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「君の嫌がることをするのが楽しくて」
週明けの昼休みだった。
「僕から遠ざけたがっている拓斗君を引き摺り込んで伊吹生君の気持ちを逆撫でしたかったんだ」
拓斗と心春はいなかった。
カフェテリアの日当たりのいいソファ席、伊吹生は凌貴と二人で食事をとっていた。
「どうしてそんな胸クソ悪い真似をするのか聞いてもいいか」
凌貴の悪質なイヤガラセに今更立腹してもいられずに冷静に伊吹生が問えば彼は微笑交じりに答えた。
「伊吹生君の不機嫌そうな顔が好きだから」
「お前の感性、歪み過ぎだ」
「眉間に皺を寄せて僕を睨んでくるの、正直堪らない」
向かい側に座る凌貴は不意に前屈みになると、背筋を伸ばして着席していた伊吹生に過剰に顔を近づけ、囁く。
「僕の下で為す術もなく喘いでいるときの君の顔も大好き」
角度によってはキスしているように見えなくもなく。
すぐそばで起こったどよめきが否応なしに伝わってきて伊吹生は頭を抱えたくなった。
(誰かこの悪魔をどうにかしてくれ)
いや、自分で何とかしなければ。
凌貴の狂った悪ふざけの被害者になるのは俺だけでいい……。
「ところで伊吹生君はCaetlaを知ってる?」
伊吹生はソファの背もたれに背中を預けた凌貴を怪訝そうに見やった。
「……人気のインフルエンサーだろ」
「彼の配信は見た?」
「彼? 女性じゃないのか?」
急な話題の転換に伊吹生が当惑していたら、凌貴は特に何も言わず、そのまま立ち上がってテーブルを離れようとした。
「俺を監視するのはやめろ」
伊吹生の懇願を無情にも無視して凌貴はカフェテリアから去っていった。
「なー、イブキ、凌貴サマにまた公開チューされたの?」
「拓斗、Caetlaって女性じゃなくて男なのか?」
「はいっ? いきなり何の話?」
「美少女だっていうから、てっきり女性だと思ってたんだ」
「いや、女子ですけど? どっからどう見ても女子! めっちゃくちゃ可愛い!」
「見せてくれ」
「自分のスマホで見れば!?」
「最近、俺の、調子が悪くて」
「ショップ行けば!?」
予鈴が鳴り渡り、昼休み終了が迫って教室や廊下が生徒の移動で慌ただしくなる中、伊吹生はポケットに入れていた自分のスマホを覗き込む。
「やたら動作が重いんだ」
「え~、ウィルス感染してんじゃないの?」
机の横に引っ掛けてあるスクールバッグからスマホを取り出した拓斗は、手慣れた風に素早く操作すると、伊吹生に向かって画面を掲げてみせた。
「これがCaetla!!」
「あ、松森君もCaetla好きなんだ? 私も好きー」
「お姫様みたいでかわいいよね」
「最近、理想の王子様見つけたってはしゃいでて愛おしかった」
「今のおうちに引っ越してから毎日ツイてるんだって、いいなー」
五限担当の教師がやってきてCaetlaの話はそこで途切れた。
席に着いた伊吹生はテキストやノートの準備をしつつ頭を捻る。
まるで知らないCaetlaについてどうして凌貴は尋ねてきたのか。
女性と認知されているのに男性と言い表したのか。
何か意味があるはずだ……。
(全く知らない……そうだよな?)
髪もメークも服もふんだんに仕上がっていた美少女インフルエンサー。
画面越しで初見であるはずのCaetlaの笑顔に伊吹生の思考はしばし囚われるのだった。
週明けの昼休みだった。
「僕から遠ざけたがっている拓斗君を引き摺り込んで伊吹生君の気持ちを逆撫でしたかったんだ」
拓斗と心春はいなかった。
カフェテリアの日当たりのいいソファ席、伊吹生は凌貴と二人で食事をとっていた。
「どうしてそんな胸クソ悪い真似をするのか聞いてもいいか」
凌貴の悪質なイヤガラセに今更立腹してもいられずに冷静に伊吹生が問えば彼は微笑交じりに答えた。
「伊吹生君の不機嫌そうな顔が好きだから」
「お前の感性、歪み過ぎだ」
「眉間に皺を寄せて僕を睨んでくるの、正直堪らない」
向かい側に座る凌貴は不意に前屈みになると、背筋を伸ばして着席していた伊吹生に過剰に顔を近づけ、囁く。
「僕の下で為す術もなく喘いでいるときの君の顔も大好き」
角度によってはキスしているように見えなくもなく。
すぐそばで起こったどよめきが否応なしに伝わってきて伊吹生は頭を抱えたくなった。
(誰かこの悪魔をどうにかしてくれ)
いや、自分で何とかしなければ。
凌貴の狂った悪ふざけの被害者になるのは俺だけでいい……。
「ところで伊吹生君はCaetlaを知ってる?」
伊吹生はソファの背もたれに背中を預けた凌貴を怪訝そうに見やった。
「……人気のインフルエンサーだろ」
「彼の配信は見た?」
「彼? 女性じゃないのか?」
急な話題の転換に伊吹生が当惑していたら、凌貴は特に何も言わず、そのまま立ち上がってテーブルを離れようとした。
「俺を監視するのはやめろ」
伊吹生の懇願を無情にも無視して凌貴はカフェテリアから去っていった。
「なー、イブキ、凌貴サマにまた公開チューされたの?」
「拓斗、Caetlaって女性じゃなくて男なのか?」
「はいっ? いきなり何の話?」
「美少女だっていうから、てっきり女性だと思ってたんだ」
「いや、女子ですけど? どっからどう見ても女子! めっちゃくちゃ可愛い!」
「見せてくれ」
「自分のスマホで見れば!?」
「最近、俺の、調子が悪くて」
「ショップ行けば!?」
予鈴が鳴り渡り、昼休み終了が迫って教室や廊下が生徒の移動で慌ただしくなる中、伊吹生はポケットに入れていた自分のスマホを覗き込む。
「やたら動作が重いんだ」
「え~、ウィルス感染してんじゃないの?」
机の横に引っ掛けてあるスクールバッグからスマホを取り出した拓斗は、手慣れた風に素早く操作すると、伊吹生に向かって画面を掲げてみせた。
「これがCaetla!!」
「あ、松森君もCaetla好きなんだ? 私も好きー」
「お姫様みたいでかわいいよね」
「最近、理想の王子様見つけたってはしゃいでて愛おしかった」
「今のおうちに引っ越してから毎日ツイてるんだって、いいなー」
五限担当の教師がやってきてCaetlaの話はそこで途切れた。
席に着いた伊吹生はテキストやノートの準備をしつつ頭を捻る。
まるで知らないCaetlaについてどうして凌貴は尋ねてきたのか。
女性と認知されているのに男性と言い表したのか。
何か意味があるはずだ……。
(全く知らない……そうだよな?)
髪もメークも服もふんだんに仕上がっていた美少女インフルエンサー。
画面越しで初見であるはずのCaetlaの笑顔に伊吹生の思考はしばし囚われるのだった。
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