目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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9-1-君は誰?

天候に恵まれた晴天の金曜日、伊吹生の学校では歓迎遠足が実施された。

「きもちい~、なんか生き返る~」

高等部の行き先は植物園だった。
伊吹生はクラスメートの拓斗と共に水生植物が豊かな小川や温室を見て回り、昼休憩に入ると芝生広場でランチをとった。

「今日は凌貴来てないんだね」

合流した心春の第一声に伊吹生は頷く。

「凌貴サマが面倒くさがりそうな行事だもん~、今まで一回も来たことないんじゃない?」
「体育祭でも見たことない」
「合唱コンにも参加してなかったよ~、歌ヘタなのかな!? 凌貴サマ唯一の弱点とか!!」

両親が飲食店を経営している拓斗におすそ分けしてもらった油淋鶏を食べていた伊吹生は思わず吹き出した。

「そうか、アイツの弱点は歌唱力か。音程を外して焦ってるところ、見てみたいな」

レジャーシートなど敷かず、学校指定のジャージで芝生の上に座り込んでいた心春と拓斗は二人揃って伊吹生の方を向く。

「変なの、イブキ」
「何か変なこと言ったか、俺」
「イブキ先輩、いつもならアイツの話はするな、ご飯がまずくなるって言って話題にしたがらないのに」
「……」

胡坐をくんだ伊吹生は姉の菖が手作りしてくれたお弁当を意味もなく見下ろした。

気持ちのよいそよ風が吹く芝生広場では他の生徒も思い思いにランチをとっていた。
ゆったりと流れていく和やかな時間。
下級生の飛ばしたシャボン玉がふわふわ舞っていった。

「中学は山登りハイキングできつかったな~。一年生を歓迎するどころじゃなかった~。ココは行き帰りバスだし楽でいい~」
「拓斗センパイもイブキ先輩も中学は違うところだったもんね」
「心春ちゃんは小学校からココに通ってるんでしょ? 歓迎遠足どこだった?」
「初等部のときは●●公園だった。一年と六年、残りの学年で行き先が分かれてて、そのときは徒歩だったよ。手を繋いで移動するの」
「あ、バス乗る前に見た見た~。同じ日にあるんだよね、歓迎遠足」

中華風のお弁当を食べている途中で拓斗が辺りをきょろきょろ見回していたかと思えば「あ! ソフトクリーム食べてる!」と大声を出し、伊吹生は卵焼きをつい丸呑みにした。

「オレも買ってこよっと。心春ちゃんとイブキはどーする? いる?」
「ありがとう、拓斗。でも俺はいい……」

売店を探しに拓斗が芝生の上を駆けていく。
遊園地での<ソフトクリームあーん>を思い出して苦々しい気分になった伊吹生は、気を取り直し、ランチを続けようとしたのだが。

「イブキ先輩って最近綺麗になった」

心春のあんまりにも思いがけない発言に今度はミニトマトを丸呑みにした。

「ごほッ……」

ショートボブ丈で風にくすぐられる前下がりの髪もそのままに心春は目を丸くさせる。

「大丈夫?」
「心春が変なこと言うからだ」
「だってイブキ先輩、この頃ツヤが出てきたっていうか」
「ツヤ……」
「肌の調子が良さそうっていうか」
「……気にしたことないぞ」
「イブキ先輩って本当に凌貴と付き合ってるの?」

伊吹生は首を左右に振った。
体育座りして膝を抱いた小柄な心春にじっと見られると「付き合ってない」とわざわざ言葉にして否定した。

「でも遊園地デートしたんでしょ」
「なんで知って……まぁ、誰かに見られたんだろうな」
「凌貴はお兄ちゃんのこと傷つけたし、怖いし、嫌い」

オメガの兄・今日介を凌貴に使い捨てのように扱われたことがある心春は、彼に対する拒否感を一向に拭えないらしい。

「イブキ先輩まで傷つけられたらどうしよう」
「いや、俺は大丈夫だ」
「最初はね、人質っていうか、仲がいい拓斗センパイとかに怖い思いをさせたくなかったら言うこと聞けって、凌貴に脅されてるのかと思ってた」
「……」
「でもイブキ先輩にツヤが出てきたから」
「いや、出てない、ツヤなんて」
「なんか意外とうまくいってるのかなぁって」
「うまくいってない、ツヤも出てない、そもそも付き合って――」
「買ってきた!!!!」

拓斗が笑顔で戻ってきた。
二つ手にしていた内の一つ、ミックスのソフトクリームを心春に手渡し、自分はバニラのソフトクリームを嬉しそうに頬張る。

「おいし~」
「ありがとう、拓斗センパイ」
「わ~、なんか心春ちゃんの彼氏になった気分~」
「私、高校生になって恋人できたけど」
「え゛!!!???」

驚きの余りソフトクリームを落っことしそうになった拓斗を他所に伊吹生は。
ふわふわ舞うシャボン玉の行方を何となく目で追う。

(悪魔じみた凌貴と付き合うなんてありえない⋯⋯そうだろ?)



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