最後の恋人。

かのん

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許されない恋⑦

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大丈夫と言ったけど…心の奥底は大丈夫じゃない。
裕也さんと寝たことでわかったことがある。
これからずっと私は葵君以上に好きになる人は現れない…。
好きでない人に抱かれてカラダは気持ちがよくても
ココロはぽっかりと穴が開いたままだ。



『ミサキ、ちょっといい?』



『葵君……』



就職活動で忙しそうな葵君と話すのは久しぶりだ。
少し距離をとっていたつもりだけど
話しかけられるだけで、抑えていた気持ちは一気にあふれ返す。



『俺、就職決まったんだ。』



『え?お、おめでとう…!』



就職が決まったってことはここを出て行くってことだ。
嬉しいって気持ちがあるのに、心のどこかは寂しくて
きっと今私は笑っていない。



『……どこに決まったの?』



『隣町の板金屋。高卒だから中々就職厳しくてさ。』



『え…?美容師は…?』



『あ~美容師の給料じゃミサキと一緒に暮らせないからさ。』



『え…?』



『ミサキ、俺と一緒にこの施設を出よう。俺と一緒に暮らそう。』



こんなに…嬉しい言葉はなかった。
ずっと私はこの言葉を葵君からいってくれるのを待っていたんだよ。
だけど、私達は一緒に暮らしても恋人同士にはなれない。
だって兄妹だからーー



それなら葵君に私は夢を追い続けてほしい。
私と一緒になれないなら、せめて葵君には幸せになってほしいから。



『私好きな人がいるの…』



こんな言葉嘘だよ。嘘だよ…?
だけど葵君に私達血が繋がっているんだよって言えない。
悲しくて、辛くて、どこにもぶつけられない感情を抱えるのは
私だけでいい。



だけど、葵君。
私は強い人間じゃないから
葵君に嘘をついて
そして色んな感情を抱えながら生きていけなかった。



ごめんね、葵君……大好きだよ、お兄ちゃん。
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