紫灰の日時計

二月ほづみ

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太陽の少年-4

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 前を歩くアーシュラに付いて、庭へ出た。
 こういう、高貴な人と並んで歩くなんて初めてだけれど、同年代の他の女の子に比べて、随分ゆっくり歩くのだな、と、ゲオルグは思った。やっぱりお姫様という生き物は、何をするにもおっとりなのだろうか。
 けれど、少女の横顔を見ると、ゆったり優雅に、というよりは、今にも駆け出しそうな様子で精一杯早足をしているような顔に見えたので、単に体が小さいので歩幅が狭いのかもしれないと思い直す。アーシュラは、同年代の少女に比べると、随分華奢で背も低い。そのせいなのだろう、容姿も幼く見えるので、ひとつ年上だなんてとても思えない。
 そして、隣で黙って彼女を観察しているよりも、何かこの綺麗な庭のことでも話したほうが良いかなと、思いはじめた刹那のことであった。
「?」
 浅い緑の森をゆくアーシュラの頭越しに、ふいに金髪の横顔が現れた。
 金髪? 横顔? 
「え?」
 目の錯覚か、なにもない所からフッと現れたような気がして、思わず足を止める。それに気づいた少女が、不思議そうに振り返った。
「どうかした?」
 美しい顔がふたつ並んで、こちらを見ている。やっぱり、目の錯覚なんかじゃない。確かに人が増えている。
「え、えと、その…………ひ、人?」
 皇女と同じような、天使のような金の髪をした、黒ずくめの少年だった。年格好は自分とそう変わらないように見える。

 美しい皇女と並んでも全く見劣りのしない、見栄えのする容姿だが……こちらを見る目は、来るときに会った衛兵よりも冷たい気がする。
「……人ですが」
 少年が口を開いた。やっぱり、視線の冷たさそのままの、不機嫌そうな声だ。
「ああ、そっか。広間では隠れていたものね」
「え?」
「エリンよ」
「は?」
「だから、この子の名前」
 名前よりも、今、手品のように現れたからくりについて教えてほしいのだけど、とは言えずに、よくわからないままコクコクと頷く。
 アーシュラはゲオルグがエリンについて納得したと判断したのか、それ以上彼について説明しようとはせず、早く早くとゲオルグを急かして、彼女のお気に入りの場所らしい、木陰に置かれたベンチに腰を落ち着けた。
 ゲオルグはそこで、随分長い時間、請われるままカリンバを奏でて聞かせた。
 彼自身が言った通り、アフリカの大地で生まれた楽器は、自然の光と風によく馴染み、気持ちの良い昼下がりの庭を、澄んだ旋律が優しく満たす。広間の時と違って、今度は緊張せず、今日の、彼女のために練習した曲をゆっくりと弾くことができた。
 彼女がエリン、と紹介した少年は、その後も一貫して一言も発さず、少し離れた所で自分達を監視しているようだった。最初は気にならないでもなかったけれど、視界に入らなくなると、不思議とすぐに彼の存在は気にならなくなった。
 アーシュラもお喋りを挟まず大人しく演奏に耳を傾け続けた。
 話してみると、(少し浮き世離れしたところはあるけれど)案外普通の女の子だな、と、ゲオルグは感じはじめていたのだけれど……やはり、ふとした瞬間に驚く。
 やっぱり、恐ろしく美しいのだ。血の通っていないような白い肌が、つくりもののような細い体が、自分と同じ血と肉でできているなんて、信じられないように思えてしまう。
 この大きな城の、誰もいない庭で、海も見たことがないという年上の少女。将来、このエウロの皇帝になる人。
 今まで、幼い頃から父に付いて色々な場所を旅して、色々な人に会ったけれど、この人のようなのは初めてだと、ゲオルグは改めて思った。
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