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凌貴は絶叫系のアトラクションもお化け屋敷も利用しようとしなかった。
「家族連れや恋人同士、友達のグループ、人がたくさんいるね」
遊園地では当たり前みたいな光景を、人々が楽しんでいる各アトラクションを物珍しそうに眺めては「ブランコがぐるぐる回ってる。目が回らないのかな」と伊吹生に素直な感想を伝えてきた。
「初めて来たのか、遊園地」
「ううん。海外の移動遊園地には行ったことがあるよ」
メリーゴーランドにゴーカート、観覧車にも乗ろうとせずに広い園内をゆったりと回る凌貴の斜め後ろを伊吹生はついていく。
「伊吹生君は来たことあるの?」
「ここじゃないけど、まぁ、何回か」
「デートで?」
「いや、友達と……」
「松森拓斗君や今日介、その妹と?」
図星である。
口ごもる伊吹生の返事を待たずに凌貴は軽食を販売している売店に立ち寄った。
ソフトクリームを一つ買うと、自分は口をつけようとせず、伊吹生に向かって差し出してくる。
「はい、あーん」
(嘘だろ)
「さっき擦れ違ったベータの男女がやってたんだ」
「俺はやりたくない」
「あーん」
「……」
(そうだな、覚悟を決めたよな、俺は)
やや頭を屈めた伊吹生は凌貴が持つソフトクリームの天辺をぱくっと食べた。
周囲から聞こえてきた「わっ」「えっ」「あっ」という感嘆符は躍起になって聞き流した。
「おいしい?」
男の二人連れなんて自分達以外にも普通にいる、しかし如何せん、その圧倒的美貌で数多の関心を掻っ攫う凌貴はどこにいても特別枠となる。
その上、181センチの凌貴、176センチの伊吹生という高身長ペアであるものだから余計に目立つ始末であった。
「全部食べて」
覚悟を決めていた伊吹生は凌貴の手からソフトクリームをばくばく食べた。
自分にとって見世物じみた羞恥プレイを早いところ切り上げたくて、あっという間に平らげる。
味はというと全くわからなかった。
「あの二人やばい。イケメンオーラがすごい」
「背が低い方、オメガなのかな?」
「オメガにしてはでかすぎない?」
(まさか俺がオメガだと思われる日が来るなんて)
平均値を上回る身長、適度に筋肉のついたしなやかな体つきをしていて、これまで一度もオメガだと見間違われたことがなかった伊吹生は複雑な気分になる。
「おかわり、いる?」
周囲の会話が聞こえているはずの凌貴に笑みまじりに問われて伊吹生は首を左右にブンブン振りまくった。
ゆっくりと西日に浸されていく遊園地。
誰かが手放した風船が空高く舞い上がっていった。
「まだ帰らないのか?」
「おばけやしきって、どれだろう」
「俺は行かないって言ったよな?」
「伊吹生君、怖いの、苦手なんだ?」
「……」
「意外だね」
閉園時間が近づいて客の数は減っていたが、それでも賑やかさの絶えない園内。
自分の前を走って横切ろうとした子どもが派手に転んで伊吹生は足を止める。
子どもには同じ年齢くらいの連れがいたが、急なアクシデントにかたまってしまっていて、親の方は腕白な彼等を見失っているのか、駆け寄ってくる保護者はいなかった。
這い蹲ったまま、今にも泣き出しそうな男の子の元へ伊吹生が歩み寄ろうとしたら。
「大丈夫かな」
凌貴が先に男の子に声をかけた。
跪き、優しい手つきで抱き起こすと、乱れていた服をきちんと正してやる。
「どこか痛いところある?」
「……なぃ、です」
「そう。君もびっくりしたね、お友達は大丈夫だよ」
凌貴はそばでかたまっていたもう一人の子どもにも声をかけ、二人の頭を撫でた。
慌てた様子ですぐに駆けつけてきた二人の保護者は凌貴にえらく丁重に詫び、子どもたちと手を繋いでゲートの方へと去っていった。
「さよなら、バイバイ」
手を振って彼等を見送る凌貴に伊吹生は「意外だな」と、さっき彼に言われた台詞をなぞる。
「僕なら足蹴にすると思った?」
「そこまで思ってない。ただ無視するかと」
目線の高さを合わせるなど、自然な振舞で子ども二人に接していた凌貴はゲートの方を向いたまま言った。
「せっかくの遊園地の思い出が台無しになるのは可哀想かと思って」
伊吹生は茜色に染まった凌貴の横顔を見る。
いつになく柔らかな眼差しに気がつくと、意表を突かれ、周りの賑やかさも忘れて釘づけになった。
「そうだね、そろそろ出ようか」
アトラクションを一切利用せずに退園を促した凌貴から伊吹生はぱっと顔を逸らす。
(……仕方ない、凌貴の顔が人一倍整ってるのは事実なんだから……)
