美形アルファと地味オメガは兄弟つがい

石月煤子

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「――っ……ぷ……ぁ……っ……ごほっ……はぁ、はぁ……はぁ……っ」

囚われていた弟の唇が解放されたのは五分後だった。
息継ぎのタイミングが掴めずに窒息寸前だった二葉は、咳き込み、項垂れる。

「二葉」

頬に両手を添えられて上向くよう促された。

「顔が赤い」
「……」
「熱いね」

これまで自分に対して「怒」の仮面でもつけていたのか。
そしてその仮面が剥がれ落ちでもしたかのように暁帆は優しく微笑み、声色まで穏やかになっていた。

「アキ兄」

五分前なら二葉は手放しで喜んでいたに違いない。
しかし五分にも及んだキスの後だとそうもいかなかった。

「な……んで……ど、して……」
「今日は父さんの資料を借りにきたんだ」
「っ……いや、そうじゃなくて……!」
「平日の昼過ぎで二葉がいるなんて思わなかった」
「……だから、創立記念日だったから……」

前屈みになっていた暁帆は紅潮した二葉の頬を改めて包み込んだ。

「……アキ兄、なんでオレなんかにキス、ッ……」

二葉はどきっとする。
たった先程まで念入りに口づけられていた唇を親指でなぞられた。

「く……くすぐったいから……」

二葉が嫌がる素振りを見せても指先の悪戯は止まらない。

(弟の口なんかいじって何が楽しーんだ?)

大体、なんでキスしたのかも教えてくんない。
これならまだ冷たく突き放されてる方がマシかも。
だって、今のアキ兄が何考えてるのか、何したいのか、いっこもわからない……。

「ドキドキした?」

暁帆は昔と同じ、いや、昔よりも愛情に満ち満ちた眼差しを二葉に注いでいた。

「あ……」

二葉の手をとると服越しに自分の左胸へと導く。

「僕はしたよ。今だって、心臓、こんな」

アイラインを引けば凄艶ですらある切れ長な目に弟だけを映し込み、暁帆は告げた。

「二葉はこれから僕のものになる」

言われたことを一つも理解できずに聞き返そうとした二葉は。
突然、その場で暁帆に軽々と抱き上げられて絶句した。

(アキ兄にお姫様抱っこされた!!)

「軽いね。ちゃんと食事してる?」
「おっ……下ろして、アキ兄、早く早く」
「相変わらずピーマンとニンジン、苦手なの?」
「それはもう克服したッ!!」

割とつい最近まで苦手であった野菜だが、ついムキになって答えた二葉は、お姫様抱っこのまま兄の部屋へ連れて行かれて大いに戸惑う。

高校卒業後にこのマンションを出て一人暮らしを始めた暁帆の部屋は綺麗に片づけられていた。

「アキ兄っ、靴っ、靴履いたまんま!」

ベッドの上に下ろされた二葉は、共にベッドへ乗り上がってきた土足の兄に目をヒン剥かせる。

「あ。本当だ」

淡々とそう言っただけで靴を脱ごうとしない、自分の真上へやってきた暁帆に唖然とした。

「あのまま帰ろうと思ったけど」
「アキ兄……これってドッキリか何かだよね?」
「できなかった」
「オレのことからかってるだけだよね?」
「死ぬまで秘密にしておくつもりだったのに」

二葉は……さすがにやっと理解が追いついてきた。
しかしどうしても信じられなかった。

誰からも完璧だと評される美しいアルファの兄が、まさか、血の繋がったオメガである弟のことを本当に欲しがっているなんて――

「ずっと二葉のことが欲しかった」
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