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十四
覚悟-2
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二人がいつも逢瀬に使っている客間は、彼女の部屋から遠くない。二人で部屋を出て、夕暮れから逃げるように、手を繋いで廊下を渡る。
この恋が普通のものでないことは、ゲオルグにだってよく分かっている。色々と慎重にならなければいけないのも理解している。だけど、秋が深まるにつれ、昼間はだんだんと短くなっていく。少しでも長く一緒に居たいだけなのだ。
「……殿下」
けれど、彼女の指が自室のドアノブに触れようとした刹那、呆れたような声が背後に落ちる。二人の真後ろに、いつの間にかエリンが立っていた。
「エリン!」
アーシュラが非難めいた声をあげても、従者は表情を変えない。二人が一緒にいる時間、彼は決して姿を現さない。微かな気配を感じることすら出来ないので、こんな風に突然現れられると、まるで亡霊か何かのようだ。
「お帰りの時間です。カルサス様」
あの夜会の日は彼の方から招き入れてくれたというのに、こうして彼は、ゲオルグが皇女の私室に入るのを拒むのだ。てっきり、協力してくれるものだとばかり思っていたのに、裏切られた気分だった。
「彼女が良いって言ってるのに?」
ゲオルグは不快感を隠さずエリンを睨むけれど、相手はそんなことでは怯んでくれない。
「日を改めてお越しください」
「エリン!」
剣はそれ以上答えなかった。
石のような表情の、彼の気持ちはいつも分からない。
ゲオルグは暫く名残惜しげに恋人の手を握っていたが……やがて、諦めて息をつき、また来るよと言い残すと踵を返した。一瞬、後を追おうとしたアーシュラも、エリンに止められることが分かりきっていたからだろうか、悲しげにゲオルグの背を見送った。
(あいつ、一体何のつもりなんだろう)
名残を振り切るように早足に歩きながら、ゲオルグは思った。
アーシュラは特別な人だから、傍にエリンが居ることは何となく当然のことなのだろうと、今まで漠然と理解をしてきたけれど、これには納得がいかない。あんな風にあからさまな態度をとられると、ただ単に邪魔をされているだけのような気がしてしまうのだ。
(彼女を喜ばせたいのなら、協力してくれてもいいのに……)
さっきのあの顔を思い出すと、ますます腹が立ってくる。
(一体、何がしたいんだ。全く!)
エリンに対して、前から何となく嫉妬のような感情は抱いていたけれど、最近はさすがに煙たいという気持ちが強くなっていた。
そして、皇女の命令はエリンに対して絶対のはずなのに、この件について彼女の言い分が通ることは無いのも、なんだか気にくわない。
アーシュラのことを一番に考えているなら、自分達の邪魔をするなんて、あり得ないはずなのに。
この恋が普通のものでないことは、ゲオルグにだってよく分かっている。色々と慎重にならなければいけないのも理解している。だけど、秋が深まるにつれ、昼間はだんだんと短くなっていく。少しでも長く一緒に居たいだけなのだ。
「……殿下」
けれど、彼女の指が自室のドアノブに触れようとした刹那、呆れたような声が背後に落ちる。二人の真後ろに、いつの間にかエリンが立っていた。
「エリン!」
アーシュラが非難めいた声をあげても、従者は表情を変えない。二人が一緒にいる時間、彼は決して姿を現さない。微かな気配を感じることすら出来ないので、こんな風に突然現れられると、まるで亡霊か何かのようだ。
「お帰りの時間です。カルサス様」
あの夜会の日は彼の方から招き入れてくれたというのに、こうして彼は、ゲオルグが皇女の私室に入るのを拒むのだ。てっきり、協力してくれるものだとばかり思っていたのに、裏切られた気分だった。
「彼女が良いって言ってるのに?」
ゲオルグは不快感を隠さずエリンを睨むけれど、相手はそんなことでは怯んでくれない。
「日を改めてお越しください」
「エリン!」
剣はそれ以上答えなかった。
石のような表情の、彼の気持ちはいつも分からない。
ゲオルグは暫く名残惜しげに恋人の手を握っていたが……やがて、諦めて息をつき、また来るよと言い残すと踵を返した。一瞬、後を追おうとしたアーシュラも、エリンに止められることが分かりきっていたからだろうか、悲しげにゲオルグの背を見送った。
(あいつ、一体何のつもりなんだろう)
名残を振り切るように早足に歩きながら、ゲオルグは思った。
アーシュラは特別な人だから、傍にエリンが居ることは何となく当然のことなのだろうと、今まで漠然と理解をしてきたけれど、これには納得がいかない。あんな風にあからさまな態度をとられると、ただ単に邪魔をされているだけのような気がしてしまうのだ。
(彼女を喜ばせたいのなら、協力してくれてもいいのに……)
さっきのあの顔を思い出すと、ますます腹が立ってくる。
(一体、何がしたいんだ。全く!)
エリンに対して、前から何となく嫉妬のような感情は抱いていたけれど、最近はさすがに煙たいという気持ちが強くなっていた。
そして、皇女の命令はエリンに対して絶対のはずなのに、この件について彼女の言い分が通ることは無いのも、なんだか気にくわない。
アーシュラのことを一番に考えているなら、自分達の邪魔をするなんて、あり得ないはずなのに。
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