アンチ・リビングデッド・アンデッド・キラー

石月煤子

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後編

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「今、貴方なんて言いました、ヴィッカス……?」

この世の終わりじみた世界の片隅で神父のジェイドはさらなる衝撃に見舞われる羽目に。

「私の聞き間違いでしょうか……?」

重装備で身を固めた黒ずくめの元傭兵、ヴィッカス。
瓦礫だらけの表通りに常に蔓延る死臭を払い除けるかの如く、鋭く澄んだ青水晶の眼。
いかなる不意討ちの襲撃にも俊敏に反応してゾンビを仕留める。
これまでの戦闘経験で培った五感とスキルをフルに駆使して、それは鮮やかに、速やかに。
そんなヴィッカスは割れたショーウィンドウの前で立ち尽くすジェイドに平然と繰り返す。

「俺は十九歳だ、神父」

(神よ、お赦し下さい)

知らなかったとはいえ、同性であることも大罪に値するというのに、二十歳にもいかない青年と体の繋がりを持ってしまった私を罰して下さい。

「そんなところで立ち止まらないで、神父様?」
「日暮れまでまだ時間はあるが。死の大行進は白昼にも起こりうる。常時即決力と敏捷性が問われるのだ」

前を進んでいた、ヴィッカスと同様の出で立ちをしたリディソンとマイラスの兄妹に言われてジェイドは我に返った。
慌てたところを瓦礫に足元を掬われる。
よろけた細身の体は隣にいたヴィッカスに難なく抱き止められた。

「何も不安がる必要はない、俺がいるからな」

どこからともなく聞こえてくる断末魔や銃声、禍々しい不穏な音色をものともしない鋭い眼差しを真っ向から浴びてジェイドは……赤面する。

「干乾びかけた奴等なんざどうってことない。俺が守ってやる。安心しろ」




だが、しかし。
実際、守られたのは。




「ウソでしょ、神父様……!」

男臭い野郎だらけの環境で育ってきたせいか、ストイックな雰囲気で切れ長な双眸がそこはかとなく悩ましい、優しいジェイドに想いを寄せていたリディソンは涙を溢れさせた。

「まさか、そんな」

リディソンの兄のマイラスは一つに結われた長めの赤髪を翻させて愕然としていた。
ヴィッカスは。
禍々しいほどに色づいた夕焼けへ立ち上る黒煙を言葉もなしにただ見ていた。

『私が囮になります、皆さんは外へ……!』

幼い頃に病で死した母の形見であるロザリオをどうしても取りに行きたいと神父は願った。
我儘など滅多に口にしないジェイドの欲求を叶えるため、ヴィッカスは、昔から行動を共にしているリディソンとマイラスを連れ立って郊外の別荘から街へ向かった。
辿り着いた石造りの教会。
生者を嗅ぎつけたゾンビの群れに囲まれた。

『これは全て私のせい。貴方がたを巻き込むわけにはいきません』

古い教会の地下にはむやみやたらに出歩かない亡者が安らかに眠るカタコンベがあった。

『私も後を追いますから、さぁ、早く!』

プラスチック爆弾を一つ譲り受けた神父はそう約束し、教会になだれ込んできたゾンビの群れを背景に、頼りない細腕で三人を……地下の墓所へ突き落した。
彼らを助けるために必死で絞り出した、正に火事場の馬鹿力、だった。
僅かに吹く風を頼りにカタコンベから外へ三人が脱した矢先に。
爆音と共に教会は火に包まれた。

「嫌よ、そんな……」

リディソンの泣き声が灰を散らす風に溶けていく。
マイラスは無念そうに首を左右に振る。
燃え盛る教会をヴィッカスはいつまでも無言で見つめ続ける……。

「危ないところでした」

いつになく大きく見開かれた青水晶。

「え、神父様!?」

驚きと再会の喜びに満ちたリディソンの呼号がマトモな通行人のいない街角に響き渡った。

「そんなところから、まさか別に抜け道が?」

マンホールの鉄蓋をぶるつく両腕で持ち上げて地上へ顔を出そうとしている神父にマイラスは直ちに駆け寄った。

「ええ、その通りです、ごほごほっ」

サイズの合わないシャツとゆるゆるズボンの端を焦げつかせ、頬には煤、軽い火傷を負った神父はマイラスの助けを借りて暗い縦孔から脱した。
抱きついてきたリディソンにジェイドは微笑する。
惜しみなく降り注ぐ夕日にセピア色の髪を艶めかせて、まるで何事もなかったかのように、静かに。
相も変わらずヴィッカスはただ黙って見ていた。
真っ直ぐな視線に気づいたジェイドが自然な微笑をほんの少し崩して、ぎこちなく顔を逸らしても、ずっと。
冷静沈着なマイラスは泣きじゃくる妹に微苦笑して暮れゆく空を仰いだ。

