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二人の夢⑦
しおりを挟む指輪をそっと健二に渡す。
『健ちゃん、健ちゃんの会社のことは応援するから…だから結婚やめよう。健ちゃんだって私のこと好きではないでしょ?』
『ごめん…』
『私も好きな人と結婚したい。その人が私に会ってくれるかどうかわからないけど、もう一度会ってきちんと自分の気持ち伝えたい。』
『それって、ホストの彼の…』
健二は瞑っていた目を開いて雅を見つめる。
「その時、女性のヒステリックな声と雅って叫んでいる声が聞こえてきて、真莉亜はすぐ走って言ったよ。君の元へ…」
「真莉亜…」
あの時、生きている価値がないって思ってからいけなかったのか。
女性をモノとしてしかみてこなかったからいけなかったのか。
過去のことは書き換えられない。
真莉亜を巻き込んでしまったことが事実だ。
フラフラとした足取りで真莉亜の遺体に近づく。
「真莉亜…」
白くてマシュマロみたいな頬にそっと触れる。
以前はチークをいれたように綺麗なピンク色の頬が今では青白く冷たかった。
雅はおでこ、髪の毛、頬や鼻、唇をゆっくりと触る。
「ずっとこうやって触りたかったんだ…」
雅の目から涙が一筋頬を伝う。
「真莉亜、ごめん。ごめん。もっと俺がちゃんとしていたら…涼子さんともっと分かり合えていたら…もっと早く真莉亜に自分の気持ちを伝えていたら…ッ」
真莉亜のひんやりと冷たい手を握りながら雅は泣き崩れた。
後にも先にもこれ以上泣いたことはない。
それからどうやって病院を出たかもわからないぐらい憔悴しきっていた。
数年後
「雅!」
「おう!お疲れ様!」
「明日仕事休みだろ?ゴルフ付き合えよ。」
そう雅に話しかけたのは健二だった。
雅と健二は正反対の性格だが、ビジネス上ではお互いの苦手な部分を補える最高のパートナーだった。
真莉亜の弔いで何度か会うにつれ、M社の窮地を救うため、健二が雅をM社に誘った。
今ではプライベートでも仲良くするぐらいの仲になった。
雅も今までは夜の世界しかいなかったため、最初は不安だったが、天職だったようで、今では健二の片腕になった。
雅のホストで培った話術もいかされ、今ではM社は以前のように経営は落ち着いていた。
「あ~明日はMARIAのところに行ってくるよ。」
「そっか。よろしく言っておいてね。今度時間見つけて会いに行くわ。」
「喜ぶから絶対来いよ!」
「お兄ちゃん!」
泥んこになった子供たちが駆け寄ってくる。
「お、今日もいっぱい遊んでる?」
「うん!」
「これ差し入れ。皆で食べてね。」
「わーい!先生、お兄ちゃんにもらったよ!」
「雅君、いつもありがとう!久しぶりね~」
「最近仕事が忙しくて…」
「施設長!雅君着てくれましたよ。」
「おお、今のスーツ姿も似合っているな。」
「はは、ありがとうございます。」
「雅…本当にありがとう。そしてすまない…」
「え?」
「結局お前にお金を出してもらって…」
「でも俺どうしても守りたかったから…真莉亜との夢でもあったし…」
真莉亜が亡くなった直後、やはり施設はなくなる方向になったが引き取り手がいない子供が数人いた
『施設長、俺に新しい施設作らせてください。』
『気持ちは嬉しいけど…』
『彼女と…真莉亜と約束したんです。引き取り手がいない子供がいたら出資しようって。二人の夢だって話をしたんです。』
『でも彼女はもう…』
『だからこそ…彼女が生きた証を、彼女と二人の夢だってことをこの世に残すためにも…俺のエゴなんです。』
『わかった。本当にいいのか?』
『はい。』
施設を新しくするために新しい施設の名前が必要だった。
契約書にオーナーのところには自分の名前だけが記載されていた。
本当はここに真莉亜の名前も記載されるはずだった。
『…よし。』
自分の名前の上に施設名MARIAと記載した。
これなら共同経営者のように思える。
同じ紙一枚の上に名前が二人。
これなら二人がずっと一緒にいられるような気がした。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「ん?」
「お兄ちゃんは天使に会ったことある?」
「…うん。あるよ。」
「どんな人?羽生えてるの?かわいい?」
「羽は生えてなかったけど…どん底でドロドロな俺を地上へと導いてくれたよ。」
「へぇ~私も会ってみたいな。」
「俺ももう一度会えるなら会ってみたいな…」
真莉亜
俺は
天使に恋をした。
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