目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

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10-7

「伊吹生センパイ、その人ね。二人が東階段に向かった後、すぐに自分も教室を出ていったの」

心春の言葉を聞いて仏頂面になった伊吹生の腕をとり、教室の隅っこへ誘うと、凌貴は声のトーンを落として問いかけてきた。

「君、東階段で何を見たの?」
「……黙ってつけてくるなんて感じが悪い、軽蔑する」
「僕には何も見えなかったけれど、時成兄さんと話しているときの君の様子は明らかにおかしかった」
「気のせいだろ」
「もしかして伊吹生君って霊感があるの?」
「ない、そんなもの」
「なるほど。人より見えてしまうから怖がりなんだね」
「怖がりじゃないし、見えてもいない」

(そうだ、さっきだって何も見ていない、手の感覚だけで気のせいだってパターンも十分ありえる)

ただ。
前に見たものは「気のせい」では片付けられない違和感の塊だった。




沈黙の学び舎を出れば愚図ついていたはずの空の雲間には星空が覗いていた。

「はぁ、やっと帰れる」
「お勉強会、おつかれさまでしたっ、よくがんばりましたっ、心春お姉ちゃんっ」

愚痴っていた心春は悪気ゼロの瑠唯に労われて「瑠唯くんもよく頑張りました」と笑って労わり返した。

「どうしよ~、結局課題ぜんっぜん進まなかったよ~、やばすぎる~」
「差し支えなければ私が見てあげましょうか、拓斗君」

名残惜しそうに旧校舎の方を顧みていた時成は、視線を隣に切り替え、嘆く拓斗にとって救いでしかない提案をする。

「え!? いいんですか!? や、やったぁ~……!」

(拓斗みたいな人、か。同じ時代、同じ教室にいたら俺も友達になりたかった)

「階段の踊り場で物音を立ててみたら伊吹生君が過剰に反応していて、あれは傑作だったね」

前を行く四人の様子を眺めていた伊吹生は隣を歩く凌貴の揶揄を聞き流す。

練習を終えた部活生も下校を始めていた。
校舎の窓にはまだいくつか明かりが点っている。

広々とした学内の校門に向かう途中、第二体育館の横を通り過ぎる際、伊吹生は口を開いた。

「お前が言ってた七不思議で聞き慣れないのが一つあった」

近年建てられたばかりの第二体育館は真新しく、中高の授業や部活動の場としてメインで使用されている。

「体育館裏のおくるめさんって、なんだ?」

一方で第一体育館は旧校舎と同じく老朽化が進んでおり、第二体育館のサブとして使われていた。

「どういう謂れがあるんだ?」

真面目に尋ねた伊吹生はまた揶揄されるかと思ったが、凌貴にそんな素振りはなく、彼もまた真面目に回答してくれた。

「七不思議って時代の流れによって変化していくものだよね。都市伝説みたいに。この学園も同じ。僕がいる間に入れ替わったり、新しいものが誕生したり。旧校舎の亡霊もその一つ」

――でも「おくるめさん」だけは昔からずっといるらしい。

「……だから、何なんだ、それ」
「さぁ」
「さぁ、って……」
「僕の祖父が在校していた頃からいるそうだよ。渡り廊下だったり、美術室だったり、居場所は転々としているけど」

凌貴の話を脳内で噛み砕き、呑み込んで、入学当時に目にした「あれ」を伊吹生は思い出す。

(目のない男の子じゃないのか)

急に立ち止まった伊吹生を凌貴はまじまじと見つめてきた。

第一体育館での体育の授業中、開放されていた扉からバレーボールが外へ出てしまい、伊吹生は一人で取りにいった。

雑草や樹木が生い茂る体育館裏でボールはすぐに見つかった。
「それ」が持っていたのだ。

青白い男の子の姿形をした、眼窩が落ち窪んであるはずの眼球が見当たらない「それ」はばかりと口を開いた。


『おくるえええぇめえぇぇえ』


(……おくるめ……おくるえめえ……)


「……おくれ、目……」

伊吹生はぽつりと呟く。
学内を転々と移動しているというソレが自分の元へまた現れないよう、心から願った。


感想 4

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みんなの感想(4件)

新
2026.02.18

つ、続きを、、、!!

2026.02.18 石月煤子

今、ちょっとこちらのネタが尽きていまして⋯!
思いついたら投稿しますね!!

解除
球磨
2026.02.13 球磨

ひぇ···伊吹生くん本物の怪異に遭ってる···
今回の章は、ホラーが苦手な自分にはちょいと怖かったですね😣

2026.02.13 石月煤子

ご感想どうもありがとうございます!
微ホラー要素を取り入れてみたのですが、苦手な方はやっぱり「怖いっ」ってなられますよね、汗。
章の最初に注意書きを入れておこうと思います!

解除
かのこ
2026.01.21 かのこ

四股中!爆笑です。凌効くんが、そんなオチャメな冗談を言うなんて。意外に可愛い人なんですね。
凌貴くんこそ伊吹生くんの王子様ですね。また助けられちゃった。

2026.01.21 石月煤子

そうなんです、凌貴は伊吹生のピンチにはいつも駆けつけるんです。
現段階では伊吹生にとって凌貴はまだ悪魔>>>王子様ですが、いつかMAX王子様になる⋯かもです。

解除

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