『今』につながる物語

星川護

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プロローグ

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 深夜の独特の匂いを秘めた冷風が、鼻を通り抜け、背後の部屋の空気をかき混ぜる。緩やかな風が、晴天の星空のような少女の黒髪を揺らす。静かすぎる夜の気配に心臓が拍動音が頭の中で木霊する。
 
 『家』を出るなら、今日以外考えられなかった。
 少女の兄とその護衛の2人の、合わせて3人が、今現在ここに居ないからだ。彼らは、先日起きた王夫妻の殺害事件による混乱の収拾と諸情報の伝達のため、近隣国に行っている。恐らく、明日の午後には戻ってくるだろう。
 そして、今は冬。この季節は少女の力を増幅させる。春や秋のような同じ条件下であれば同等である『夏』の力を双子の弟は持っているが、今の少女には敵わない。
 
 背後で、空色の結晶に足を包まれた弟妹が戸惑い混じりに叫んでいる。2人とも『冬』の力に抗えずに、せめて少女を引き留めようと叫んでいる。だが少女の心に、それは届かない。
 『家』を出る出ないに関わらず、少女には辛い未来が待っている。その未来を想像する方が少女の心を埋めていたからだ。
 
 それでも、少女は、2人の声が聞こえなくなることに気づく。そして振り返ると、同い年の弟が俯いている。末っ子の妹は雰囲気が変わった兄を凝視する。
 
 正直、声を抑えさせるため、強制的に口を封じさせることもできた。だが、城内の者は、ここにいる3人以外は全員、強力な『冬』の力を基とした魔法具により、眠りについているはずだから。
 目覚めるには、少女の力を遥かに凌駕する力を充てなくてはならない。
 少女がここから離れたら、弟妹がそれを行う可能性はあるかもしれないが、今は対して警戒するところではない。

 「…なんで…ですか」

 弟は叫んで掠れた声を発する。今までひたすらに少女の名前を叫んでいたが、冷静になったんだろうか。個人的には、もう少し落ち着くまで時間がかかるかと思っていたが、それより早かった。
 
 …大丈夫そうだ。この国を任せても。弟は少々、少女に依存気味だったため、少女は心配していたのだ。まだまだ伸びる。身長も能力も。
 弟は私に、「大丈夫」と態度で以て、伝えているのだろう。
 少女は彼に、国王となるものに、恭しく。
 
 「唯斗、大正解」
 
 弟は、はっと頭をあげる。
 弟の、唯斗の赤銅色の瞳に、少し寂しいような嬉しいような、ふたつの感情が、ない混ぜになっている姉の顔が見えた。
 「任せても良さそうだね。この姉には劣るけどその冷静さ大事にしてね」
 その表情に唯斗と妹は目を奪われ、美しさと絶望に絶句する。
 言い終えた少女は外へ体を向け、バルコニーの手すりに手をかける。
 ここは城の地上3階。そのまま落ちたら、まあ……大事になるうえに、『ここ』を抜け出せなくなる。
 
 少女の兄らがここを一時的に離れると知った直後、逸る思いで、昨日の昼にお忍びで、城下町の術屋に行った。そこで少女は、魔法具を購入した。
 軽く魔力を込めることで、その力を増幅させ、願う形に固定するものだ。よく、建物の足場として一般に使われる。
 とはいえ、子供に持たせたら何が起きるか、わかったものではないので、子供には売られない。そのため少女は何とか慣れないハイヒールを履いて身長を盛って買ってきた。16歳の少女には必要なさそうだが。
 
 買ってきてそのまま、少女はその魔法具を周囲を確認しながらバルコニー下の地面に埋め込んだ。直接持っていなくても、必要量の魔力が注入されれば、術は作動する。
 
 一国を治める城で魔法なんざ使ったら、バレそうなものだ。しかし、この魔法具に込められている魔法を発動させると同時に、少女が仕込んだ魔法により、城内にいる者たちは眠りにつく筈だ。
 
