万年のコドク

神井千曲

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03 邂逅

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――どことも知れぬ場所
『血圧上昇。脳波、心拍数ともに異常なし』
 かすかに声が聞こえた気がした。
(……何だ? 俺はどうなった?)
 ジンの意識が次第に覚醒する。
 どうやらベッドか何かに寝かされているようだ。
「うっ……」
 目を開ける。と、まばゆい光が飛び込んでくる。
「……!」
 思わずまた目を閉じてしまう。周囲の状況は分からない。
(ここはアスカ内の医務室か? それとも……)
「意識が戻ったようだな」
 機械的な響きを持った、女と思しき声。
「ここは……」
 再び目を開き、声の方へと視線を向けた。
「!」
 目の前に立つのは、一人の女。いや……
「アンドロイド!?」
 銀白色の硬質な外殻に身を包んだ人型のモノ。その顔は整ってはいるものの、あたかも能面を思わせる無表情な造形である。そして、頭部にいただくのは長い白銀の髪。それは呼吸をおこなうがごとく、かすかに波打っていた。
「あなたたちの概念では、それに近い存在だ」
(『あなたたち』だと?)
 ジンは身を起こし、目の前のアンドロイドをまじまじと見た。地球の技術においても完全自律のアンドロイドは作り出されている。しかし、“これ”の口ぶりからすれば、この創造者は地球人類では無い様だ。
 それにこの室内。
 壁や床、天井などの素材は地球文明の宇宙船のものと、見た目はよく似ている。
 しかしこのベッドやそのそばに置かれた、医療機器と思しき機械類は、地球のものよりも高度な文明によって作られている様だ。
「じゃあ、ここは一体……」
「ふむ……あなた方が、“クイックシルバー”と呼んでいたものの内部だ」
「……!」


