10年前に戻れたら…

かのん

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敦子サイド④

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新しい病院は隣の市だった。



「敦子…今日は疲れたでしょ?大学もあるし、戻って大丈夫よ。ごめんね、心配かけて…ありがとう。」



「…うん。お母さん…」



「うん?」



「お母さんどこが悪いの?」



母親は体を起こし、敦子の手をそっと包み込んだ。














「お母さん…癌なんだって。」











「癌…?手術は?」



「…もう遅いって…」



「そんな…いつから…いつからだったの?気づかなかった…」



「敦子…お母さんがちゃんと自分で自分の体大事にしなかったから…ごめんね…お母さん敦子と残された人生過ごしたくて中々言えなかった…ウッ…」



「お母さん!?大丈夫!?」



「ゲホッ…」



母親が血を吐き出し、敦子はナースコールをならす。



「すいません、お母さんが…」





「上野さん、上野さん!」



看護婦がすぐ駆けつけてくれ、手術室へと運ばれた。



「緊急手術しますので、ご家族の方はこちらでお待ちください。」



「あの、お母さん大丈夫なんですか?」



「…こちらでお待ちください。」



手術中のランプがチカチカと点滅しながらついた…






「お母さん…」



たった1人の家族



頼りたい人には連絡するなと言われ、敦子は手術が終わるのを待つ時間が1人では耐えきれなかった。



“パサッ…”



バッグに入れてたノートが床に落ちた。



母親の日記の先も気になるし、今は気を紛らわすためにも日記を読むことにした。



母親はどうして会いにいかなかったのかーー



その答えがきっと書いてあるはずだ




“3月29日
彼とまた会った。
彼のご両親もお花が嫌いなようだ。
どうしてみんなお花が嫌いなんだろう…
彼にさくらの花びらのしおり作ってあげる約束した。



彼は髪の毛をおろしたほうがいいと言った。
あの人は私に何も言わない
もう興味がないのかな…



彼に名前を聞かれて咄嗟に偽名を言ってしまった…
彼の前では、誰も私のことを知らない私になりたかった――”




「お母さん、だから偽名を・・・」




“4月25日

今日、あの人に殴られた…
私は彼と話すのが楽しくて時間を忘れてしまうぐらいで…
1分遅れてしまった。
近所の目や運転手の目が気になるから
ちゃんと運転手がくる10時には家にいろと怒られた
人の目が気になるなら殴らないでほしい…

でも遅れた私が悪いから…”



敦子は父親が母親に手をあげているのは知らなかった。



だけど一度だけ夏なのに長袖を着ている母親に何で長袖を着ているのか聞いたことを思い出した…



冷え性だからとそのときは言われた。




このままこのノートを読みつづけたら、父親と同じぐらい母親のことも嫌いになりそうで、手が震えだしてきた。



手術室のランプに目をやるとまだ手術中のランプは光ったままだった。



「…」



怖いけどやっぱり続きが…10年前の10月10日のことが知りたい…



“パラ…”



手の振るえは止まらないけど、鉄製でできているかと思うぐらいの重いページをめくった――




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