目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

文字の大きさ
49 / 53

10-3


「今から降霊会……じゃない、みんなで勉強会を始めるからね」

そう言いながらも鞄どころかノートや教科書を一切持っていない凌貴に伊吹生は苦い顔をする。

「凌貴、お前まさか瑠唯をダシにして俺をここまで誘き寄せたんじゃないだろうな」
「僕はただみんなで勉強できればと思っただけ。ほら、君の仲良しの友達も呼んでるよ」

開かれていたドアから拓斗と心春が気乗りしない様子で入ってきて伊吹生はさらに眉間の縦皺を増やした。

「イブキぃ、オレさ、ガチで仕上げなきゃいけない課題があんだけど、家帰って速攻やろうと思ったんだけど」
「伊吹生センパイ、私、友達と遊ぶ予定があったんだけど」

最近になって、凌貴に執着されている伊吹生のせいで巻き込まれた感を正直に出すようになった二人に伊吹生はちょっとたじろぐ。

「……悪い、二人とも」
「しかもなんで旧校舎~、って……小学生がいる?」
「あの子、誰?」

机やイスをガタガタ言わせて一か所に集め、勉強会のセッティングを終えた瑠唯は、飛び跳ねるようにして伊吹生の元へ。
ぎゅっと横から抱き着いてくると初対面となる拓斗・心春にキラキラと眩い笑顔を向けた。

「はじめましてっ。勉強会にようこそっ」
「えっ。この子が主催者~?」
「忽那瑠唯ですっ、凌貴お兄ちゃんの弟ですっ」
「似てると思ったけど、やっぱり弟なのね……」



かくして旧校舎で開かれた放課後の勉強会。

「全問正解だね、瑠唯。苦手な算数をよく頑張ったご褒美をあげようね」
「わーい」

算数ドリルを解いたご褒美に兄の凌貴から高級チョコレートを一粒もらって瑠唯はご満悦だ。

「うぇぇ……ぜんっぜん進まん……これ明日提出できんのか~……うぐぐ」

成績が芳しくない拓斗は特別に出された課題に悪戦苦闘しているようだ。

「英コミも数学も宿題終わったから古文の予習でもしようかな……」

心春はなかなか順調に勉強を進めているらしい。

一人、伊吹生だけが勉強会に集中できずにいた。
やはりどうにも場所が悪い。
静か過ぎる周囲が気になって勉強どころではなかった。

「ッ」

不意に頭上の蛍光灯が忙しなく点滅して伊吹生はどきっとする。

「古いからね。いつ切れてもおかしくない」

自分の動揺をすぐさま嗅ぎつけた凌貴にサラリと言われると、ジロリと一瞥し、余白が目立つノートと改めて向き直ろうとした。

そのとき。
一つだけ点灯させていた蛍光灯が完全に光を失って教室は薄闇に閉ざされた。

「あ~あ、ガチで切れちゃった」
「こんなに暗いと目が悪くなる……」

拓斗と心春は然して動揺するでもなく「やれやれ」と天井を仰いでいる。

「もう夜になっちゃった?」
「まだ五時を過ぎたばかりだよ、瑠唯」

小さな瑠唯も怖がる様子は皆無、凌貴の隣でただ不思議そうに辺りをきょろきょろ見回していた。

「もう帰ろう」

伊吹生だけが動揺を極めていた。
傍目には取り乱すことなく落ち着いて見えるが、実は緊張で体が硬直しているだけだった。

「心春の言う通り、目に悪いし、雨も降り出しそうだからこの辺で切り上げていいだろ。瑠唯も十分満喫したよな?」

三つ目のチョコレートをもぐもぐしていた瑠唯に尋ねれば「勉強会の休憩に丁度いいんじゃないかな」と凌貴に返されて伊吹生は仏頂面と化す。

「学園七不思議の一つだし、幽霊出てきたりしてね~」

あっけらかんとした拓斗の発言に伊吹生は内心青ざめた。

「外部生なのに七不思議のこと知ってるんだね、拓斗センパイ」
「聞いたことあるよ~。この校舎で昔死んじゃった生徒がいて、その幽霊が出るとか」
「拓斗……俺達もう高三なんだから、そんな子どもじみたこと言うな。それに不謹慎だぞ」
「え~、冗談じゃんか~。そんな怒んなくたっていいじゃんか~」

拓斗にぶーぶー文句を言われて伊吹生は内心反省する。

(子どもじみてるのは俺の方だ、悪い、拓斗)

一度だけ。
伊吹生は見たことがあるのだ。
あれは多分、この世のものならざるもの、だった――。

「誰もいないはずの屋上の人影。放送室の不可解なノイズ。夜な夜なソナタを奏でる音楽室のピアノ。体育館裏のおくるめさん。校庭を彷徨う首なし武者。血のシャワーが出る更衣室」

幼稚園からストレートで通っている内部生の凌貴はこの学園に纏わる怪異をスラスラと述べる。

「そして最後の七つ目がこの旧校舎の亡霊」

そのとき。
突如として静寂を脅かす音が教室中に鳴り響いた。

「あ、ごめん、オレのスマホだ~」
「……学校では通知音切っておけよ、拓斗」
「も~、今日のイブキ注意ばっかしてくる~、大事な連絡なんだよ~、さて返信しとこ、ぽちぽち」
「……」
感想 4

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです