目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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9-5

「誰が首輪なんかするか」
「ここにいると思い出して駄目だね」
「思い出さなくていい」
「伊吹生君の味」
「やめろ、瑠唯が来るぞ」
「濃厚で魅力的だった」
「ッ……おい……凌貴……」

瞼をゆっくりと落としていった凌貴にキスされた。
ほのかな微熱の感触に伊吹生は眉根を寄せる。

眠りにつくみたいに自然と閉ざされていった瞼。
抵抗する気力は削がれて凌貴の唇を許してしまう――。

「――見つけた!」

浴室の戸が開かれるのと同時に元気いっぱいな一声が鼓膜に飛び込んできて伊吹生は慌てふためく。

「凌貴お兄ちゃんと伊吹生お兄ちゃん、つかまえた!」

何ら驚くでもない瑠唯は、密着していた伊吹生と凌貴の二人に飛びつくなり、ぎゅっとしてきた。

「瑠唯の勝ち!」
「よく見つけたね、瑠唯。さすが僕の弟。一人で立派に探し出して偉いね」
「いや、一人暮らしのそこまで広くない部屋で、むしろ時間がかかった方……」

なかなか自分から離れようとしない凌貴を伊吹生は肘鉄で押し返そうとする。

「いい加減離れてくれ、弟の前だろうが⋯⋯」

(しかも、多分、見られた)

兄のキスシーンという、男子児童に見せてはいけないものを見せてしまったと反省する伊吹生であったが。

「パパとママもよくキスしてる」

瑠唯の言葉に耳を疑った。

「だから、凌貴お兄ちゃんと伊吹生お兄ちゃん、パパとママみたいにらぶらぶ?」
「そう。僕と伊吹生君はらぶらぶな関係なんだよ、瑠唯」
「わぁ~」
「やめろ、弟にそんなこと吹き込むな……」

まだ自分達にしがみついている瑠唯に、平然と密着したままでいる凌貴に困り果てつつ、伊吹生は二人の両親について想像を巡らせる。

(兄の時成も含めて美形揃いの兄弟だ、両親の外見も限界突破してるんだろうな)



遠足帰りで疲れていたのか、瑠唯がまたソファで丸くなり、もういい加減帰っていいだろうと伊吹生はさり気なく部屋を出ようとした。

「……伊吹生お兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「一緒にココアも飲んだし、かくれんぼもしたし、もう帰っていいだろ?」
「やだ。さみしい。もっと遊んで」
「あのな」
「お歌、歌って」
「は?」
「こもりうた、瑠唯に歌って」

無邪気に投げつけられた無理難題に伊吹生が立ち往生していたら、愉しそうに傍観していた凌貴がすっと瑠唯のそばに跪いた。

「伊吹生お兄ちゃんはお歌が下手だからごめんなさい、だって」
「伊吹生お兄ちゃん、お歌、へたなの……」
「勝手に決めつけるな、凌貴」
「僕が代わりを努めてあげようね、ねぇ、伊吹生お兄ちゃん?」

歌が下手だと決めつけられて納得のいかない伊吹生を他所に凌貴は歌う。
ブランケットに包まって眠たげな弟のための子守唄を。

(拓斗の奴、間違ってたな)

合唱コンクールを欠席した凌貴はきっと音痴だと拓斗が話していたが、その憶測は見当違いであったと伊吹生は思い知る。

(こういうの、美声っていうんじゃないのか)

弱点なんてそうそう見つからない、つくづく嫌味な悪魔め。


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