「……待ってくれ! 俺はなぜここに連れてこられたんだ!?」
 暫しの忘我ののち、我に返ったジンは叫んだ。
「……血圧上昇。少し安静にしたほうがいい」
「……分かった」
 ジンは一つ大きく息を吐いた。
「教えてくれ。俺は、確かに“クイックシルバー”に接近はした。しかしそれは探査のためで、敵対行動はとらなかったはずだ。それなのに、何故捕らえられたんだ?」
 無論、それは地球人にとっての常識だ。
 相手によっては、ただ接近しただけでも敵対行動と考える可能性もあるだろう。だが、このアンドロイドの姿からして、この天体の主人が人類とよく似た思考を持っているのではないかとジンは期待することにした。
 しかしんその答えは、意外なものであった。
「……不幸にも、この星の支配者に目をつけられてしまったからだ」
「……どう言う事だ?」
(このアンドロイドの主人が、この天体をコントロールしているのではないのか?)
「この星は、はるか昔からこの銀河を彷徨いながら、めぼしい兵器を収集し続けているのだ。私や貴方は、そうして目をつけられ、捕らえられてしまったのだ」
「……! ってコトは、ここの主人はアンタと関係はないってワケか」
「そうだ。私はそのコレクションの一つ。そして……ゲームのコマだ。貴方と同じく……」
「コレクション? それに、ゲームだと?」
「ああ。この星には現時点で、私をふくめて12の機動兵器のコレクションがある。ここの主人はそれを戦わせ、最強の兵器を決めようとしているのだ」
「……なるほどな」
(まるでオモチャ扱いだな)
 ジンは思わず顔をしかめた。
 万一に備えてフル装備で出撃した為に、この天体の主人に目をつけられてしまったのかもしれない。
 無論、この天体が何者か分からなかった為に、仕方のないことではあったが……。
「にしても、何故そんなことを?」
「……最強の兵器を創り出すため。私達の身体には、進化因子を埋め込まれている。勝者は敗者を喰らい、己の力とする。そして、すべてのコレクションを倒したものが最強の兵器となるのだ」
「それで何をするんか知らんが……まるで、蠱毒こどくだな」
 ジンは思わず吐き捨てた。
 古代東洋の呪法の一つ。ありとあらゆる毒虫を器に入れて封じ、共食いさせるというものだ。殺し、喰い合った末、最後に残った一匹から最強の毒を得るとされる。
「……コドク?」
 アンドロイドは小首を傾げた。
 ずいぶん人間臭い仕草だな、とジンは思った。
「……古い呪術だよ」
 そこで、先刻からの疑問をぶつけることにした。
「なぜ俺達と同じ言葉をしゃべる? 俺達の情報を理解しているんだ? アンタは……何者なんだ?」
「貴方の機体にあったデータと、この天体がキャッチした、飛び交う通信波からある程度の情報を類推させてもらった」
「……そうか」
(“クイックシルバー”って名前すら、コイツは把握していた。つまり軍用回線の暗号化されたデータも解析されちまったって訳か。つまり、俺のミッションについてはほぼこっちに筒抜けだったのか)
 いとも容易く罠にはまってしまったと考えると、少々腹も立つ。
「そして私はアトラス連合の深宇宙探査船の頭脳体として造られた人造人間だ」
「頭脳体? アトラス連合?」
「宇宙船のセパレート式コンピュータと言った方が解りやすいか。私は探査船の一部として造られたのだ。捕らえられた経緯は貴方と同じだ。この星に接近した直後、捕らえられてしまったのだ。当時乗組員はいたが、後に全員死亡してしまった」
「なるほどな……」
「私を造ったアトラス連合は、貴方とよく似たヒューマノイドであるソリアス人によって構成された国家だ。彼らはあなたがたよりもやや早くに宇宙へ進出し、星系国家を形成している」
(俺達と酷似した知的生命体による星系国家か。未確認星域調査局の連中が聞いたら、歯噛みするだろうな)
「その場所はもしかしてサルガッソ宙域の向こうなのか?」
「ふむ。当たらずといえど遠からず、か。我らの支配領域は私が捕らえられた当時で、君達の太陽系から500光年から3000光年ほどの距離に分布する」
「……なるほどな」
(当たり前といえば当たり前だが、そんなとてつもない領域を支配してるのか、この連中は……)
 地球人類の支配領域は、現時点で太陽系を中心とした半径50光年、いわば光世紀世界程度に過ぎない。
 しかも、そのわずかな領域を、多数の星系国家が割拠し、相争っている。
 地球人類支配領域における最大の国家である地球連合も、その支配領域はその半分にも満たない。しかも、その内部の一枚岩ではないのだ。
 彼我の差はとてつもなく大きいのかもしれない。
「そして私が捕らえれたのは、君達の時法でいう6000年前ほどの事だ。当時生存圏を拡大中だった我々ソリアス人は、自らの支配地へと向かってくる不審な天体の存在を感知した。そして私達が送り込まれる事になったのだが、結局君の様に捕らえられてしまったのだ」
「なるほどな。……脱出する方法はないのか?」
「無い。少なくとも、我々の技術力ではな。この天体は、通常の宇宙とはわずかに位相がずれた場所に存在する。我々が外から目にしたあの姿は、この宇宙に投影された影に過ぎないのだ」
「待ってくれよ。俺の機体のセンサーには、実体として捉えられてたぜ?」
「ああ。“獲物”を捕らえる時には一時的に“あちら側”へその一部を覗かせる。だが、大半の領域はこちらの亜空間に残ったままだ」
「……そりゃそうか。これまでに脱出を試みてない訳ないもんな」
「ああ。だから、我らが生き延びる手段は、すべての競合者を討ち滅ぼすことだけなのだろう」
(生き延びる事、か。それが脱出できるかどうかは別なんだろうな。それよりも、だ)
 聞き捨てならない言葉を耳にし、ジンは鋭い視線を相手に向けた。
「……待ってくれ。俺とアンタも戦わなきゃならんのか?」
「そうだ。私を含めて12の相手と君は戦うことになる」
「じゃあ、何故アンタは俺を助けたんだ?」
「この星の主人の命だ。肉体的、精神的に近い文明出身の私の方が、スムーズに意思の疎通が出来ると考えたのだろう。だから、私と戦う時も、助けたことは気にする必要はない」
「……なるほどな」
 ジンは肩をすくめた。
 とはいえ助けられたのは事実である。出来る限り彼女とは戦いたくないものだ、と。ジンは心中で独語する。
「……それよりも、アンタの名を教えてくれ。俺はジン。ジン=フィーリス」
「私はノクトフィリア型01-3。製造番号は4163732408」
「そうか。お手柔らかに頼む」
 ジンは右手を差し出そうとしたが、すぐに思いとどまる。相手の習慣がいかなるものかは分からないからだ。
 しかし、ノクトフィリア01-3は引っ込めようとしたその右手に己の手を重ねた。
「こちらこそ、よろしく。あなた方の習慣では、こうするんだったな」
「あ、ああ」
 ジンはその手を握り返した。
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