目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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9-4

初対面の高校生相手に無邪気にくっついてくる甘えたな瑠唯。
クラスメートの拓斗のことを弟扱いしているが、実際に弟や妹がいない伊吹生は小さな彼に気を遣う放課後を送ることになった。

「かくれんぼ、したい。みんなでかくれんぼしよ?」
「この部屋で? すぐに見つかるぞ」
「じゃんけんしよ。最初はぐー」
「じゃんけんぽん……」

結果、負けた瑠唯が鬼をやることに。

「俺が変わろうか、瑠唯」
「ううん。瑠唯、凌貴お兄ちゃんと伊吹生お兄ちゃん、見つけるよ。早く隠れてっ」
「それなら、瑠唯、目を瞑って百数えてから探しにおいで?」
「うんっ、いーち、にーい」

小さな両手で顔を覆った瑠唯がカウントダウンを始める。

このまま帰ってしまおうか……なんて出来心を抱いたものの、さすがに踏み止まり、伊吹生はさてどうするかとメゾネットの部屋を見回した。

(え?)

ちょっと目を離した間に凌貴は忽然と姿を消していた。
自宅なのだから隠れ場所は把握しているだろうが、あまりの俊敏さに伊吹生は舌を巻く。

「にじゅう、にじゅういち……」

感心している間にも瑠唯によるカウントダウンは進む。

伊吹生は通い慣れた部屋をもう一度ぐるりと見回し、音を立てないようリビングを横切った。

キッチンの奥にあるドアを開けてパウダールームへ移動し、清潔に保たれている水回り、乾燥機能の効いた浴室に入ると慎重に戸を閉める。

「何やってるんだろうな」

独り言がぽろり。

(そもそも弟がいたなんて知らなかった)

……本当に弟だよな?
……まさか凌貴の子どもなんてことは。

「いや、ありえないだろ」

シックなグレーのタイル壁にもたれた伊吹生は薄暗い天井を仰ぐ。

『クラスが別れて寂しかったんだよ』

よからぬ記憶が息づく浴室を選んだのは失敗だったかもしれない。
しかし今更移動もできず、鮮やかに蘇ろうとするうざったい思い出を脳裏から追い払おうとしていたら。

ガチャ……

浴室の戸が開かれた。

「伊吹生君、ここにいたの」

顔を覗かせたのは瑠唯ではなく凌貴であり、伊吹生はげんなりする。

「ふふ。僕に見つけてもらってそんなに嬉しい?」
「違う。どこから移動してきたんだ、お前。よく弟に見つからなかったな」
「瑠唯は今上にいるよ」

凌貴は軽やかな身のこなしで浴室へ入ってくると、さも当たり前といった風に伊吹生にぴたりと身を寄せてきた。

「いちいち近い」
「僕の弟は可愛いでしょう」
「……そうだな、見た目は似てるけど性格はちっとも似てない」
「僕の隠し子だと思った?」
「……」
「そうだとしたら僕が初等部の高学年のときに生まれた子になるね。まぁ、ありえない話じゃない」

伊吹生はすぐ隣に立つ凌貴をまじまじと見つめる。

伊吹生の肩に頭をもたれさせた凌貴は微かに笑った。

「うん。瑠唯は弟だよ」
「……アルファだよな?」
「そう。きっと誰からも愛される美しいアルファに育つよ。僕の自慢の弟」

伊吹生はちょっとだけ心を動かされてしまう。

階層主義でベータ・オメガを足蹴にし、外敵には躊躇なく鉄槌を下そうとする非情なアルファだと思っていたが、人並みの家族愛を謳って、小さな弟のことを本当に大切にしているらしい。

「小動物にもベータにもオメガにも優しい」
「本当にお前に似てない」
「そうだね。僕は小動物にも弱い生き物にもあんまり興味はない。強いのがいい。さっきも言ったけれど、群れを先導するリーダー格のオオカミみたいな」

頭を屈めた凌貴に真横から覗き込まれて伊吹生はたじろいだ。

(弟の瑠唯がいるんだ、いくら何でも……)

「もしも伊吹生君がオオカミだったら、きっとみんなに信頼される理想的なアルファ・メイルになっていただろうね」

黒目に深みのある双眸に至近距離から直視されて居心地が悪くなる。
早く瑠唯が見つけにこないかと、伊吹生は情けなくも小さな男子児童を頼みの綱にして今か今かと待ち望んだ。

「僕のあげた首輪が似合うオオカミ」


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