紫灰の日時計

二月ほづみ

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太陽の少年-2

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 通されたアヴァロン城の大広間は、先月のお祭り騒ぎで訪れた時とはうってかわって、静かで、広く、しんとした重い空気に包まれていた。カツンと一歩踏み出した靴音が、やたら仰々しく響く気がする。たぶん誰も居ないからだ。入り口の衛兵を恐る恐る見上げてみるが、ゲオルグと目を合わせてはくれなかった。
「こっちよ!」
「え?」
  弾んだ声が天から降ってきたような気がした。
 ハッとして仰いでも、もちろんそこに人影はない。慌てて声の主の姿を探す。
「久しぶりね、ひと月ぶり? 元気にしていた?」
 皇女は、玉座の前の階段に腰を掛けていた。腰まで届く長い金の髪に繊細な銀細工の飾りを挿し、この間見たときとはまた違う衣装に身を包んで……こちらに向かってヒラヒラと手を降っている。
「あ……っ、と……」
 口のうまい少年らしくなく、思わず返答に詰まってしまう。
  目の前の少女は、レースが重ねられた豪華なドレスが石の床に広がって、まるで薔薇の花が一輪、無造作に置かれたようだ。
「えーと……お、久しぶりでございます、皇女殿下」
 どう考えても行儀が悪いとしかいえない体勢なのに、眼前の彼女は妙に――否、感動的なほど、美しいものに感じられる。それは、ただ彼女の容姿が美しいからというわけでも、彼女の立場が誰よりも尊いものだからというものでもないなと、返事をしながらゲオルグは思った。
 この感動は、例えるならば――ああ、そうだ。初めて訪れた異国で、見たこともない芸術品に出会った時のような、そういう類のものだ。

「遠くから来てくれたって聞いたわ。どこから?」
「ミラノです。殿下」
「どんな所?」
「ジュネーヴより、ちょっと騒がしいですけど、いい街ですよ。あとは港がもう少し近所だったら、言うことないんですけど」
「海ね! わたくし、実物を見たことがないの。とっても広いのでしょ」
「見たことない? 本当に?」
「嘘なんてつかないわよ? つくなら、見たことあるわって言う」
「そっか……そうですね。そういや、海のことを改めて広いとかすごいとか、思ったことが無かったなぁ」
「あら、贅沢ね」
 こちらを見る、表情豊かな大きな瞳に、不吉なくらい青白い顔。ちぐはぐな印象は少女の実在感を薄れさせ、こうして話していても、まるで人ではない何かのような気がする。
「こっちこっち、ここに座って、音を聴かせて」
 離れた場所に突っ立ったままの少年を手招きで呼び寄せる。アーシュラは機嫌も気分も大変に良いようだった。ゲオルグが傍らに座り、先日の楽器を取り出すと、皇女は期待を隠さずに覗き込む。
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