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終章
56:塔の上のサキュバス
しおりを挟む中央塔へ続く階段を、サリアは息を切らせて駆け上がった。
魔力嵐の雨が石壁の隙間から染み込み、足元を滑らせる。
遠くで雷鳴が唸り、崩落の危機が学院を締め付ける。
サリアの深紅の瞳は決意に燃え、彼女の心はミカ、エリノア、タヴリンの信頼で支えられていた。
校長室での約束――「私が歪みを見つける」――という言葉が、彼女の足を前へと押し出す。
階段の先、塔の頂上の扉を押し開けると、冷たい風が彼女の髪を乱暴に揺らした。
塔の頂上は、学院全体を見渡す開けた円形の展望台だった。
雨が顔を叩き、嵐の雲が空を覆う。
サリアは欄干に手をかけ、学院を見下ろした。
彼女のサキュバスの眼が覚醒し、深紅の瞳に魔力の流れが光の糸となって映る。
普段は見えない魔力の脈が、学院を覆う結界の中で揺らぎ、ねじれ、異常な輝きを放っていた。
薬草室の近くでは青い光が渦を巻き、渡り廊下では赤い脈が脈打ち、正面入り口では緑の輝きが爆ぜる。
サリアの胸が高鳴る。
歪みはそこにある――彼女には、はっきりと見えた。
『ミカ、エリノア、タヴリン…今だよ!』
サリアは目を閉じ、淫紋を通じて念話を飛ばす。
温かな脈動が彼女の心を仲間たちに繋ぐ。
彼女の声は、嵐の唸りを貫くように力強い。
『ミカ! 薬草室の近く、青い光が渦巻いてる! そこに歪みがあるよ!』
ミカの返答が即座に響く。
彼女の緑の瞳が燃えているのが目に浮かぶ。
『了解、サリア! 先生と一緒に向かってる! 任せて!』
サリアは続けて念話を送る。
『エリノア、渡り廊下だよ! 赤い光が脈打ってる。気をつけて!』
エリノアの落ち着いた声が返る。
『分かったわ、サリア。私も先生と行く。ありがとう』
最後に、タヴリンへ。
『タヴリン、正面入り口! 緑の輝きが爆ぜてるよ。急いで!』
タヴリンの弾ける声が響く。
『サリア! 私、ダッシュで行くよ! ぜったい大丈夫!』
サリアの唇に小さな笑みが浮かぶ。
彼女は再び眼を開け、塔から学院を見下ろす。
ミカが薬草室の庭を駆け、エリノアが渡り廊下の影を進み、タヴリンが正面入り口の瓦礫を飛び越える姿が、遠くに小さく見えた。
彼らは教師たちと協力し、サリアの指示した場所へ急ぐ。
教師の呪文が光を放ち、歪みが一つずつ修正されるたび、学院の魔力の流れがわずかに整う。
サリアの深紅の瞳が輝き、彼女の心は仲間との絆で熱くなる。
聖ミルフィア魔法学院の中央塔の頂上は、魔力嵐の猛威にさらされていた。
雨がサリアの顔を叩き、風が彼女の髪を乱暴に揺らす。
彼女は欄干を握り、サキュバスの眼で学院を見下ろす。
深紅の瞳に映る魔力の歪みが、一つずつ修正されるたび、学院の結界がわずかに安定していく。
ミカが薬草室の歪みを、エリノアが渡り廊下の歪みを、タヴリンが正面入り口の歪みを教師と協力して直し、サリアの念話がその全てを繋いでいた。
彼女の心は仲間との絆で熱くなり、嵐の冷たさも感じないほどだった。
だが、数か所の歪みを修正した瞬間、塔に新たな危機が襲う。
ゴオオオン――低く響く轟音が石造りの塔を震わせ、サリアの足元がぐらりと傾いた。
欄干が軋み、塔の頂上がわずかにずれる。
雨に濡れた石が滑り、サリアは咄嗟に欄干を強く握る。
彼女の深紅の瞳が見開かれ、心臓が激しく跳ねる。
学院の魔力鉱脈の暴走はまだ収まらず、塔にもその余波が及んでいた。
その時、タヴリンの慌てた念話がサリアの頭に響く。
彼女は正面入り口近くで教師を誘導中、たまたま塔を見上げていたのだ。
獣人の耳がピクピク動く声が、恐怖と心配に震える。
『サリア! 塔、揺れたよ! 大丈夫!? 危ないよ、降りてきて!』
サリアは息を整え、塔の傾きに耐えながら念話で返す。
彼女の声は落ち着きを装い、タヴリンを安心させようと強がる。
『タヴリン、大丈夫だよ! まだ歪みが残ってるから、ここにいる。タヴリンも気をつけて、頼んだよ!』
タヴリンの声が少し落ち着き、『…うん、サリア! タヴリン、がんばる!』と返る。
サリアは小さく微笑み、再び学院を見下ろす。
彼女のサキュバスの眼は、さらに多くの歪みを捉える――中庭の噴水、図書室の屋根、寮の窓辺。
彼女は念話でミカとエリノアにも新たな場所を伝え、教師たちの修正作業を加速させた。
作業は十数か所に及び、サリアの指示は途切れることなく響く。
塔の傾きにも負けず、彼女の深紅の瞳は学院を救う意志で輝き続けた。
ついに、サリアが最後の歪みを捉えた。
学院の裏庭、桜の木の下で紫色の光が弱く脈打つ。
彼女は念話を飛ばす。
『ミカ、エリノア、タヴリン! 裏庭、一番大きな木の下! 紫の光が最後の歪みだよ!』
ミカの「今行く!」、エリノアの「了解よ」、タヴリンの「やったー!」が重なり、教師の呪文が光を放つ。
紫の光が消え、学院の魔力の流れが完全に整った瞬間、サリアの眼に静かな輝きが広がる。
サリアは念話で叫んだ。
『全部…全部直った! ミカ、エリノア、タヴリン、できたよ!』
ミカたちの歓声が響き、教師たちにも伝わる。
校長室、寮、中庭――学院中に安堵の空気が広がった。
サリアは塔の頂上で息をつき、欄干に寄りかかる。
彼女の深紅の瞳に、初めての安堵が滲む。
だが、傾いた塔の石が軋む音が、静かに彼女の耳に届いていた。
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