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脱出2
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「とにかく、今は逃げるしかない」
追手がないことを不審に思っているらしい。
そもそもスズは出来損ないの卵生なので、追われることなどない気がするが、あえてそれは言わなかった。
男達はそのままひた走り、先に見えていた雑木林へと入る。
「いったん降りろ」
木々に覆われ視界が悪い場所に入ると、やっと下におろしてもらった。
土の感触に感動していると、男がしゃがんで背を向け、「ほら」と言ってきた。
「なに?」
「背負うから、背中におぶされ」
「おぶさる?」
「俺の肩に手を回して、体重を預けてみろ。こっちの方がさっきのより楽だろう」
ただ体勢が変わるだけで、この男に運ばれることは変わらないらしい。
「オレ、歩けるよ」
「裸足のやつが何を言ってる。だいたいお前、ずっと地下室にいたのなら、そんな体力ないだろう。ここから俺たちの村までだいぶ離れている。いいから乗れ」
素気無くいわれ、頬を膨らましていると、もう1人の男が「へぇ」と感心したように言った。
「卵生って、なんかもっと高尚な話し方するのかと思ってた。オレとか言うんだね」
「オレは卵生のわりに下品ってよく言われたから、他の卵生は違うかもね」
「ふーん。そもそも君って何歳くらいなんだ?」
「分かんない。あの地下室に閉じ込められて5回春が来たけど、その前はよく覚えてない」
「卵生、おしゃべりは終わりだ」
顎をしゃくられ、しぶしぶ背に乗りながら言った。
「あのさ、オレには卵生じゃなくてスズって名前があるんだ。この名前だって別に好きじゃないけど、少なくとも卵生って呼ばれるよりマシだからそっちで呼んで」
「へぇ。可愛い名前じゃん。俺の名前はフォルだよ」
スズを運んでる方じゃない男が言った。
フォルはどうやらお喋りなようだ。栗色の髪を緩く結び、髪と同じ色の瞳で人付きのする笑みを浮かべている。
「じゃあ、あんたの名前は?」
逆にスズを背負ってる男は全く愛想というものがない。
銀がよくスズのことを愛想がなくて可愛げないと文句を言っていたが、少なくともこの男よりは自分は愛想というものを持ち合わせていると思った。
問いかけているのに、こちらをチラリとも見ない。
なんだよ、と憤慨していると、少し進んでから一言だけ「シン」と名乗った。
雑木林を抜け、ゴツゴツとした岩場が続く山道になった。
二人はそれを先ほどと大して変わらぬスピードでぐんぐん登っていく。
スズといえば、シンの背におぶさっているだけだけでも、体がガクンガクンと飛び跳ねしがみついているのがやっとの状態だ。
それさえも上り坂が終わり、二人が下り始めた時には掴んでいる指が限界を迎えていた。
いまにも落ちそうになっているスズを見かねて木陰の下で少し休憩をとるが、二人は息ひとつきれていない。
自分のあまりの体力の無さに申し訳ない気持ちになったが、ここで謝るのもなんだかおかしな感じがして、黙ってフォルがくれた水を飲んだ。
そんなことを繰り返しているうちに、空はオレンジ色に染まり、辺りが段々と暗くなっていく。日が暮れてきたのだ。
見渡す限りはまだ山で、二人が言う村のようなものは見えてこない。
「まずいな。思ったより進んでない」
隣でフォルが唸るように呟いた。
「シン、どうする」
「追手に気付かれる可能性があるから火は起こしたくない。月明かりでゆっくりと進もう」
「……わかった」
夜通し歩くということのようだ。
密かに驚いていると、シンがこちらを振りむいた。
「お前は寝るか喋るかしてろ」
「なにそれ。全然違うじゃん」
「寝ればお前の休憩を取らずに歩ける。喋れば人間と気付いて動物が近寄らない。場合もある」
「近寄ってくる場合は?」
「人間より強い動物は襲ってくる」
「なにそれ! 意味ないじゃん」
「じゃあ、寝てろ」
シンはそれだけ言うと、前を向いてズンズン進み始めた。
シンが相手をしてくれなさそうなので、フォルの方に話を向けてみる。
「人間より強い動物って……よくいるの?」
「そんなにはいないよ。この辺りは岩場が多いから動物達にとってもそれほどいい餌場じゃないし。それに、もしいたとしてもシンがやっつけてくれるよ」
「フォル、いい加減なことを言うな」
「本当のことだよ。スズ、弓って知ってるかい?」
「ゆみ? 分かんないな」
「動物が現れたらシンに見せてもらうといい。シンは弓の名手なんだ」
「めいしゅ?」
「優れているってことさ。俺たちは技芸の一族で、シンは弓の技に優れてるんだ」
「技芸って……」
キジバトのユーイが言っていた。芸を披露しながら旅をしていたという一族だ。
では、ユーイが口にした見たことないほど美しい人間というのは、シンのことに違いない。
「じゃあ、フォルはなんの技芸に優れているんだ?」
「俺は楽器全般だよ。特に弦楽器が好きかな」
「弦楽器って、シターとか?」
「よく知ってるね。地下室でも見たことあるのかい」
「実物はない。本に描いてあった。いろんな歌の歌詞が書いてあって、そこに挿し絵で色んな楽器がのってたんだ。世話役に強請って、楽器の名前だけ教えてもらった。だから名前しかわからないけど、その楽器がどんな音を鳴らすのか想像するのは楽しかった」
