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7-1-Caetla
「ずっと会いたかった、ボクだけの王子様」
それは深い深い酩酊感。
どろどろとしていて爪の隙間にまで満遍なくこびりついてくるような。
やたらと大きなベッドに仰臥した伊吹生は寝返りを打とうとし、両手両足の自由を奪う拘束具の冷たい感触にやっと気がついた。
(手錠されてる……?)
なんだこれは。
また凌貴のせいで誰かに捕まったのか?
「あ、起きた? お目覚め、いかがかなぁ」
覚醒しきれずに呻吟していた伊吹生は、まるで聞き覚えのない声を耳にして眉根を寄せた。
(いや、この声は……どこかで聞いたような……)
底なし沼に容赦なく沈められていくような感覚に必死になって抗い、伊吹生は、何とか思い出そうとする。
『すみません、どうもありがとうございました……助かりました』
ついさっき下校途中に聞いた……コンビニの前で派手な見た目の男に絡まれている人がいて……俺が割って入った……。
いや、違う。
もっと前にどこかで……。
「イブキくんはやっぱりその格好が似合ぅ」
伊吹生は歯軋りする。
重たい瞼を懸命に持ち上げて状況を把握しようとし、着ていたはずの制服ではなく、作業着のツナギを着用している自分自身に大いに戸惑った。
部屋を満たす軽薄なネオンライト。
牢屋を模した鉄格子の中に設置されたベッド。
「ボクの王子様」
抑えきれない凶暴なまでの昂揚感に体が発熱していた伊吹生は不快に波打つ視界に声の主を捉える。
「やっと捕まえた」
そこにいたのはCaetlaだった。
拓斗が見せてくれた、スマホの画面の中で笑っていた美少女インフルエンサーそのものであった。
(いや、待て、さっき俺が助けたのは……)
年上で、黒縁の眼鏡をかけていて、声の小さい、オメガ性で。
『……あの、どうもお世話になりました……』
春休み中に引っ越し作業を担当した佐江原リトという男性だった。
「びっくりさせてごめんなさぃ」
緩くうねるロングのホワイトブロンド、滑らかなデコルテを強調する肩出しの白いミニドレスには腰の辺りに大きなリボンがついている。
多くの者が羨みそうな小顔にはプロ顔負けなくらい完璧なメークが施されていた。
「春休み、お引越しのときはどぉもお世話になりました」
ベッド備え付けの手枷足枷をかけられ、両腕を頭上に伸ばした仰向けの体勢でいる伊吹生の顔を、佐江原(さえばら)は無邪気に覗き込んでくる。
「さっきも悪い人から助けてくれてありがとぉね」
引っ越しバイトをしていた伊吹生に一目惚れし、自分の熱狂的なファンを使って日常生活をざっと調べた彼は、その場に跪く。
思考力が低下して息苦しそうにしている伊吹生が顔を向ければ、ベッドに両頬杖を突き、うっとりと見つめてきた。
「これ、は……どういう……」
「イブキくんとどうしてもお近づきになりたくて。だって、こんな理想の王子様アルファ、初めて会ったから」
「……さっき、絡まれてたのは……」
「あれはぁ、ボクのファンが手伝ってくれたの。ここに運んでくれたのも、そぉ。自称・側近のみんな。ボクのスッピンごと崇めてくれるベータのみんな」
「……」
(まんまと引っ掛かったのか、俺は)
しかし、この酩酊感の正体は一体何なのか。
発熱で気が遠くなりそうな伊吹生はまた険しげに歯軋りし、そして思い出す。
『助けてくれたお礼です、よかったら……どうぞ』
「コンビニで買ってきた、あのコーヒー……あれに何か……入ってたのか……?」
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