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十九
思惑-5
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「エリン、今戻ったの?」
主と顔を合わさないように、黙って自分の部屋に戻ったエリンだったが、彼の気配に気付いたアーシュラは、今夜に限ってドアを開け、ヒョイと隣室を覗きこんだ。
「……はい」
エリンは動揺を隠して短く返す。
「ツヴァイが居ると思って、お前、さぼっているのではない?」
アーシュラは文句を言うが、機嫌は悪くなかった。どうせ、今日からはゲオルグが城に居るということに浮かれているのだろう。
「遊んでいたわけではありません。陛下に呼ばれておりました」
「お祖父様に?」
珍しいわねと言いながら、アーシュラはずかずかとエリンの部屋に入ってくる。何気ない彼女の行動に、しかし今日のエリンは慌ててしまう。
「あの、先生は……」
「ツヴァイならさっきまでベランダに居たわよ? 今は……どこかしらねぇ」
呑気にそう言ってエリンの寝台に座る。今日のところはさっさと部屋に戻ってもらいたいのだけど、咄嗟に言葉が浮かばない。そして、アーシュラはアーシュラで、彼に話があるようだ。
「ねぇエリン、お前、わたくしが結婚するの、嬉しくない?」
「は?」
「そうよね、嬉しいわよね!」
「あの……」
「ゲオルグがね、エリンはわたくし達の結婚を喜ばないって言うのよ。わたくしは、そんなこと無いって言ったのだけど、どうにも話が噛み合わないのよね……」
ホッとしたようにこちらを見る瞳を、直視できない。
「アーシュラ……」
反対はしない。けれど、別に嬉しくもない。そして、今は――
「……馬鹿なことを仰っていないで、今夜はもうお休み下さい。明日も来客の予定がありますから」
とりあえず、一人にして欲しかった。
「エリンに何を言ったのですか」
暗がりから不意に響いた、非難めいた剣の声に、溜まった書簡を読んでいたアドルフは目を上げる。
「聞いていたのか?」
「聞いてはおりません。ですが、あなたがエリンを呼びつけるなんて」
ツヴァイに睨まれて、アドルフは嘆息する。
「アーシュラにはエリンの子を産ませる」
「やはり、そういうことですか……」
「何か問題が?」
「何もかも問題でしょう。それに……あなた自身、近親同士が結ばれることは嫌っていたのでは?」
「……余が、皇家の外から妻を迎えたことは失敗だった」
「そんなこと……」
優しい彼の剣は、苦々しく言葉を詰まらせ、俯いた。
「必要なことだ。紫を持つ者同士の子が確実にそれを受け継ぐことは、アヴァロンの歴史が証明している」
「アドルフ……あなたはまた、そんな……」
男は、あまりにも長い時間、家族に憎まれることも厭わず、まるで傷つくことを知らない存在であるかのごとく振る舞ってきた。だから、彼の孤独と痛みを知っている者は少ない。彼の二人の息子達すら、父の本当の心など知りはしないのだ。
「……ツヴァイ、ここは良い。そなたはもう姫のもとに戻れ」
主のために悲しむ従者に、皇帝は言った。
主と顔を合わさないように、黙って自分の部屋に戻ったエリンだったが、彼の気配に気付いたアーシュラは、今夜に限ってドアを開け、ヒョイと隣室を覗きこんだ。
「……はい」
エリンは動揺を隠して短く返す。
「ツヴァイが居ると思って、お前、さぼっているのではない?」
アーシュラは文句を言うが、機嫌は悪くなかった。どうせ、今日からはゲオルグが城に居るということに浮かれているのだろう。
「遊んでいたわけではありません。陛下に呼ばれておりました」
「お祖父様に?」
珍しいわねと言いながら、アーシュラはずかずかとエリンの部屋に入ってくる。何気ない彼女の行動に、しかし今日のエリンは慌ててしまう。
「あの、先生は……」
「ツヴァイならさっきまでベランダに居たわよ? 今は……どこかしらねぇ」
呑気にそう言ってエリンの寝台に座る。今日のところはさっさと部屋に戻ってもらいたいのだけど、咄嗟に言葉が浮かばない。そして、アーシュラはアーシュラで、彼に話があるようだ。
「ねぇエリン、お前、わたくしが結婚するの、嬉しくない?」
「は?」
「そうよね、嬉しいわよね!」
「あの……」
「ゲオルグがね、エリンはわたくし達の結婚を喜ばないって言うのよ。わたくしは、そんなこと無いって言ったのだけど、どうにも話が噛み合わないのよね……」
ホッとしたようにこちらを見る瞳を、直視できない。
「アーシュラ……」
反対はしない。けれど、別に嬉しくもない。そして、今は――
「……馬鹿なことを仰っていないで、今夜はもうお休み下さい。明日も来客の予定がありますから」
とりあえず、一人にして欲しかった。
「エリンに何を言ったのですか」
暗がりから不意に響いた、非難めいた剣の声に、溜まった書簡を読んでいたアドルフは目を上げる。
「聞いていたのか?」
「聞いてはおりません。ですが、あなたがエリンを呼びつけるなんて」
ツヴァイに睨まれて、アドルフは嘆息する。
「アーシュラにはエリンの子を産ませる」
「やはり、そういうことですか……」
「何か問題が?」
「何もかも問題でしょう。それに……あなた自身、近親同士が結ばれることは嫌っていたのでは?」
「……余が、皇家の外から妻を迎えたことは失敗だった」
「そんなこと……」
優しい彼の剣は、苦々しく言葉を詰まらせ、俯いた。
「必要なことだ。紫を持つ者同士の子が確実にそれを受け継ぐことは、アヴァロンの歴史が証明している」
「アドルフ……あなたはまた、そんな……」
男は、あまりにも長い時間、家族に憎まれることも厭わず、まるで傷つくことを知らない存在であるかのごとく振る舞ってきた。だから、彼の孤独と痛みを知っている者は少ない。彼の二人の息子達すら、父の本当の心など知りはしないのだ。
「……ツヴァイ、ここは良い。そなたはもう姫のもとに戻れ」
主のために悲しむ従者に、皇帝は言った。
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