最後の恋人。

かのん

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最後の恋人になってくれる?②

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「美咲さん」


「葵君……」


「やっと目を合わせてくれた。」


「だって、まさか葵君とここで美容師さんとして出会うなんて……」


鏡越しに見つめあっていた2人の目から自然と涙がこぼれている。
ずっと、ずっと、会いたかった…。
たった3年とはいえ、美咲の顔にはシミができて、手にも皺ができている。
苦労しているのか、白髪も何本かあった。
それでも、昔の美咲さんよりイキイキしていた。


「先週、智樹さんから連絡がきたんです。」



『美咲が見つかった!』


『え…本当ですか!?』


『施設を転々として先生をしているらしい。今隣の県にいるらしい。』


『智樹さん、ありがとうございます…智樹さん、俺が美咲さんに会いに行っていいんですか?』


『あれから葵君が頑張っている姿を俺は見ているから。今の君なら美咲を迎えに行ってもいいんじゃないかなっと思って。』


『智樹さん……』


『葵君。』


『はい。』

























『美咲の最後の恋人になっておいでよ!』
























「美咲さん、俺、一人前の美容師を目指して頑張っています。もう前の俺じゃないです。」


「え…?」


「ミサキとの思い出ももちろん大切だけど…今は前というか……上を向いて頑張っているつもりです。それは、美咲さんが頑張っているから…俺も負けないようにと思ってあなたの背中を追いかけてきました。」


「葵君……」


「まだ美容師としても、人間としても一人前じゃないけど…俺の……いや、僕の、初めてをもらってください!」


「葵君…その台詞……」


初めて葵君に会ったとき、葵君は何てピュアなんだろうって思ったセリフ。
葵君と接するようになって、昔の自分を思い出して
恋の温かさと切なさを思い出した。
恋って、苦しいけど、だからこそ、両想いになった時の感動は大きいんだ。


「でも私…ミサキちゃんと…ッ……その事実は消えないから…ッ」


「美咲さん、それを言ったら俺もそうです。俺があの時自分のことで頭いっぱいにならずに、ミサキのことをもっと見ていたら…母親に早くに会いに行っていたら…ミサキを無理矢理でも自分のところに連れていったら……そう思ったらキリがないです。」


「そうだけど……」


「ミサキのことも…俺達2人なら支えあって生きていけると思うんです。ミサキへの罪悪感がある俺達なら、2人でささえあっていけるって思いませんか?」


「葵君……っ……」


出会ったきっかけは決していいものではない。
だけど、過去のことをお互いに責めていても前には進めないからーー




「美咲さんの……返事がほしいです。」


自分のことをこれだけ欲してくれる人は
今までも、これからも現れることはないだろう……。






「最後の恋人になってくれる?」



2人でこれからを生きていこう。
やっと、やっと愛しい人を見つけた。








                        【完】
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