目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

文字の大きさ
42 / 53

9-2

植物園から学校へ戻るバスの中で凌貴からのメールを受け取った。
一言だけ「来て」と。
一旦帰宅してキャップなどで変装するのも今更感があり、伊吹生は体操着のジャージ姿のまま彼のマンションへ向かった。

「……出ない……」

インターホンを鳴らしても反応がなくて伊吹生は当惑する。
試しにドアノブを掴んでみればガチャリと開いた玄関ドア。
今までにない事態であった。

(いつもなら凌貴が開けてくれる)

「おい、凌貴」

室内へ呼びかけても静寂が返ってくるばかりで、どうしようか数秒間考え、伊吹生は部屋へ上がることを選んだ。

「呼んだくせに、いないのか」

(揶揄われているのか? それとも――)

光沢を放つフローリング。
高い天井。
メゾネットタイプで上階に続くスケルトン階段。
一人暮らしには持て余しそうなL字型のレザーソファがリビングのほぼ半分を占領している。

そのソファに凌貴ではない別の人物がいた。

「……」

子どもだ。
ネクタイをしてサスペンダー付きの半ズボンにハイソックスを履いた、小さな男の子がソファで眠っていた。

「…………」

伊吹生は言葉を失う。
あの悪魔、過去に誘拐されて今度は自分自身が誘拐犯になったのかと、愕然とした。

「……ん……」

ショックで打ちひしがれていた伊吹生は、はっとする。
横向きに丸まって寝ていた男の子が仰向けになり、パチリと目を開けた。
ビスクドールを思わせる大きな瞳。
癖のないサラサラした黒髪に滑々としたほっぺた。
棒立ちとなった伊吹生の前でもぞもぞ上体を起こすと、目元を擦りながら口を開いた。

「だれ……?」

(いや、それは俺の台詞だろ)

「……俺は甫伊吹生。ここに住んでる忽那凌貴の知り合いだ。君は……その、大丈夫か? どうしてここに? 凌貴に無理やり連れてこられたとか……」

その場で膝を突き、男の子の目線の高さに合わせて伊吹生が尋ねれば、大きな瞳はより大きくまん丸に見開かれた。

(……待てよ、この服は)

男の子が着用している服には見覚えがあった。
伊吹生が通う学校の初等部の制服だ。
今日、自分達と同じく歓迎遠足が催された……。

「瑠唯(るい)、凌貴お兄ちゃんに会いにきたの」

今度は伊吹生が目を見開かせる番であった。

「凌貴お兄ちゃんのお友達ですか? 初めて会いました。ボク、忽那瑠唯っていいます。どうもはじめまして」

幼い割に丁寧な言葉遣いで自己紹介されて伊吹生は「どうもはじめまして……」と動揺を引き摺りながらも返事をする。

「ああ、伊吹生君、来てくれたんだね」

ブランケットを手にした凌貴が上階からスケルトン階段を下りてやってきた。
上下とも黒のシンプルな部屋着姿の彼を伊吹生は不服そうにジロリと一瞥する。

「上にいたなら返事くらいしろよ」
「ごめんね」
「わざとだろ。俺を驚かせたかったんじゃないのか」

凌貴はクスクス笑うと、ソファの上でじっとしている弟・瑠唯の肩にブランケットをかけた。

「僕の弟、瑠唯だよ。初等部の一年生。瑠唯、おやつはどうする? クッキーとホットココアにする?」
「うんっ」

キラキラと眩い笑顔を浮かべた瑠唯の頭を一撫でし、凌貴は壁際のキッチンに立つ。
伊吹生もその後を大股になって追いかけ、弟のためのおやつを準備する彼に小声で話しかけた。

「俺は帰っていいな」
「どうして? 一緒にお茶しようよ」
「なんでだよ。弟だって知らない奴がいたらリラックスできないだろ」
「そんなことないです」

伊吹生はぎょっとする。
いつの間に真後ろに接近していた瑠唯にぎゅっとしがみつかれ、人懐っこい男子児童を戸惑いの表情で見下ろした。

「凌貴お兄ちゃんのお友達なら、瑠唯も仲よくなりたいです」

キラキラした笑顔で背伸びして見上げてくる健気な様子に伊吹生は益々戸惑う。

(悪魔の弟が天使だなんておかしくないか……?)


感想 4

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです