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しおりを挟む「いない、どこにもいない、燎一郎が消えてしまった」
「ご主人様、お気をしっかり」
「あんなひどいことしちゃうから?」
「愛想が尽きたのよねぇ?」
途方に暮れているカミュを取り囲んでいた執事と双子メイド。
「お前達、余計なことを言うでない、ワタクシも同意見ではあるが」
片眼鏡をかけたシュナウザー頭の執事セバスチャンは思慮深げに両腕を組み、着崩したメイド服姿のキャバリア頭なリアナ・ケシャは揃って肩を竦めてみせた。
雨が降り出した。
遠い眼差しをしたカミュは木々の生い茂る暗い庭園に右目を向ける。
「カッとなったのだ。私の見知らぬ相手と楽しそうに話していた燎一郎に」
シャープで端整な横顔に眩い稲光が過ぎった。
「探しに行かなければ。燎一郎が濡れてしま……」
不意に言葉を切った主人に召使らはキョトンした。
「燎一郎の匂いだ」
「この雨の中で匂いが?」
「「気のせいでは、御主人様?」」
カミュは走り出した。
外套の裾を靡かせ、毛足豊かな絨毯の上を長い長い足で踏みしめ、二階バルコニー前から開放感ある吹き抜けの玄関へあっという間に、両開きの扉を豪快に押し開いて雨の降り頻る外へ。
「……カミュ……」
門へと連なる舗道の途中でカミュは燎一郎を見つけた。
急な豪雨に全身濡れてしまっている。
フードを外しており、髪の先から雨滴が次々と滴り落ちている。
有無を言わさずにカミュは燎一郎を抱き抱えた。
外套で包み、屋敷の中へ、彼に宛がった部屋へ一瞬にして運んだ。
疾風の如く駆けて行った我が主に召使らは瞬きする。
「最初に燎一郎様をお目にしたときとまるで同じご様子で」
「「デジャブみたい」」
強くなっていく雨。
庭の木々が撓って闇に躍る。
「ああ。それは婚約の誓いを意味するものだ」
当たり前のように回答されてベッドにいた燎一郎は目を剥いた。
「ばッ……んなの、一言も聞いてねぇぞ!?」
「お前の世界では違う意味を持つのか」
「ゆ、指輪だッ、そういうのには指輪ッ、首輪とは違……ッ」
あれ、違うのかな、もしかして実は一緒とか……いやいやいや!!
そういや街で見かけた奴等の中にも首輪してるの、いたな。
違和感なくて見過ごしてたけど、飼われてるわけじゃなくて、誰かとイイ仲ってわけで。
「もっと問題じゃねぇか」
ぶかぶかなシャツ一枚という姿にタオルを頭から引っ掛けた燎一郎の元へカミュはやってきた。
「なんでそんなモン、俺につけやがった、カミュ」
燎一郎がそう問いかければ。
その片手を恭しくとって。
冷えた手の甲に鼻先をそっと押し当てた。
「一目見て私の伴侶にしたいと思ったからだ」
屋敷の裏手に広がる森の中で倒れていた燎一郎。
その胸に抱かれていた小さな命は弱りかけていた。
ソレを大事そうに抱きしめて眠るように草むらに横たわっていた、貴重な文献で存在は知っていた、初めてこの目で目の当たりにしたニンゲン。
なんて美しい。
壊れやすそうでいながら、意識を失いながら、弱りかけた命を必死になって守ろうとしている燎一郎にカミュは心を奪われた。
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