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「次の日に彼は亡くなりました」
「自営業で、配達の途中で……」
「ええ。彼の死を知らされたとき、思ったんです。もっと話をしたらよかった、美味しいものをたくさん食べさせてあげればよかったと。心残りしかありませんでした」
「……その生徒って、もしかしてベータでしたか?」
伊吹生の問いかけに時成は深く頷いた。
「拓斗君は彼にとてもよく似ています」
伏せていた顔を上げ、また階段を見つめる時成に伊吹生は一つの想像を抱く。
(この人、その生徒のことを好きだったんじゃないのか?)
それで境遇まで似ている拓斗のことを構っているとか。
まさか……十歳年下の高校生に恋愛感情を抱いてるなんてことないよな?
「学外での彼の死がどこでどう捻じ曲げられたのか、この階段で命を落としたなんていう根も葉もない噂が当時出回りました。それが学園七不思議の一つになった経緯です」
「……不謹慎な話ですね」
「でも」
時成は伊吹生に向き直ると、弟の凌貴が決してしないような照れ笑いを浮かべた。
「七不思議として生き永らえているような、いつでもこの階段で彼と再会できるような気がしなくもないんです」
ぐっと、伊吹生の手を握る冷えた手に力が入った。
(……この階段で死んだ人はいない、尾鰭のついた噂がただ延々と漂っているだけ、つまり幽霊はいない、この感覚は俺の気のせい、そうに決まってる)
無視できない違和感に片手を囚われているものの、気のせいだと自分に言い聞かせて平静さを取り繕う伊吹生の元へ、救いの天使はやってくる。
「ただいまっ」
瑠唯だ。
階段を駆け下りてきた少年は後ろから伊吹生にしがみつくと「時成お兄ちゃんだっ」と、驚きと喜びでいっぱいの声を上げた。
「なんでいるのっ?」
「友人を迎えにきました」
「ゆうじんっ? お友達っ? ここのおばけっ?」
「おばけは連れて帰れませんよ、瑠唯」
年の相当離れた兄弟の仲睦まじい会話を聞きながら、伊吹生は、肩の力がどっと抜けて小さく息をつく。
手を握られていた感覚は瑠唯が飛びついてきたのと同時に消え失せていた。
(気のせい、気のせいだ)
数分足らずでみるみるかじかんだ手をグーパーさせていたら、瑠唯が両手でぎゅっとしてきて、その大きな瞳をまん丸に見開かせた。
「伊吹生お兄ちゃんの手、つめたいっ。氷みたいっ。あっためなきゃっ」
冷たくなった手に滑々のほっぺたを押しつけられ、そのほっとするような温かさに伊吹生はつい安堵の笑みを零す……。
「あれっ、忽那さんだ~。なんでなんで~!?」
時成と共に教室へ戻れば、びっくりした拓斗が笑顔で駆け寄ってきた。
「旧校舎にいるとメールにあったので迎えにきました」
「え~。お迎えとかなんか照れちゃうな……わざわざありがとうございますっ」
照れながらお礼を述べた拓斗を微笑ましそうに見つめる時成を伊吹生はチラリと横目で窺う。
二人の関係を放置していいのだろうかと気を揉みつつ、明かりが戻った蛍光灯を眩しそうに見上げた。
「肝試し、お疲れさま、伊吹生センパイ」
「ここを出てから十分も経ってないんだな……凌貴はどこに行ったんだ?」
見当たらない凌貴について尋ねれば、瑠唯にただいまのハグをされていた心春は指差した。
「そこ」
真後ろを指差さされて何とはなしに振り返り、すぐ背後にいつの間に迫っていた凌貴に伊吹生はギクリとしてしまう。
「……いちいち驚かせるなよ、面倒くさい奴」
「驚いたのは僕の方だけど、伊吹生君」
薄ら笑いを浮かべる凌貴に淡々と言い返される。
伊吹生は怪訝そうに首を傾げた。
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