「爆音に反応したゾンビが集まり出す前に。早く戻ろう。久し振りにビールを飲んで神父様の生還を祝いたい気分だ」





プールを囲むようにしてぐるりと広がる南国リゾート風に造られた高級感溢れる建物。
その奥の一室、毛足豊かな絨毯の上に脱ぎ捨てられた服と武器の数々。

どくん…………っ

「あ……あ……!」

薄闇に限界まで反った白い喉。
首筋に浅く埋まっていた歯列がさらに深く喰い込む。
開放的な窓辺から差し込む月明かりに仄かに浮かび上がった震える爪先。
裾が焦げついた黒シャツを羽織っただけのジェイドは腹底を支配されゆく感覚に溺れた。
勢いある放精に仮膣を明け渡し、喉骨を引き攣らせ、第一絶頂を全身で痛感していたら。

「っ……え……?」

速やかなる律動の再開にぎょっとした。
いつも以上に乱暴に体を押し開かれて最初は抵抗していたものの、奥まで打ちつけられる熱い楔に理性は溶け、拒んでいた屈強な体に結局は縋って甘い堕落を共有して。
しかしあまりにも早急な再開に戸惑う。
盛った獣さながらに動く彼の青水晶を怖々と見上げた。

「……ヴィッカス……」

(何も言わないで、睨むように私を見て、こんなにひどく……するなんて)

怒っているんですか……?
どうして……?

「あっ……待っ……そんな奥ばかり……っやめ……っ」

力任せに両足をより開かされ、一度絶頂を迎えても尚怒張したままのペニスで最奥を立て続けに突き上げられた。
ジェイドは息苦しそうに悶える。
ヴィッカスは低い息遣いを単調に反芻してジェイドを揺さぶり続けた。
どうしようもなく滾る楔で狂おしく収縮する仮膣を無造作に引っ掻き回した。

「んーーー……っっ」

目尻に涙を溜め、ジェイドは、屈強な肩に爪を立てた。

「どうして、こんな、ひどく……っ」

涙ながらの訴えは欲望に突っ走っていたヴィッカスの動きをやや静めたかのように思われた。

「どうしてずっと何も言わないんです、ヴィッカス……」

伏し目がちに切なげに見つめられたヴィッカスは。
乱暴にジェイドを抱き起こすなり怯えていた唇にキスを。
柔らかな舌に絡みついた傲慢な舌。
満遍なく温もっていた口内を我が物顔で犯す。
唾液を鳴らし、歯を立て、舐め上げ、同時に肉奥に突き立てたペニスを本能を剥き出しにして窮屈な窄まりでしごかせた。

「んっ、ンっ……ふ、ぁっ……ン……ッ」

痕がつくほどに尻丘を掴まれて肉杭を打ちつけられて呻吟するジェイドにヴィッカスは答える。

「ああ、敢えてひどくしてる、神父」

キスの最中に囁かれてジェイドは濡れがちな双眸を見開かせた。

「あんたは大罪を犯そうとした、そのお仕置きだ」
「ン……っ……んっ……んっ……っ」
「その身でもって償ってもらわないとな……」

次は四つん這いにされて後ろから。
汗ばむ両手で細腰を固定され、不規則に、性悪に。
じれったい速度で意地悪くゆっくり貫かれていたかと思えば、急に速度が切り替わり、短いストロークで激しく小突かれた。

「あ、あ、っ、んっ、ぅ、う、あっ、んっ」

広いベッドのシーツを手繰り寄せ、かつてない独裁的な振舞にわけもわからず怯えているジェイドに、ヴィッカスはとどめの言葉を振り翳す。

「またあんなことしやがったら干乾びたお前を犯してやる」

ゾンビ化して行き場を失い彷徨う自分が蹂躙される。
恐ろしい悪夢に耐え切れずに神父はとうとう嗚咽した。

「やめてください、ヴィッカス……そんなこと……お願いだからやめて……」
「案外よすぎてマトモに戻るかもしれないぞ」
「やめなさいっ……もしも……私がゾンビになったら……いっそのこと貴方の手で――」
「やめろ」

