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凌貴は自家用車を待たせていた。
黒塗りの高級車に乗り込めば寡黙な運転手は休日で賑わう市街地を裏通りなど活用して快速に前進し、品のいい落ち着いた街へ。
大通りで車を降りると凌貴の案内で閑静な小路に入った。
趣きのある小料理屋、古民家をリノベーションしたイタリアンなど、雰囲気のある店が軒を連ねている。
「ここだよ」
しっとりと風情のある黒塀に竹灯籠、涼しげな麻の暖簾を潜って、隠れ家風の古めかしい三階建ての会席料理店に凌貴は入店した。
「――どうもはじめまして、凌貴の兄です」
天井には和紙のペンダントライト、壁には鬼灯を描いた掛け軸。
橙色の明かりに包まれた三階突き当たりの個室の中、伊吹生の兄の時成は四人掛けのテーブルにすでに着いていた。
「弟の凌貴がいつもお世話になっています」
スラリとした体の線に沿ったスーツ。
食事の席でも毅然と締められたネクタイ。
さり気なく細やかにセットされた黒髪。
「忽那ホテル&リゾート」主要子会社の副社長を務める長男・忽那時成は現在二十七歳、弟に負けず劣らずの秀でた容姿を持っていた。
「先日はご迷惑をおかけして申し訳ありません。でも、おかげで助かりました。ありがとうございました」
自己紹介した後に伊吹生が頭を下げれば、わざわざ立ち上がった時成に「元はと言えば弟が恨みを買ったせいで招いたことです。君を巻き込んでしまってすみませんでしたね」とスマートに詫びられた。
深い切れ込みの眦はアイラインが映えそうだ。
知的で品の良い細面に銀縁眼鏡がよく似合っている。
言われなくともアルファ性だというのはひしひしと伝わってきた。
(弟と違って兄さんの方は常識があるみたいだ)
だけどこの人はどこまで知っていて、どこまで許容しているのか。
俺と凌貴の関係や、地下のバーでの出来事、ナイフで相手の足を刺したこと……。
「……で、そちらの子は?」
「あわわ……」
「松森拓斗君。僕と同級生で伊吹生君と仲良しのベータです、時成兄さん」
伊吹生は時成への謝罪が済めば食事をせずに帰るつもりだった。
しかし凌貴にしつこく誘われ、時成の前で拒み続けるのも失礼かと、しぶしぶランチに同席する羽目になった。
「うわぁ、なにこれ、めっちゃくちゃうま~……!」
最初は緊張していた拓斗が丁寧に盛られた料理を思いの外味わっていて、ほっとする時間もあったが。
「拓斗君に対しては友達というより保護者みたいなスタンスなのかな、伊吹生君は」
斜向かいに座る凌貴に揶揄されて、やはり歯痒さが次から次に湧いてきた。
(本当にどういうつもりで拓斗まで連れてきたんだ、コイツは)
魂胆が読めない凌貴への意趣返しとして、伊吹生は、兄の時成に直談判することにした。
「最近、凌貴……君が自分の動向を逐一チェックしているようなんです」
「逐一ですか」
「はい。まるでこちらの行動が筒抜けになっているみたいで不思議に思っています」
「凌貴、どういうことでしょうか」
兄に尋ねられても凌貴は知らん顔で小鉢を食している。
「正直言うと見られている感覚が時々あって。もしかしたら凌貴……君が誰かを使って自分を監視しているのかもしれません」
「そんなわけない」
知らん顔をしていたはずの凌貴にすぐさま否定された。
伊吹生はそれ以上彼の迷惑行為について触れず、拓斗がぎこちない箸遣いで美味しそうに食事するのを見守った。
黒塗りの高級車に乗り込めば寡黙な運転手は休日で賑わう市街地を裏通りなど活用して快速に前進し、品のいい落ち着いた街へ。
大通りで車を降りると凌貴の案内で閑静な小路に入った。
趣きのある小料理屋、古民家をリノベーションしたイタリアンなど、雰囲気のある店が軒を連ねている。
「ここだよ」
しっとりと風情のある黒塀に竹灯籠、涼しげな麻の暖簾を潜って、隠れ家風の古めかしい三階建ての会席料理店に凌貴は入店した。
「――どうもはじめまして、凌貴の兄です」
天井には和紙のペンダントライト、壁には鬼灯を描いた掛け軸。
橙色の明かりに包まれた三階突き当たりの個室の中、伊吹生の兄の時成は四人掛けのテーブルにすでに着いていた。
「弟の凌貴がいつもお世話になっています」
スラリとした体の線に沿ったスーツ。
食事の席でも毅然と締められたネクタイ。
さり気なく細やかにセットされた黒髪。
「忽那ホテル&リゾート」主要子会社の副社長を務める長男・忽那時成は現在二十七歳、弟に負けず劣らずの秀でた容姿を持っていた。
「先日はご迷惑をおかけして申し訳ありません。でも、おかげで助かりました。ありがとうございました」
自己紹介した後に伊吹生が頭を下げれば、わざわざ立ち上がった時成に「元はと言えば弟が恨みを買ったせいで招いたことです。君を巻き込んでしまってすみませんでしたね」とスマートに詫びられた。
深い切れ込みの眦はアイラインが映えそうだ。
知的で品の良い細面に銀縁眼鏡がよく似合っている。
言われなくともアルファ性だというのはひしひしと伝わってきた。
(弟と違って兄さんの方は常識があるみたいだ)
だけどこの人はどこまで知っていて、どこまで許容しているのか。
俺と凌貴の関係や、地下のバーでの出来事、ナイフで相手の足を刺したこと……。
「……で、そちらの子は?」
「あわわ……」
「松森拓斗君。僕と同級生で伊吹生君と仲良しのベータです、時成兄さん」
伊吹生は時成への謝罪が済めば食事をせずに帰るつもりだった。
しかし凌貴にしつこく誘われ、時成の前で拒み続けるのも失礼かと、しぶしぶランチに同席する羽目になった。
「うわぁ、なにこれ、めっちゃくちゃうま~……!」
最初は緊張していた拓斗が丁寧に盛られた料理を思いの外味わっていて、ほっとする時間もあったが。
「拓斗君に対しては友達というより保護者みたいなスタンスなのかな、伊吹生君は」
斜向かいに座る凌貴に揶揄されて、やはり歯痒さが次から次に湧いてきた。
(本当にどういうつもりで拓斗まで連れてきたんだ、コイツは)
魂胆が読めない凌貴への意趣返しとして、伊吹生は、兄の時成に直談判することにした。
「最近、凌貴……君が自分の動向を逐一チェックしているようなんです」
「逐一ですか」
「はい。まるでこちらの行動が筒抜けになっているみたいで不思議に思っています」
「凌貴、どういうことでしょうか」
兄に尋ねられても凌貴は知らん顔で小鉢を食している。
「正直言うと見られている感覚が時々あって。もしかしたら凌貴……君が誰かを使って自分を監視しているのかもしれません」
「そんなわけない」
知らん顔をしていたはずの凌貴にすぐさま否定された。
伊吹生はそれ以上彼の迷惑行為について触れず、拓斗がぎこちない箸遣いで美味しそうに食事するのを見守った。
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