一緒に夜桜を見たときと同じように、その美しさに魅入られて綺麗だと感じた自分に不甲斐なさを覚えた……。
「家族連れや恋人同士、友達のグループ、人がたくさんいるね」
遊園地では当たり前みたいな光景を、人々が楽しんでいる各アトラクションを物珍しそうに眺めては「ブランコがぐるぐる回ってる。目が回らないのかな」と伊吹生に素直な感想を伝えてきた。
「初めて来たのか、遊園地」
「ううん。海外の移動遊園地には行ったことがあるよ」
メリーゴーランドにゴーカート、観覧車にも乗ろうとせずに広い園内をゆったりと回る凌貴の斜め後ろを伊吹生はついていく。
「伊吹生君は来たことあるの?」
「ここじゃないけど、まぁ、何回か」
「デートで?」
「いや、友達と……」
「松森拓斗君や今日介、その妹と?」
図星である。
口ごもる伊吹生の返事を待たずに凌貴は軽食を販売している売店に立ち寄った。
ソフトクリームを一つ買うと、自分は口をつけようとせず、伊吹生に向かって差し出してくる。
「はい、あーん」
(嘘だろ)
「さっき擦れ違ったベータの男女がやってたんだ」
「俺はやりたくない」
「あーん」
「……」
(そうだな、覚悟を決めたよな、俺は)
やや頭を屈めた伊吹生は凌貴が持つソフトクリームの天辺をぱくっと食べた。
周囲から聞こえてきた「わっ」「えっ」「あっ」という感嘆符は躍起になって聞き流した。
「おいしい?」
男の二人連れなんて自分達以外にも普通にいる、しかし如何せん、その圧倒的美貌で数多の関心を掻っ攫う凌貴はどこにいても特別枠となる。
その上、181センチの凌貴、176センチの伊吹生という高身長ペアであるものだから余計に目立つ始末であった。
「全部食べて」
覚悟を決めていた伊吹生は凌貴の手からソフトクリームをばくばく食べた。
自分にとって見世物じみた羞恥プレイを早いところ切り上げたくて、あっという間に平らげる。
味はというと全くわからなかった。
「あの二人やばい。イケメンオーラがすごい」
「背が低い方、オメガなのかな?」
「オメガにしてはでかすぎない?」
(まさか俺がオメガだと思われる日が来るなんて)
平均値を上回る身長、適度に筋肉のついたしなやかな体つきをしていて、これまで一度もオメガだと見間違われたことがなかった伊吹生は複雑な気分になる。
「おかわり、いる?」
周囲の会話が聞こえているはずの凌貴に笑みまじりに問われて伊吹生は首を左右にブンブン振りまくった。
ゆっくりと西日に浸されていく遊園地。
誰かが手放した風船が空高く舞い上がっていった。
「まだ帰らないのか?」
「おばけやしきって、どれだろう」
「俺は行かないって言ったよな?」
「伊吹生君、怖いの、苦手なんだ?」
「……」
「意外だね」
閉園時間が近づいて客の数は減っていたが、それでも賑やかさの絶えない園内。
自分の前を走って横切ろうとした子どもが派手に転んで伊吹生は足を止める。
子どもには同じ年齢くらいの連れがいたが、急なアクシデントにかたまってしまっていて、親の方は腕白な彼等を見失っているのか、駆け寄ってくる保護者はいなかった。
這い蹲ったまま、今にも泣き出しそうな男の子の元へ伊吹生が歩み寄ろうとしたら。
「大丈夫かな」
凌貴が先に男の子に声をかけた。
跪き、優しい手つきで抱き起こすと、乱れていた服をきちんと正してやる。
「どこか痛いところある?」
「……なぃ、です」
「そう。君もびっくりしたね、お友達は大丈夫だよ」
凌貴はそばでかたまっていたもう一人の子どもにも声をかけ、二人の頭を撫でた。
慌てた様子ですぐに駆けつけてきた二人の保護者は凌貴にえらく丁重に詫び、子どもたちと手を繋いでゲートの方へと去っていった。
「さよなら、バイバイ」
手を振って彼等を見送る凌貴に伊吹生は「意外だな」と、さっき彼に言われた台詞をなぞる。
「僕なら足蹴にすると思った?」
「そこまで思ってない。ただ無視するかと」
目線の高さを合わせるなど、自然な振舞で子ども二人に接していた凌貴はゲートの方を向いたまま言った。
「せっかくの遊園地の思い出が台無しになるのは可哀想かと思って」
伊吹生は茜色に染まった凌貴の横顔を見る。
いつになく柔らかな眼差しに気がつくと、意表を突かれ、周りの賑やかさも忘れて釘づけになった。
「そうだね、そろそろ出ようか」
アトラクションを一切利用せずに退園を促した凌貴から伊吹生はぱっと顔を逸らす。
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