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「今から降霊会……じゃない、みんなで勉強会を始めるからね」
そう言いながらも鞄どころかノートや教科書を一切持っていない凌貴に伊吹生は苦い顔をする。
「凌貴、お前まさか瑠唯をダシにして俺をここまで誘き寄せたんじゃないだろうな」
「僕はただみんなで勉強できればと思っただけ。ほら、君の仲良しの友達も呼んでるよ」
開かれていたドアから拓斗と心春が気乗りしない様子で入ってきて伊吹生はさらに眉間の縦皺を増やした。
「イブキぃ、オレさ、ガチで仕上げなきゃいけない課題があんだけど、家帰って速攻やろうと思ったんだけど」
「伊吹生センパイ、私、友達と遊ぶ予定があったんだけど」
最近になって、凌貴に執着されている伊吹生のせいで巻き込まれた感を正直に出すようになった二人に伊吹生はちょっとたじろぐ。
「……悪い、二人とも」
「しかもなんで旧校舎~、って……小学生がいる?」
「あの子、誰?」
机やイスをガタガタ言わせて一か所に集め、勉強会のセッティングを終えた瑠唯は、飛び跳ねるようにして伊吹生の元へ。
ぎゅっと横から抱き着いてくると初対面となる拓斗・心春にキラキラと眩い笑顔を向けた。
「はじめましてっ。勉強会にようこそっ」
「えっ。この子が主催者~?」
「忽那瑠唯ですっ、凌貴お兄ちゃんの弟ですっ」
「似てると思ったけど、やっぱり弟なのね……」
かくして旧校舎で開かれた放課後の勉強会。
「全問正解だね、瑠唯。苦手な算数をよく頑張ったご褒美をあげようね」
「わーい」
算数ドリルを解いたご褒美に兄の凌貴から高級チョコレートを一粒もらって瑠唯はご満悦だ。
「うぇぇ……ぜんっぜん進まん……これ明日提出できんのか~……うぐぐ」
成績が芳しくない拓斗は特別に出された課題に悪戦苦闘しているようだ。
「英コミも数学も宿題終わったから古文の予習でもしようかな……」
心春はなかなか順調に勉強を進めているらしい。
一人、伊吹生だけが勉強会に集中できずにいた。
やはりどうにも場所が悪い。
静か過ぎる周囲が気になって勉強どころではなかった。
「ッ」
不意に頭上の蛍光灯が忙しなく点滅して伊吹生はどきっとする。
「古いからね。いつ切れてもおかしくない」
自分の動揺をすぐさま嗅ぎつけた凌貴にサラリと言われると、ジロリと一瞥し、余白が目立つノートと改めて向き直ろうとした。
そのとき。
一つだけ点灯させていた蛍光灯が完全に光を失って教室は薄闇に閉ざされた。
「あ~あ、ガチで切れちゃった」
「こんなに暗いと目が悪くなる……」
拓斗と心春は然して動揺するでもなく「やれやれ」と天井を仰いでいる。
「もう夜になっちゃった?」
「まだ五時を過ぎたばかりだよ、瑠唯」
小さな瑠唯も怖がる様子は皆無、凌貴の隣でただ不思議そうに辺りをきょろきょろ見回していた。
「もう帰ろう」
伊吹生だけが動揺を極めていた。
傍目には取り乱すことなく落ち着いて見えるが、実は緊張で体が硬直しているだけだった。
「心春の言う通り、目に悪いし、雨も降り出しそうだからこの辺で切り上げていいだろ。瑠唯も十分満喫したよな?」
三つ目のチョコレートをもぐもぐしていた瑠唯に尋ねれば「勉強会の休憩に丁度いいんじゃないかな」と凌貴に返されて伊吹生は仏頂面と化す。
「学園七不思議の一つだし、幽霊出てきたりしてね~」
あっけらかんとした拓斗の発言に伊吹生は内心青ざめた。
「外部生なのに七不思議のこと知ってるんだね、拓斗センパイ」
「聞いたことあるよ~。この校舎で昔死んじゃった生徒がいて、その幽霊が出るとか」
「拓斗……俺達もう高三なんだから、そんな子どもじみたこと言うな。それに不謹慎だぞ」
「え~、冗談じゃんか~。そんな怒んなくたっていいじゃんか~」
拓斗にぶーぶー文句を言われて伊吹生は内心反省する。
(子どもじみてるのは俺の方だ、悪い、拓斗)
一度だけ。
伊吹生は見たことがあるのだ。
あれは多分、この世のものならざるもの、だった――。
「誰もいないはずの屋上の人影。放送室の不可解なノイズ。夜な夜なソナタを奏でる音楽室のピアノ。体育館裏のおくるめさん。校庭を彷徨う首なし武者。血のシャワーが出る更衣室」
幼稚園からストレートで通っている内部生の凌貴はこの学園に纏わる怪異をスラスラと述べる。
「そして最後の七つ目がこの旧校舎の亡霊」
そのとき。
突如として静寂を脅かす音が教室中に鳴り響いた。
「あ、ごめん、オレのスマホだ~」
「……学校では通知音切っておけよ、拓斗」
「も~、今日のイブキ注意ばっかしてくる~、大事な連絡なんだよ~、さて返信しとこ、ぽちぽち」
「……」
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