 ちなみにその効果は少女が城を出た時点で解ける。街で売られているものは危険性が少ないもの。そして魔法自体の効力が弱いので、安く、一般受けした。
 
 魔法が解けたとしても、すぐに目を覚ます訳でもない。そのまま寝続けるものもいるだろう。なんせ今は深夜。大部分が寝ていることだろう。
 
 
 対策はした。別れもした。全て上手くいってる。
 
 さあ、もう行こう。
 
 少女は右手を出し、手のひらを星空に向ける。手のひらに五芒星の魔法陣が出現する。そこに空色の『冬』の力が集約され、星空に向かって跳ね、ベランダの下に向かって落ちていった。
 それはベランダ下の魔法具に取り込まれる。魔力石から五芒星の魔法陣が急速に廻り出す。すると淡い光と共に一瞬にして氷の螺旋階段が生成される。
 
 少女は成功してよかったと息をついた。今頃、城のもの達は眠りについていることだろう。
 
 「姉上…」
 
 少女は声のした方を見る。唯斗と妹は一切微睡んですらおらず、ピンピンしていた。少女は一瞬驚いたが、すぐ納得する。
 
 この国では、季節の力を得るものが1番高位の異能力者であり、内包する魔力が多い。また、魔法陣の眠りの作用は『冬』の力の恩恵では無いため、2人には一切効かなかったのだろう。
 
 いずれにしたって、足は氷で止めているので関係ないが。バルコニーの手すりに、ゆっくり足をかけ、氷の階段に足を下ろす。
 そして少女は、黒長髪を靡かせながら振り返り、最後の言葉を言う。
 
 
 「さようなら」
 
 
 少女は地面にゆっくり足をおろし、氷の階段に宿っている自分の魔力を取り除く。すると氷の階段は空気に溶け込んで消えた。埋め込んでいた魔法具も消えた。
 それを確認し、少女は城の門を走り抜ける。案の定、城門の兵士は休息をとっていた。おかげで楽に抜け出すことが出来た。
 そして、少し立ち止まる。既に城を出てしまったため、一部の人間の術は解けてしまっただろうし、弟妹達も動けるようになっただろう。本当はこんなところで立ち止まってはいられない。
 
 けれど。
 
 
 少女にとって、心地よい冷風が吹く。さわさわと少女の肌を撫でる風は優しく少女のを包み込むようだ。
 立ち止まってはいられない。
 次は城下町を走り抜かなければ。 
 
 
 
 深淵の闇に月明かりが差し、更に街灯の淡い光によって道は歩きやすくなっている。だが、それは逆に言えば、自分の姿が見られやすいということだ。正体はばれないだろうが、女の子が夜中にうろついているというのは、不自然であり警備の者に通報される可能性がある。
 せっかく闇によく紛れる紺色のキャミソールワンピースを選んだというのに、このあかりの中では、まるで役に立たない。
 少女はできるだけ街灯の少ない、狭い道を選んで駆けた。もしかしたら使えるかもしれないと持ってきた、茶色の鞄が逆に走るのに邪魔になっている。そろそろ投げ捨てようかとも考えていた。
 
 
 少女が駆けているこの町は、この四季国の中で一番大きい。住む人間も多い。
 四季国の国王がいる四季城を中心とした正方形の城下町。町並みはおおよそ碁盤の目のように区画されている。しかし土地の高低差があり、道はまっすぐでもなく、平坦でもない。
 
 まっすぐ進みたくとも、月を頼りに方向を見失って、うっかり城に戻ってしまうので、気をつけて進む必要があった。体力も精神力も削られる。
 
 
 それに。
 先程から後ろに兵士が、ついてきている。
 狭い道を通っているからまだマシだが、ただの障害物無しの競走だと、確実に負ける。少しでもスピードを落とすと、姿を捉えられてしまう。
 
