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愚か
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次の日、スズは熱を出した。
岩じいが言うにはずっと地下にいたのに急に体力を使ったからだという。シンが心配してアレコレと世話をしてくれたお陰が熱はすぐにおさまったが、卵作りはもう少し体力が着くまで休もうということになった。スズにとっては有難いことだが、それが許されるのだから本当にお人好しの一族だ。
体力が着くまで洞窟内を探索して過ごすことにした。
はじめはシンが付き添ってくれたが、慣れたら一人でまわりたいと言ったらなんと許された。
洞窟内は思っていた数倍広く、奥まで広がっている。
横穴はそれぞれの自室になっていたり、色々な道具置きになっている部屋もあった。
旅をしていると言っていたわりに荷物が多いのが気になって聞いてみたら、この洞窟を拠点にして点々と旅に出ているらしい。
技芸の民らしく、楽器らしきものが沢山置いてあり、スズは一日中探索をして過ごした。そして夜になるとシンの部屋で卵作りはせずに共に寝るという生活を何日か繰り返した。
そんなある日、数ある楽器の中から気になるものを見つけた。
形は他の弦楽器と似ているが、スズの身長ほど大きなもので弦も一本しかない。
木材で作られた本体はだいぶ使いこまれているようだが、良く手入れされているように感じた。
(どんな音がするんだろう)
なんとなく惹かれるものがあり、手を伸ばそうとしたその時、背後から険しい声で一喝された。
「それに触るな」
弾けるように離れて後ろを振り返ると、そこには族長のガイルが厳しい顔で立っている。
「弓は神聖なものだ。持ち主以外が触ってはならん」
「弓……じゃあ、これはシンの……」
「そうだ」
かなり大きいし、重そうだが、シンならたしかに使いこなせるだろう。
「ごめんなさい。楽器なのかと思ったんだ」
素直に謝ると、ガイルの雰囲気もいくぶんか和らいだ。
「気を付けなさい。楽器もそうだが、持ち主が不在のときに触るのは、あまり褒められたことではない」
「はい」
頷くと、ガイルがなんとも言えない顔をした。
「なに?」
「いや……君は会うたびに印象が違うな、と思ってな。初めて会ったときは生意気で狡猾な人間だと思ったが、浅はかなところもあるし、今のように素直に謝ったりもする」
「もしかして自分がないって言いたい?」
「そういうわけではない」
少しムッとした様子のガイルを見て、思わず笑った。
「いや、族長さんはあってるよ。オレって、とってもいい加減なんだ」
ガイルは暫く無言だったが、やがてため息をついて言った。
「シンの弓は……私が教えた。私は書の才を持って産まれたが、弓は族長の心得として先代から教わったものだ。私とは違い、シンの才は本物だ。だが、弓の才は旅芸人としては稼ぐことは出来ない。それをあれは引け目に感じていて、少しでも一族の役にたちたいと、危険な卵生を攫うという役目をかって出たのだ」
一晩スズを運んでくれたシンの背を思い出す。硬く、大きな背中は旅芸人というよりは武人といった方が納得出来る体格だった。
強い武人は冠藍では重宝されるものだが、技芸の一族の中では異質なものでしかないのだろう。
「私が願うのは一族の幸せだ。一族の未来を担う者が、幸せであることがなにより優先されるべきこと。卵は一族の悲願。それを成し遂げることで、またシンも幸せになる」
深い色の瞳がスズを見る。
シンとフォルはガイルが卵から孵したと言っていた。我が子の幸せを願うのは当然のことなのだろう。
自分の親も覚えてないし、命を生み出したこともないスズには、良く分からないけれど。
「だからこそ、君がもし受精卵を産めないままなら、一番傷つくのはシンだ。あの子が傷つけば、私は君をどうするか分からない」
要するに、これは脅しだ。
ウロウロしてないで、さっさと卵を産む努力をしろとスズに言っているのだ。
「分かってる。でもさ、シンの体の強さなら冠藍で働けばいいお給料が貰えるんじゃないかな。別に芸にこだわらなくても。シンの特技を活かせることをさせてあげてもいいんじゃないの?」
ちょっとした反抗心があって言ってみたことではあるが、実際シンの体の強さは冠藍に向いていると思った。
世話係が年中話題にしていた羽振りの良さそうな一族は全員武人だったし、そういった者達が金の卵を手に入れていた。
シンが武人として冠藍で活躍すれば、すぐに金の卵も手に入りそうなものだ。
だが、ガイルはますます険しい顔になり、侮蔑を孕んだ目でスズを見て言った。
