嗜虐的に恋して咬みついて

石月煤子

文字の大きさ
1 / 38

1-1-エンカウント

しおりを挟む
 押し寄せてくる興奮の波に身も心も攫われる。

「ん……ン……ッ……ッ」

 天蓋に覆われたベッドの上で密に交わされる唇。
 結びついては絡まり合う舌と舌。
 しつこく鳴らされる粘着質の水音は真夜中にこびりつくようだった。

「も……やめ……」

 ナイトガウンを乱して魘されるように喘ぐ男。

 普段、白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は乾いた眼差しを紡ぎがちだが、強制的な快楽に突き落とされた今は熱く濡れそぼっていた。

 そんな男の両手をシーツに縫い止め、しなやかな体に覆い被さる青年。

 深黒(しんこく)の髪に黒ずくめの格好をした彼は男の両足の間に割って入り、獲物を貪る肉食獣さながらなキスに耽っていた。

「……やめないで、でしょう……?」

 激しい口づけとは裏腹にひどく穏やかな声は高まりゆくムードをいとおしげになぞるような。

「もっと欲しいくせに」

 生温く濡れ渡る粘膜奥を舌尖で巧みに嬲りながら青年は微笑んだ――。






 この世界には「吸血種」と「普通種」が存在している。

「吸血種」は他者の血を飲んで効率的に豊潤なエネルギーを得ることができる。

「普通種」と比べて「吸血種」の人口比率は低く、しかしながら多方面において優れた才能を生まれ持つ彼等は社会階層の上位に自然と据えられる。
 向上心が強い者は指導者として「普通種」を魅了し、確たる足取りで追随者を先導し、経済と文明の発展を率先して担ってきた。

 理想的なリーダーもいれば驕り高ぶる君主もいる。生まれながらに非凡で特別な自分達には一生劣ると「普通種」を下僕扱いする圧制者だ。

 悪しき存在もいる。

 吸血本能、血への渇望に逆らえずに理性を手放して「普通種」を襲ってしまう者。

 彼等は「吸血鬼」と呼ばれ、捕食対象となる人々から恐れられていた。

「甫センセェのおかげで人生を立て直すことができました」

 華々しい成功を収めるパターンとは対象的に、至って慎ましく地道に暮らす「吸血種」もいる。

「吸血種の司法書士さんっていうから、最初はちょっとビビッてたんです」

 市街地の裏通りに建つ五階建てのテナントビル。エレベーターはない。三階まで階段を上ってすぐの突き当たりに、その個人事務所はあった。

「でもセンセェに債務整理頼んでマジでよかったです」

 適度な広さのフロアはパーテーションで仕切られていた。片側は雑然とした執務スペース。もう片側の応接スペース中央には木目調の天板にスチール脚のミーティングテーブルが置かれている。

「愛想はないけど、取り繕ってる感じがしなくて、逆に好感度高めというか?」
「それはどうも」

 この「甫伊吹生司法書士事務所」を甫伊吹生(うらいぶき)は一人で切り盛りしていた。

 白目と黒目のコントラストがはっきりしたシャープな瞳は、愛想のない乾いた眼差しを紡いでいる。

 整髪料と手櫛でざっと撫でつけられた黒髪。日焼けに疎い色白の皮膚は、三十路寸前という年齢にしては肌艶に富んでいて若々しい。

 しなやかに引き締まった体つきで、身長は百七十八センチ。白いワイシャツは腕捲りしている。第一ボタンは外され、ダークカラーの無地のネクタイは日頃から緩みがちだった。

「それじゃあ、どーもお世話になりました」

 依頼人の若者が事務所を去ると伊吹生はフロアの明かりを消した。四脚ある回転イスの位置を正し、窓辺に立つ。ブラインドに覆われた窓ガラスの向こうには七月の宵闇が迫っていた。

 予期せぬタイミングで人ならざるものに遭遇しそうな夏が、伊吹生は嫌いだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

処理中です...