 だが、少女としては、道の歪さに体力が奪われ、正直、もう耐えられない。一旦休憩したい。
 少女は、走りながら後ろを振り返り、周辺を確認した後に、大通りに面している民家の塀の影に隠れた。
 

 少女はこの国の王族である。兄と妹、そして双子の弟を持つ16才の姫だ。当然ながら少女の両親は国王とその妻だ。しかし、少女の両親は既に亡くなっていた。そのため、現在この国には『国王』が居ない。すると当然、その子孫が次代国王となる。
 ここで、四季国以外だと、長男すなわち少女の兄、または次男すなわち少女の双子の弟が、王位を引き継ぐと考えるだろう。
 しかし四季国はそうでは無い。
 四季国には季節の力を用いて、次代の王を決定する。その場合、王位継承順位は『冬』の少女が一位となり、少女の双子の弟『夏』の唯斗が二位となるのだ。
 つまり、少女は『家』を出た、すなわち『王族を抜けた』ことになるので、王位は唯斗に移る。彼の性格に若干の不安はあったが、先程の様子から心配は不要だということがわかった。心残りはほとんどない。
 
 「どこへおられますか!姫様!」
 
 少女は、その張り上げられた声によって現実に引っ張られる。
 
 「早く戻りましょう!ここには恐ろしいものが多くいます!我々と早く…。さっき、ここらにいたんだけどな…見失ったか」
 
 少女は若い兵士のその言葉に若干の疑問を覚える。この街は基本的に治安が良い。それは表立っていることのみの話ではない。この国を担うものは全てを知らなければならないと、教育を受け、驚愕的なことも学んだ。
 だが、この街にはスラム的なところはなく、ホームレスも居ない。なぜなら、『門』で心を読み取る異能力者が力を行使し、ある程度裕福、またはきちんとした滞在理由を持っている者しか受け入れていないからだ。四季国は広い国でそれを治めるため不安要素は一切取り込まないようにしている。
 街には商人、兵士、王族、政治の要人達、異能力者、またそれらの家族しか住んでいない。
 だから、兵士の言う『恐ろしいもの』など居ない。
 やはり兵士の言うことを納得することが出来ず、少女は不快を顔に表した。
 
 
 それに、あの兵士、それ以外にも不審な点がある。
 少女は至るところに、道がループするとか、違うところにワープするとか、ちょっとした罠を走りながらバレないよう、置いてきた。これらは普通の兵士が察知できるようなものでは無い。異能力をある程度操れる異能力者でないと気づかない。
 
 
 四季国の軍隊は異能力と実力で編成される。異能力があり実績も積んでいる者を隊長、その下に異能力を巧みに操れる者を副隊長やその他幹部。そして異能力を持たないが武力を行使できる一般兵士。
 少女は次期国王として隊長、幹部の容姿と声を把握している。
 しかし、さっきの声は聞き覚えがない。単純に忘れた可能性もない訳では無いが、その可能性は薄い。
 異能力者は基本的に国に届出をしてその職場によって適しているところに配属されるようになっている。これは法で定められている義務だ。
 すなわち、軍隊の場合、異能力者は本人の意思に関わらず、幹部または隊長となるはずなのだ。
 
 当然、『門』の異能力者をスルーできるわけが無い。あの兵士は一体何者なのか。
 
 少女は塀に身を隠しながら、どこに行こうかと思考を回していた。特にどこかへ行くという目標は立てずに脱走してきたのだ。ただ『城下町から出る』というのを目標としていた。ここまで割と順調にことが進んだが、ここから先どうしようか。
 
 悠長にそんなことを考えているうちに、足音は的確にだんだんと近づいてくる。先程見失ったと言っていたくせに…!
 (見つかる…!)
 少女は恐怖に身を強ばらせた。すると提げていた茶色の鞄が開き、持ってきたものが地面に落ちる。少女はもはや動けずに目をギュッと閉じる。
 
