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10-1-季節外れの
■この10章には微ホラー要素が含まれています■
その日は朝からどんよりとした曇天で今にも雨が降り出しそうな空模様であった。
「伊吹生お兄ちゃん」
放課後、学内の図書館で勉強していた伊吹生は、静謐な空間で保っていた集中力を見事にバッサリ断ち切られた。
「どうもこんにちは」
六人掛けのテーブルの角につく伊吹生の視界にひょっこり現れたのは凌貴の弟・瑠唯だった。
タイルカーペットが敷き詰められた床に座り込み、テーブルに両腕を乗っけて満面の笑顔を浮かべている。
ブックカフェを彷彿とさせる比較的新しい洒落た図書館。
利用する生徒がたくさんいる中、突然の登場に面食らっている伊吹生に瑠唯は小声で話しかけてきた。
「お勉強? わぁ、数字がいっぱいだー」
(瑠唯はここの小学校の生徒だ、いても不思議じゃないが)
初等部の校舎にも図書室が備わっていて、ほとんどの児童はそちらを利用しており、独立したこの図書館ではたまに見かける程度だった。
「瑠唯は数字、苦手。算数むずかしい」
長袖シャツにネクタイ、サスペンダーに半ズボン、ハイソックスを履いた瑠唯は「伊吹生お兄ちゃん、算数得意なんだ、かっこいい」とノートを覗き込んできた。
「そこに頭があったらノートが見えづらくて勉強できない」
「算数得意だけど、お歌はへたなんだよね」
「別に下手じゃない」
ふわふわしたほっぺたを軽く突っつけば瑠唯はくすぐったそうに笑う。
同じテーブルにつく生徒の勉強の邪魔になるかと思ったが、周りの生徒は瑠唯の愛らしさにまんまと絆されたのか、皆がテキスト越しに微笑ましそうに年下の少年を眺めていた。
「自分だって宿題があるだろ。俺に構ってないでやったらどうだ」
シャーペンを握る伊吹生の利き手を突っついていた瑠唯は大きな瞳をパチパチと瞬きさせる。
「瑠唯ね、いい勉強場所、知ってる」
「ふぅん」
「ここより静かだし、人もいないから、いっぱい集中できるの」
「じゃあ、そこに行って宿題したらいい」
「伊吹生お兄ちゃんも瑠唯といっしょ行こ?」
伊吹生はまごつく。
特に不満のない図書館でしばし勉強するつもりでいたし、瑠唯のワガママに再び付き合う気にもなれず、断ろうとした。
「いや、俺は……」
滑々したほっぺたを上気させ、ビスクドールの瞳をより一層キラキラと輝かせ、期待いっぱいの眼差しで瑠唯は伊吹生を見上げてきた。
「瑠唯と行こっ?」
(……悪気がない分、ある意味兄の凌貴よりたちが悪いのかもしれない……)
一日中、暗雲の垂れ込める空。
雨は降らずにただ日の光を遮って欝々とした空気が地上に沈殿する。
「瑠唯ね、大きくなったら飼育委員さんになりたい」
ランドセルを背負った瑠唯の屈託ない朗らかさはそんな淀んだ空気を一掃するかのようだった。
「近い将来なれるだろ、割とすぐに」
「なれるかなっ」
「でも、この学校では動物を飼育していないよな。小学校では何か飼ってるのか?」
「金魚っ」
「ああ、金魚……」
「みんなに名前がついててね、赤姫とね、銀太郎とね、あとなんだっけ、えーと」
中高生が行き交うキャンパス、瑠唯にせがまれて手を繋いでいた伊吹生は彼の先導でグラウンド沿いを歩いていたのだが。
「……なぁ、瑠唯はどこに向かってるんだ?」
行き先に一抹の不安を覚えて立ち止まる。
瑠唯はきょとんとした様子で伊吹生を仰いだ。
「まさか旧校舎じゃないよな?」
その日は朝からどんよりとした曇天で今にも雨が降り出しそうな空模様であった。
「伊吹生お兄ちゃん」
放課後、学内の図書館で勉強していた伊吹生は、静謐な空間で保っていた集中力を見事にバッサリ断ち切られた。
「どうもこんにちは」
六人掛けのテーブルの角につく伊吹生の視界にひょっこり現れたのは凌貴の弟・瑠唯だった。
タイルカーペットが敷き詰められた床に座り込み、テーブルに両腕を乗っけて満面の笑顔を浮かべている。
ブックカフェを彷彿とさせる比較的新しい洒落た図書館。
利用する生徒がたくさんいる中、突然の登場に面食らっている伊吹生に瑠唯は小声で話しかけてきた。
「お勉強? わぁ、数字がいっぱいだー」
(瑠唯はここの小学校の生徒だ、いても不思議じゃないが)
初等部の校舎にも図書室が備わっていて、ほとんどの児童はそちらを利用しており、独立したこの図書館ではたまに見かける程度だった。
「瑠唯は数字、苦手。算数むずかしい」
長袖シャツにネクタイ、サスペンダーに半ズボン、ハイソックスを履いた瑠唯は「伊吹生お兄ちゃん、算数得意なんだ、かっこいい」とノートを覗き込んできた。
「そこに頭があったらノートが見えづらくて勉強できない」
「算数得意だけど、お歌はへたなんだよね」
「別に下手じゃない」
ふわふわしたほっぺたを軽く突っつけば瑠唯はくすぐったそうに笑う。
同じテーブルにつく生徒の勉強の邪魔になるかと思ったが、周りの生徒は瑠唯の愛らしさにまんまと絆されたのか、皆がテキスト越しに微笑ましそうに年下の少年を眺めていた。
「自分だって宿題があるだろ。俺に構ってないでやったらどうだ」
シャーペンを握る伊吹生の利き手を突っついていた瑠唯は大きな瞳をパチパチと瞬きさせる。
「瑠唯ね、いい勉強場所、知ってる」
「ふぅん」
「ここより静かだし、人もいないから、いっぱい集中できるの」
「じゃあ、そこに行って宿題したらいい」
「伊吹生お兄ちゃんも瑠唯といっしょ行こ?」
伊吹生はまごつく。
特に不満のない図書館でしばし勉強するつもりでいたし、瑠唯のワガママに再び付き合う気にもなれず、断ろうとした。
「いや、俺は……」
滑々したほっぺたを上気させ、ビスクドールの瞳をより一層キラキラと輝かせ、期待いっぱいの眼差しで瑠唯は伊吹生を見上げてきた。
「瑠唯と行こっ?」
(……悪気がない分、ある意味兄の凌貴よりたちが悪いのかもしれない……)
一日中、暗雲の垂れ込める空。
雨は降らずにただ日の光を遮って欝々とした空気が地上に沈殿する。
「瑠唯ね、大きくなったら飼育委員さんになりたい」
ランドセルを背負った瑠唯の屈託ない朗らかさはそんな淀んだ空気を一掃するかのようだった。
「近い将来なれるだろ、割とすぐに」
「なれるかなっ」
「でも、この学校では動物を飼育していないよな。小学校では何か飼ってるのか?」
「金魚っ」
「ああ、金魚……」
「みんなに名前がついててね、赤姫とね、銀太郎とね、あとなんだっけ、えーと」
中高生が行き交うキャンパス、瑠唯にせがまれて手を繋いでいた伊吹生は彼の先導でグラウンド沿いを歩いていたのだが。
「……なぁ、瑠唯はどこに向かってるんだ?」
行き先に一抹の不安を覚えて立ち止まる。
瑠唯はきょとんとした様子で伊吹生を仰いだ。
「まさか旧校舎じゃないよな?」
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