不意に近づいた囁き。

「置き去りにされたコッチの苦痛も知らないで安らかに眠るなんて許さない」

まるで我が身に繋ぎ止めるように綴られた抱擁。

「俺を置いていくな、神父」

ジェイドは何度も瞬きした。
肌と肌が一段と触れ合ってヴィッカスの温もりが伝わり、真摯なる願いが鼓膜のみならず胸にまで届き、巣食っていた不安が徐々に薄れていく。

「俺の前でもう二度とあんな真似するな」
「ヴィッカス」
「いや、俺から離れていようと、絶対に」

窒息しそうなほどの抱擁はむしろ心地いい。
今この瞬間、求められている、生きていると実感できるから……。

「貴方だって……置き去りにしかけたじゃないですか」

ヴィッカスは何度も瞬きした。

「一人で街へ出て、なかなか戻らずに、どれだけ心配したか……」
「あれは大行進に遭遇して戻るに戻れなかったんだ、不可抗力だ」
「貴方も約束しなさい」

肩越しに濡れ渡った双眸で命じられてヴィッカスは不敵に笑う。

「未成年だって知った途端、保護者ぶるな」
「私のこと、置き去りにしないって……無茶しないって……」
「そんなに俺にそばにいてほしいのか」

世界は朽ちかけているというのに。
二人きりのベッドの上はこんなにも甘い。

「……私のそばにいて、ヴィッカス……」






はだけた胸元にまで飛び散った白濁の雫。

「あ、ん……っはあっ……はあっ……ン……っ」

捩れたシーツに頻りに片頬を擦らせ、ジェイドは、自身の粗相に真っ赤になった。

「こ、こんなに、私……はしたない……」

放埓に射精した自分を恥じらう神父に改めて催すヴィッカス。

「確かに、な……いっぱいでたな。とろとろに濃くて新鮮なやつが」
「っ……やめてください、わざわざ口にしなくたって」

再び仰向けにされて胸を大きく上下させていたジェイドにもっと重なる。
滑らかな肌に散っていた雫をわざとらしい舌遣いで一滴ずつ大胆に舐めとってやる。

「っ、っ、ヴィッカス、だめ、です」
「まだ勃ってる」
「ッ……やっ……!」

胸元を舐められながら達したばかりのペニスを握り込まれてジェイドはゾクリと身震いした。
筋張った五指に白濁が絡んでクチュクチュと音が立つ。
鈴口からこれみよがしに滴る残滓。
緩々と掌が上下すれば下腹部がいつにもまして疼いた。

「は……ぁ……っ」

これまでの人生において一番の発情に呑まれる。
危ういほどの露骨な愛撫に過剰に感じてしまう。

「そんな風にされたら、私……また射精してしまいます……」
「なぁ、神父、いくって言えよ」
「え……? どこに行くんです……?」
「……わざとか、それ」
「……何がわざとなんです?」

ヴィッカスは笑った。

「さすが神父様……禁欲的にも程がある」

掌の内側で脈打つペニスを念入りにしごき、ぷっくりと芽吹いた胸の突端を交互にやんわり吸う。
仮膣に沈めたままの我が身を未練がましく動かしながら。

「あ……」
「今日は駄目だな……全然おさまりそうにない」
「い、いつものことじゃないですかっ……あっ……ん……っ……」

芯をもって色づいたジェイドの乳首に舌尖を絡ませ、付け根から天辺までびしょ濡れにしてやる。
同じくしとどに濡れるペニスの頂きを甲斐甲斐しく揉みしだいて。
外からの刺激にざわめく仮膣を欲望のままに突き上げた。

「あン……んっ……ぁ……ぁ……はぁっ……」

与えられる快楽を素直に受け入れて恍惚としているジェイドにヴィッカスはどこまでも見惚れた。

「ほら、いけよ……」
「やっ、っ……また射精しちゃ……っ……い……いっちゃいます、ヴィッカス……」
「さすが神父、呑み込み早いな……俺も、また……今度はあんたと一緒にいってやるよ……」
「ヴィッカス……ヴィカ……名前で……ちゃんと私を呼んでください……」
「……気持ちいいか、ジェイド」
「ッ……いいです…………どうしようもないくらい……」
「俺もだ」





愛しいひと。
戻ってきてくれてありがとう。

一人で遠くへ行かないで。
一人にしないで。

この世界を去る時は二人で共に。





「貴方にあげたかったんです」

美しいロザリオを捧げられたヴィッカスはジェイドに強請る。

「あんたがかけてくれよ、神父」

強請られたジェイドは屈んだ彼の頭に形見のロザリオをそっと通して首にかけてやった。

「無敵になった気分だ」
「それはよかったですね」
「綺麗な十字架だな。気持ちが戒められる。あんたに触るのもしばらく控えるか」
「え」

思わず呆気にとられたジェイドにヴィッカスは愉しげに笑いかける。

「今、がっかりしたか、ジェイド?」

今にも朽ちそうな世界の片隅で爪先立ちし、年下の青年に自ら不器用なキスをした罪深い神父なのだった。



end

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