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押し寄せてくる興奮の波に身も心も攫われる。
「ん……ン……ッ……ッ」
天蓋に覆われたベッドの上で密に交わされる唇。
結びついては絡まり合う舌と舌。
しつこく鳴らされる粘着質の水音は真夜中にこびりつくようだった。
「も……やめ……」
ナイトガウンを乱して魘されるように喘ぐ男。
普段、白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は乾いた眼差しを紡ぎがちだが、強制的な快楽に突き落とされた今は熱く濡れそぼっていた。
そんな男の両手をシーツに縫い止め、しなやかな体に覆い被さる青年。
深黒(しんこく)の髪に黒ずくめの格好をした彼は男の両足の間に割って入り、獲物を貪る肉食獣さながらなキスに耽っていた。
「……やめないで、でしょう……?」
激しい口づけとは裏腹にひどく穏やかな声は高まりゆくムードをいとおしげになぞるような。
「もっと欲しいくせに」
生温く濡れ渡る粘膜奥を舌尖で巧みに嬲りながら青年は微笑んだ――。
この世界には「吸血種」と「普通種」が存在している。
「吸血種」は他者の血を飲んで効率的に豊潤なエネルギーを得ることができる。
「普通種」と比べて「吸血種」の人口比率は低く、しかしながら多方面において優れた才能を生まれ持つ彼等は社会階層の上位に自然と据えられる。
向上心が強い者は指導者として「普通種」を魅了し、確たる足取りで追随者を先導し、経済と文明の発展を率先して担ってきた。
理想的なリーダーもいれば驕り高ぶる君主もいる。生まれながらに非凡で特別な自分達には一生劣ると「普通種」を下僕扱いする圧制者だ。
悪しき存在もいる。
吸血本能、血への渇望に逆らえずに理性を手放して「普通種」を襲ってしまう者。
彼等は「吸血鬼」と呼ばれ、捕食対象となる人々から恐れられていた。
「甫センセェのおかげで人生を立て直すことができました」
華々しい成功を収めるパターンとは対象的に、至って慎ましく地道に暮らす「吸血種」もいる。
「吸血種の司法書士さんっていうから、最初はちょっとビビッてたんです」
市街地の裏通りに建つ五階建てのテナントビル。エレベーターはない。三階まで階段を上ってすぐの突き当たりに、その個人事務所はあった。
「でもセンセェに債務整理頼んでマジでよかったです」
適度な広さのフロアはパーテーションで仕切られていた。片側は雑然とした執務スペース。もう片側の応接スペース中央には木目調の天板にスチール脚のミーティングテーブルが置かれている。
「愛想はないけど、取り繕ってる感じがしなくて、逆に好感度高めというか?」
「それはどうも」
この「甫伊吹生司法書士事務所」を甫伊吹生(うらいぶき)は一人で切り盛りしていた。
白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は、愛想のない乾いた眼差しを紡いでいる。
整髪料と手櫛でざっと撫でつけられた黒髪。日焼けに疎い色白の皮膚は、三十路寸前という年齢にしては肌艶に富んでいて若々しい。
しなやかに引き締まった体つきで、身長は百七十八センチ。白いワイシャツは腕捲りしている。第一ボタンは外され、ダークカラーの無地のネクタイは日頃から緩みがちだった。
「それじゃあ、どーもお世話になりました」
依頼人の若者が事務所を去ると伊吹生はフロアの明かりを消した。四脚ある回転イスの位置を正し、窓辺に立つ。ブラインドに覆われた窓ガラスの向こうには七月の宵闇が迫っていた。
予期せぬタイミングで人ならざるものに遭遇しそうな夏が、伊吹生は嫌いだった。
「ん……ン……ッ……ッ」
天蓋に覆われたベッドの上で密に交わされる唇。
結びついては絡まり合う舌と舌。
しつこく鳴らされる粘着質の水音は真夜中にこびりつくようだった。
「も……やめ……」
ナイトガウンを乱して魘されるように喘ぐ男。
普段、白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は乾いた眼差しを紡ぎがちだが、強制的な快楽に突き落とされた今は熱く濡れそぼっていた。
そんな男の両手をシーツに縫い止め、しなやかな体に覆い被さる青年。
深黒(しんこく)の髪に黒ずくめの格好をした彼は男の両足の間に割って入り、獲物を貪る肉食獣さながらなキスに耽っていた。
「……やめないで、でしょう……?」
激しい口づけとは裏腹にひどく穏やかな声は高まりゆくムードをいとおしげになぞるような。
「もっと欲しいくせに」
生温く濡れ渡る粘膜奥を舌尖で巧みに嬲りながら青年は微笑んだ――。
この世界には「吸血種」と「普通種」が存在している。
「吸血種」は他者の血を飲んで効率的に豊潤なエネルギーを得ることができる。
「普通種」と比べて「吸血種」の人口比率は低く、しかしながら多方面において優れた才能を生まれ持つ彼等は社会階層の上位に自然と据えられる。
向上心が強い者は指導者として「普通種」を魅了し、確たる足取りで追随者を先導し、経済と文明の発展を率先して担ってきた。
理想的なリーダーもいれば驕り高ぶる君主もいる。生まれながらに非凡で特別な自分達には一生劣ると「普通種」を下僕扱いする圧制者だ。
悪しき存在もいる。
吸血本能、血への渇望に逆らえずに理性を手放して「普通種」を襲ってしまう者。
彼等は「吸血鬼」と呼ばれ、捕食対象となる人々から恐れられていた。
「甫センセェのおかげで人生を立て直すことができました」
華々しい成功を収めるパターンとは対象的に、至って慎ましく地道に暮らす「吸血種」もいる。
「吸血種の司法書士さんっていうから、最初はちょっとビビッてたんです」
市街地の裏通りに建つ五階建てのテナントビル。エレベーターはない。三階まで階段を上ってすぐの突き当たりに、その個人事務所はあった。
「でもセンセェに債務整理頼んでマジでよかったです」
適度な広さのフロアはパーテーションで仕切られていた。片側は雑然とした執務スペース。もう片側の応接スペース中央には木目調の天板にスチール脚のミーティングテーブルが置かれている。
「愛想はないけど、取り繕ってる感じがしなくて、逆に好感度高めというか?」
「それはどうも」
この「甫伊吹生司法書士事務所」を甫伊吹生(うらいぶき)は一人で切り盛りしていた。
白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は、愛想のない乾いた眼差しを紡いでいる。
整髪料と手櫛でざっと撫でつけられた黒髪。日焼けに疎い色白の皮膚は、三十路寸前という年齢にしては肌艶に富んでいて若々しい。
しなやかに引き締まった体つきで、身長は百七十八センチ。白いワイシャツは腕捲りしている。第一ボタンは外され、ダークカラーの無地のネクタイは日頃から緩みがちだった。
「それじゃあ、どーもお世話になりました」
依頼人の若者が事務所を去ると伊吹生はフロアの明かりを消した。四脚ある回転イスの位置を正し、窓辺に立つ。ブラインドに覆われた窓ガラスの向こうには七月の宵闇が迫っていた。
予期せぬタイミングで人ならざるものに遭遇しそうな夏が、伊吹生は嫌いだった。
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