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サヨナラのキス。②

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10年ぶりの日本に1人で帰る予定だったけど、訳あって円花と一緒に帰ってきた。
ここは日本なのかって思うぐらい変わっていて、懐かしさは全くない。
日本じゃなくて外国に帰ってきたみたいだ…それもそのはずだ、俺は三歳までと紗英の時に1週間、美緒との数日しか日本にいないんだから――



『私ホテルに荷物置きたいんだけど。』



『じゃあ円花先に行ってて。俺行きたいところあるから。また連絡する。』



『本当に連絡してよ?』



『大丈夫だって。』



『……わかった。』



日本について会社に行く前に一目どうしても美緒をみたかった。
10年の歳月が流れてしまったけど
美緒は元気にしているのだろうか?



『誠二さん……』



10年経っても美緒の声は忘れることはできない。




久しぶりに寄った家の自分の部屋の窓が開いていた時は驚いた。
美緒が……椅子に座って寝ていたから。
ずっと触れたくて、ずっと見つめていたかった美緒が目の間にいる。



一人で過ごす10年の月日は長かった。
でも空を見上げて美緒も子供もきっと元気に過ごしている。
あの家で大事にされていると思ったら我慢ができた。



『美緒……』



触れたら起こしてしまいそうで
この状況で目を覚まされたら抱いてしまいそうで怖かった。
もう、美緒とはするつもりはない。



美緒には……誰よりも幸せになってほしいって思っているから。



『せい……じ…さっ…』



目は開けていないけど呟いた言葉が自分の名前で……
10年経ってもまだ俺のことを忘れていない。
まだ思ってくれているんだ。



『ありがとう、美緒。愛しているよ、ずっと……』



最後に抱き合ったときは
二人の涙が一つになって落ちたけど今度は違う。
俺の涙だけ――
先に落ちていく。



そっと頬に触れて美緒の温もりを久しぶりに感じてまた涙が流れる。
こんなにも温かいのだろうか――
そっと髪をかき上げてキス、そして美緒の可愛い耳たぶに軽く触れてからもう一度キス
一度じゃ足りなくてやっぱり今回も2回キスしてしまった。




これがサヨナラのキス。



次目を覚ましたら
どうか、俺を嫌いになってくれ。
もう俺のことなんか忘れて
かつては愛していた誠一のことをもう一度愛してくれ。



俺は美緒に嫌われるためならなんだってする。



美緒がそれで幸せになれるなら――
それでいい。



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