紫灰の日時計

二月ほづみ

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分かれゆく道-3

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 リゼットの父は、この城の執事クヴェン・ラントである。
 本来、執事とは結婚を許されない職であり、当然、子を持つこともご法度である。だから、主に隠れて交際していた恋人との間にリゼットを授かった時、クヴェンは恋人に、子供を産んでほしいとは言えなかった。
 彼は主君アドルフへの忠義を守るため、本来喜ぶべきその出来事を、闇へ葬り去ってしまうべきか、長い間苦悩した。クヴェンは(リゼットも同様の気質を受け継いでいる通り)規律を重んじる、大変に真面目な性格である。だから彼女は、生まれなかった可能性もあったのだ。
 彼が子を持つことを認めて欲しいと、アドルフに頼んだのは幼いアーシュラだった。クヴェンは、当時ほんの幼子だったアーシュラが自らの悩みの種について理解をするはずないと思い込み、つい、彼女の前で恋人と腹の子供について話してしまったのだ。
 そしてそれは、結果的に彼に幸福をもたらした。
 アドルフは、愛孫からの懇願を受けて――結婚こそ許さなかったものの、子が生まれてくることについては認め、祝福し、リゼットが生まれた後には、彼女が成長したらアーシュラに仕えるということまでも許した。
 父と娘は、一般の家族のように一緒に暮らすことは無かったが、アヴァロン城では共に過ごす時間を得ることができたし、アドルフの特別なはからいによって、働きながら城で充分な教育の機会も与えられていた。大人のメイド達からも温かく見守られ――少女は、幸せに育っていた。
 自分が得た居場所と幸福は、皇女に与えられたものだと、リゼットは理解していた。だからこそ、アーシュラは彼女にとって、本当の忠誠を捧げるべき、かけがえのない主人なのだ。
 しかし、頑なに忠義を誓うリゼットとはうらはらに、アーシュラは彼女のことは妹のようなものだと思っているようだ。
「リゼット、お前もこちらに来て一緒にケーキを食べない?」
「ええっ、め、滅相もございません!」
「ふふふふ、本当にお前はクヴェンそっくりねえ」
「くそまじめ、で、ございますか」
「そう、それ」

 向かいにゲオルグ、隣にエリンを座らせて、アーシュラはすっかり浮かれているようだった。ここのところ、ひどく体調を崩すようなことも無くなって、皇女は本当に元気そうにみえる。
「だって、ゲオルグがこれから、ガネイシアの話をしてくれるのよ?」
「ですが私、この後勉強の時間を頂いておりますので、今仕事を放り出すわけには……」
「そう? そんなの――」
「……殿下、無理を言って困らせてはいけません」
 見かねたエリンが口をはさむ。
「あ、喋った」
 ケーキを口に運ぶ途中だったゲオルグが、それを見て目を丸める。
「……何か」
「二言目。今日はよく喋るね」
 面白そうに言う。テーブルに座って紅茶を飲んでいても、エリンは何もなければ一言も話さないからだ。
「……よく、というほど饒舌ではありません。カルサス様」
 明るい少年のペースに乗せられたのか、エリンはつい三つ目の台詞を口にする。その様子を、アーシュラはずっと嬉しそうに見つめていた。
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