 ボトッ。
 
 少女は自分の血がさーっと引いていくのを感じた。この静かな夜の中、聞こえないわけが無い。背中に汗が滲む。
 しかし、少女の予想とは異なり、若い兵士は困惑したように周辺を見回した。すると、兵士の足音は遠のいていった。
 少女は困惑し、目を開いた。あの兵士、確実に私の場所を知っていて向かってきていたはずなのに。
 
 どうして。
 
 そして安堵したせいか、体が温かくなり、疲れが飛んだような気がした。
 少女は息を整え、警戒しながら、先程の兵士の動向を伺った。

 
 
 若い兵士は、大通りを馬で進む、老いた兵士に話しかけた。年老いた兵士は暗い路地から走ってきた若い兵士に問う。
「見つかったか」
 路地から来た若い兵士は息を切らしながら、返答した。
「いいえ、……しかしこちらに曲がるのは見ました。恐らくここ周辺にいるかと」
 年老いた兵士は若い兵士にうなずき、息を吐いた。年老いた兵士の喉付近が淡く輝き、声を張り上げ、周辺の兵士に指示を出した。
 
『皆のもの!!ここ周辺の道、路地を含んだ全ての、人が歩ける場所を固めろ!これ以上、姫様を城から離れさせるな!』
 
 若い兵士は、にやりと薄く口端をつり上げた。しかしすぐに「了解」と叫んだ。
 いたるところから夜の静寂を破壊する「了解」の声が響いた。

 今のはこの国特有の能力持ち、『異能力者』の力。『拡散』は無差別に遠距離の人に声を届けられる。さらに熟練者は、指定している人物、集団にも声を届けられる。
 城を飛び出た時にも『拡散』によって少女に制止の声が届けられた。しかし少女はそれを無視した。そのため兵団が追ってきたのだ。
 遠距離に届けると言っても、普通に発した声を能力で遠距離に届けるわけだから、寝静まっている一般人にも声は聞かれる。
 この騒ぎのせいで起きた一般人が家に明かりを灯し、暗いところが減り、逃げ道が無くなった。
 このままではいずれ捕まり、連れ戻されてしまう。
 
 そこでふと、少女は約数十分前のことを思い出す。
 

『さようなら』

 と少女と双子の16才の弟と12才の妹に言い残し、少女は城を出た。 
 …今追ってきている兵は弟が指揮しているのだろうか。『部外者』は、ただ、逃がせばいいのに。それとも少女に正式に王位継承権を破棄して欲しいのだろうか。既にこのような騒ぎを起こしている少女やその弟達も、批判が来るのは分かりきってることなのに。弟の意図が掴めない。
 そういえば、弟は王になりたがっていたような気がする。少女が激務中、書類運びしていた弟は、たまに「僕が国王になったらですね~…」と漏らしていたからだ。内容は忙しくて覚えてないし、指で数えるほどあったから覚えていないが。
 
 
 
 少女はふるふると頭を横に振る。とても忙しかったが楽しい日々だった。しかし少女はここから早く離れなくてはならない。こんなところで足止めされている場合ではないのだ。
 それでも育った地への執着は収まらない。だが過去を思い、やはりこの国を離れなければと強い意志が現れる。

 
 少女には生まれたとき、その場にいた者へ、神、四季国の信仰する四季神からある言葉が言い渡された。

『この女児は王に相応しい力を有している』

 そこだけだったら皆も、喜ぶだけで良かっただろう。しかし。

『……ただし、この者が両親を失った後、この赤子が王になったとき国に災いが降りかかるだろう』

 当時、赤子だった少女は実際には聞いていない。両親が死んでから、これを専属の護衛の一人に教えてもらった。言葉の意味を理解しあぐねて妹は『?』を浮かべていたが、意味の分かる双子の弟と兄は、必死に少女をフォローしてくれた。
「姉上、信じないでください。こんなものデタラメですよ。なんですかこれ。『矛盾』してますよ。王にふさわしいといっているくせに王になったら国にわざわい?きっとこれは王家に恨みのある妖怪が言ったことですよ」
「あまり真に受けるな。こういうのはよくある」
 兄に関しては、もう、経験者は語る、感が強かった。
 
 
 とても可愛い妹と弟、かっこいい兄。
 少女は紺色の目をゆっくりと開いた。
 だけどもう、会うことは、ない。
「……………」
 いい加減移動しないと、囲まれてしまう。何か打開策はないかと少女は戦慄する。そうして先程落とした瓶に手が触れ、中に入っている炎の暖かさが手に伝わる。

…そうだ!