「そうか。じゃあ、ぜひスズには村に帰って一番に聞かせてあげないとな」
「こいつが一番にすることは、卵を産むことだろう」
追手がないことを不審に思っているらしい。
そもそもスズは出来損ないの卵生なので、追われることなどない気がするが、あえてそれは言わなかった。
男達はそのままひた走り、先に見えていた雑木林へと入る。
「いったん降りろ」
木々に覆われ視界が悪い場所に入ると、やっと下におろしてもらった。
土の感触に感動していると、男がしゃがんで背を向け、「ほら」と言ってきた。
「なに?」
「背負うから、背中におぶされ」
「おぶさる?」
「俺の肩に手を回して、体重を預けてみろ。こっちの方がさっきのより楽だろう」
ただ体勢が変わるだけで、この男に運ばれることは変わらないらしい。
「オレ、歩けるよ」
「裸足のやつが何を言ってる。だいたいお前、ずっと地下室にいたのなら、そんな体力ないだろう。ここから俺たちの村までだいぶ離れている。いいから乗れ」
素気無くいわれ、頬を膨らましていると、もう1人の男が「へぇ」と感心したように言った。
「卵生って、なんかもっと高尚な話し方するのかと思ってた。オレとか言うんだね」
「オレは卵生のわりに下品ってよく言われたから、他の卵生は違うかもね」
「ふーん。そもそも君って何歳くらいなんだ?」
「分かんない。あの地下室に閉じ込められて5回春が来たけど、その前はよく覚えてない」
「卵生、おしゃべりは終わりだ」
顎をしゃくられ、しぶしぶ背に乗りながら言った。
「あのさ、オレには卵生じゃなくてスズって名前があるんだ。この名前だって別に好きじゃないけど、少なくとも卵生って呼ばれるよりマシだからそっちで呼んで」
「へぇ。可愛い名前じゃん。俺の名前はフォルだよ」
スズを運んでる方じゃない男が言った。
フォルはどうやらお喋りなようだ。栗色の髪を緩く結び、髪と同じ色の瞳で人付きのする笑みを浮かべている。
「じゃあ、あんたの名前は?」
逆にスズを背負ってる男は全く愛想というものがない。
銀がよくスズのことを愛想がなくて可愛げないと文句を言っていたが、少なくともこの男よりは自分は愛想というものを持ち合わせていると思った。
問いかけているのに、こちらをチラリとも見ない。
なんだよ、と憤慨していると、少し進んでから一言だけ「シン」と名乗った。
雑木林を抜け、ゴツゴツとした岩場が続く山道になった。
二人はそれを先ほどと大して変わらぬスピードでぐんぐん登っていく。
スズといえば、シンの背におぶさっているだけだけでも、体がガクンガクンと飛び跳ねしがみついているのがやっとの状態だ。
それさえも上り坂が終わり、二人が下り始めた時には掴んでいる指が限界を迎えていた。
いまにも落ちそうになっているスズを見かねて木陰の下で少し休憩をとるが、二人は息ひとつきれていない。
自分のあまりの体力の無さに申し訳ない気持ちになったが、ここで謝るのもなんだかおかしな感じがして、黙ってフォルがくれた水を飲んだ。
そんなことを繰り返しているうちに、空はオレンジ色に染まり、辺りが段々と暗くなっていく。日が暮れてきたのだ。
見渡す限りはまだ山で、二人が言う村のようなものは見えてこない。
「まずいな。思ったより進んでない」
隣でフォルが唸るように呟いた。
「シン、どうする」
「追手に気付かれる可能性があるから火は起こしたくない。月明かりでゆっくりと進もう」
「……わかった」
夜通し歩くということのようだ。
密かに驚いていると、シンがこちらを振りむいた。
「お前は寝るか喋るかしてろ」
「なにそれ。全然違うじゃん」
「寝ればお前の休憩を取らずに歩ける。喋れば人間と気付いて動物が近寄らない。場合もある」
「近寄ってくる場合は?」
「人間より強い動物は襲ってくる」
「なにそれ! 意味ないじゃん」
「じゃあ、寝てろ」
シンはそれだけ言うと、前を向いてズンズン進み始めた。
シンが相手をしてくれなさそうなので、フォルの方に話を向けてみる。
「人間より強い動物って……よくいるの?」
「そんなにはいないよ。この辺りは岩場が多いから動物達にとってもそれほどいい餌場じゃないし。それに、もしいたとしてもシンがやっつけてくれるよ」
「フォル、いい加減なことを言うな」
「本当のことだよ。スズ、弓って知ってるかい?」
「ゆみ? 分かんないな」
「動物が現れたらシンに見せてもらうといい。シンは弓の名手なんだ」
「めいしゅ?」
「優れているってことさ。俺たちは技芸の一族で、シンは弓の技に優れてるんだ」
「技芸って……」
キジバトのユーイが言っていた。芸を披露しながら旅をしていたという一族だ。
では、ユーイが口にした見たことないほど美しい人間というのは、シンのことに違いない。
「じゃあ、フォルはなんの技芸に優れているんだ?」
「俺は楽器全般だよ。特に弦楽器が好きかな」
「弦楽器って、シターとか?」
「よく知ってるね。地下室でも見たことあるのかい」
「実物はない。本に描いてあった。いろんな歌の歌詞が書いてあって、そこに挿し絵で色んな楽器がのってたんだ。世話役に強請って、楽器の名前だけ教えてもらった。だから名前しかわからないけど、その楽器がどんな音を鳴らすのか想像するのは楽しかった」
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