ち塞がった。
「そう。それなら足じゃなくて目にすればよかった」
皆の記憶に刻まれそうな凄艶たる微笑を湛えた凌貴と共に、泥濘の如き地下を後にした。
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