「我が子を喜んで戦に行かせるほど、私は愚かではない」
岩じいが言うにはずっと地下にいたのに急に体力を使ったからだという。シンが心配してアレコレと世話をしてくれたお陰が熱はすぐにおさまったが、卵作りはもう少し体力が着くまで休もうということになった。スズにとっては有難いことだが、それが許されるのだから本当にお人好しの一族だ。
体力が着くまで洞窟内を探索して過ごすことにした。
はじめはシンが付き添ってくれたが、慣れたら一人でまわりたいと言ったらなんと許された。
洞窟内は思っていた数倍広く、奥まで広がっている。
横穴はそれぞれの自室になっていたり、色々な道具置きになっている部屋もあった。
旅をしていると言っていたわりに荷物が多いのが気になって聞いてみたら、この洞窟を拠点にして点々と旅に出ているらしい。
技芸の民らしく、楽器らしきものが沢山置いてあり、スズは一日中探索をして過ごした。そして夜になるとシンの部屋で卵作りはせずに共に寝るという生活を何日か繰り返した。
そんなある日、数ある楽器の中から気になるものを見つけた。
形は他の弦楽器と似ているが、スズの身長ほど大きなもので弦も一本しかない。
木材で作られた本体はだいぶ使いこまれているようだが、良く手入れされているように感じた。
(どんな音がするんだろう)
なんとなく惹かれるものがあり、手を伸ばそうとしたその時、背後から険しい声で一喝された。
「それに触るな」
弾けるように離れて後ろを振り返ると、そこには族長のガイルが厳しい顔で立っている。
「弓は神聖なものだ。持ち主以外が触ってはならん」
「弓……じゃあ、これはシンの……」
「そうだ」
かなり大きいし、重そうだが、シンならたしかに使いこなせるだろう。
「ごめんなさい。楽器なのかと思ったんだ」
素直に謝ると、ガイルの雰囲気もいくぶんか和らいだ。
「気を付けなさい。楽器もそうだが、持ち主が不在のときに触るのは、あまり褒められたことではない」
「はい」
頷くと、ガイルがなんとも言えない顔をした。
「なに?」
「いや……君は会うたびに印象が違うな、と思ってな。初めて会ったときは生意気で狡猾な人間だと思ったが、浅はかなところもあるし、今のように素直に謝ったりもする」
「もしかして自分がないって言いたい?」
「そういうわけではない」
少しムッとした様子のガイルを見て、思わず笑った。
「いや、族長さんはあってるよ。オレって、とってもいい加減なんだ」
ガイルは暫く無言だったが、やがてため息をついて言った。
「シンの弓は……私が教えた。私は書の才を持って産まれたが、弓は族長の心得として先代から教わったものだ。私とは違い、シンの才は本物だ。だが、弓の才は旅芸人としては稼ぐことは出来ない。それをあれは引け目に感じていて、少しでも一族の役にたちたいと、危険な卵生を攫うという役目をかって出たのだ」
一晩スズを運んでくれたシンの背を思い出す。硬く、大きな背中は旅芸人というよりは武人といった方が納得出来る体格だった。
強い武人は冠藍では重宝されるものだが、技芸の一族の中では異質なものでしかないのだろう。
「私が願うのは一族の幸せだ。一族の未来を担う者が、幸せであることがなにより優先されるべきこと。卵は一族の悲願。それを成し遂げることで、またシンも幸せになる」
深い色の瞳がスズを見る。
シンとフォルはガイルが卵から孵したと言っていた。我が子の幸せを願うのは当然のことなのだろう。
自分の親も覚えてないし、命を生み出したこともないスズには、良く分からないけれど。
「だからこそ、君がもし受精卵を産めないままなら、一番傷つくのはシンだ。あの子が傷つけば、私は君をどうするか分からない」
要するに、これは脅しだ。
ウロウロしてないで、さっさと卵を産む努力をしろとスズに言っているのだ。
「分かってる。でもさ、シンの体の強さなら冠藍で働けばいいお給料が貰えるんじゃないかな。別に芸にこだわらなくても。シンの特技を活かせることをさせてあげてもいいんじゃないの?」
ちょっとした反抗心があって言ってみたことではあるが、実際シンの体の強さは冠藍に向いていると思った。
世話係が年中話題にしていた羽振りの良さそうな一族は全員武人だったし、そういった者達が金の卵を手に入れていた。
シンが武人として冠藍で活躍すれば、すぐに金の卵も手に入りそうなものだ。
だが、ガイルはますます険しい顔になり、侮蔑を孕んだ目でスズを見て言った。
「我が子を喜んで戦に行かせるほど、私は愚かではない」
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