 命令を渡されていても、結局は街を守る兵士。だったら、街が危険にさらされればいい。そうすればそちらを優先するはずだ。兵士はこの町出身が多い。家族や友人もいるだろうから。
少女は目を閉じて頭を振り苦笑した。我ながら恐ろしい。

 この街は木造建築。幸い、家を建てた後に『結界』の異能者の作った御守りによって室内は外界からの影響をうけない。火が屋内に入らない。外壁が燃えるだけ。

 誰も大怪我を負わない。

 …ちょうど、城で魔法の訓練に使った、双子の弟の炎が残ってる。弟には申し訳ないが、悪事に使わせてもらう。少女は先程落とした、明るく、暖かい炎の入った瓶を手に取る。

 ああ、これで完全に王族とはおさらばだ。追われる身、いや、隠蔽されて、なかったことになるんだろうな。

 これで…。

 瓶の蓋を開け、大きく振りかぶる。

「届いて!」

 中の炎が屋根に付着し、勢い良く燃え広がる。
 兵士達が姿を見せ、声をあげた少女に気づかないまま、屋根を見つめる。
「火事か!?」
 兵士がざわめく。
 若い兵士が炎を仰ぎ見る。他の兵士も集まってくる。ガーネットとシグナル色の瞳を忌々しく細め、若い兵士は小さく、小さく舌打ちをした。
 別の兵士が叫ぶ。
「“雨”か“空気”の異能者を呼んでこい!消火するぞー!」
 火が近隣の住宅へ燃え広がる。
「うわっ、なんだ!どんどん燃え広がるぞ!」
「この炎、異能力かもしれん。早く、異能者をここに!!」
 少女は、近くの燃えている家へ提げてきた鞄を証拠隠滅のため投げつけた。すると、すぐに燃え尽きてしまった。そして少女は背を向けて、走り出した。

「さようなら…」


 少女は夜明けの迫る冬の町を走って、走った。途中転びそうになったり、腹が痛くなったりした。木陰で少し休憩もして、町を抜けた。
 白銀の森を背に崖の上に立った。完全に夜が明けて城と城下町が小さくなって見える。城下町は結界が張られていて、雪は多く降らない。常に地面がみえ、町は灰色に見える。
 少女の体は冷え、膝や腕などに裂傷が走っていた。夜通し寒い中、走ったことは無かった。
 昨日の夜まであの城の部屋で温かく弟妹と共に幸せに眠っていたんだと思うと寂しくなった。正直、兄にも会いたかったと思った。
 寒さに手がかじかむ。吐いた息が白い。
「もっと、遠くへ……」
 外気の冷たさで頬が赤く染まる。
 後ろを向いて、城と城下町に背を向ける。
歩き出す。

 

 おぼろな目が辺りを彷徨う。髪が肌にひっつく。
 見渡す限りの木と、雪。ずっと、走ってくる間、気持ちよさそうだ、と思っていた。ふかふかしてるんだろうか。ボロボロの長靴から冷たさは感じない。完全に日が昇り、雪が日光を反射し眩しいのに。今更眠気が。
 
 ああ、眠いなぁ。
 
 少女は木の枝に躓き、そのまま、雪の中へ。白く輝く粉が舞う。起き上がる気力も、もう無い。
 何もかも忘れて、ここで、寝ていよう。
 視界が闇に染まっていく。
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