目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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5-1-新学期

すでに花は散って春風に葉桜が揺れる四月初旬。

「またイブキと同じクラスでよかった~!!」

伊吹生は高校三年生になった。
新しい教室に行けば拓斗にすぐさま抱き着かれ、弟みたいなクラスメートに自然と笑みを零す。

「高校最後の一年、拓斗と一緒に過ごせて俺も嬉しい」
「わ……わぁ~~……どしたの、イブキ、なんか珍しく機嫌よくない?」
「いつもと変わらないだろ」

不思議そうに見上げてくる拓斗の茶髪頭を伊吹生はよしよしと撫で続ける。

(これこそ理想のクラス替えだ)

新しい教室にいる生徒は過半数がベータを占めていた。
そこに凌貴の姿はない。
彼と違うクラスになって幸先がいいと、伊吹生は確かに浮かれていた。




「心春ちゃん、高校生になってどんな? なんか変わった?」
「別に」
「え、前にもまして素っ気ない! 高校生になって反抗期始まっちゃった?」
「拓斗センパイ、お父さんと同じこと言ってる」

学年が変わって初めて迎えた通常の昼休み、伊吹生は今まで通り、拓斗・心春とカフェテリアでランチをとっていた。

「イブキ先輩は? 最近どんな感じ?」
「俺もそこまで変わらない。受験のことは念頭においてるが」
「夜、寝れてる?」
「心春は眠れてないのか?」
「私のことはいいの。イブキ先輩、体調とか崩してない?」
「特には」

テーブルを挟んで会話する伊吹生と心春の二人から漂う一抹の緊張感に拓斗はゴクリと喉を鳴らす。

「あの、今からカウンセリングでも始まる感じですか……?」

拓斗には伝えていなかった。
心春の中学校卒業式の前日に起こった出来事を。

『そういえば貴方にいつか返そうと思っていました。文化祭の日に残していった、この忘れ物』

あの地下のバー「scary」で凌貴の狂気を改めて突きつけられて心春はより一層彼への警戒心を強めているようだった。

「忽那凌貴とクラスが別々になったって聞いて、ちょっと安心したけど。しかも始業式から休んでるんだってね、アイツ」

始業式から数日が経過したが確かに凌貴は一度も学校へ来ていなかった。

「あー。なんか家庭の事情で休んでるらしーね」
「もう一生来なくていいのに」
「なぁ、心春は自分のことに集中してくれ。高校生活、始まったばかりなんだから」
「うん……」

持参のお弁当になかなか箸をつけようとしない心春と、背筋をすっと伸ばした姿勢で味噌汁を飲む伊吹生を交互に忙しげに見、拓斗は言う。

「二人、まさか春休み中に付き合い始めたとか!?」

伊吹生はどうしてそうなるのかと首を傾げ、顔を真っ赤にした心春は拓斗をジロリと睨んだ。

「拓斗センパイ、三年生になっても全っ然成長が見られないのはどうかと思う」
「え!? ほんとに付き合ってるの!?」
「そんなわけない!!」
「二人とも、声が大きい」

壁際のテーブル席で同級生と後輩を軽く窘めていた伊吹生だが。
ふと首筋に覚えた質の悪い悪寒に眉を顰めた。

「松森拓斗君と高岡心春さんは本当に伊吹生君と仲がいいね」

振り返れば凌貴が立っていた。
ダークカラーに統一された制服を相も変わらず規則正しく着こなし、片手にはトレイを携えていた。

「凌貴」

同席していた拓斗と心春、周囲にいた生徒達の視線を一身に浴びた凌貴は伊吹生にだけ微笑みかける。

「席が空いていなくて。一緒に食べてもいいかな」
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