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幻の魔石は君だ
国王行方不明の一報
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「――オリヴィエ・エストランディ・ライドール。お前宛てだ」
オリヴィエが戦の最前線に一番近い駐屯地で受け取った郵便物は、これまた堅物がいかにも書きそうな固い字体で書かれた手紙の入った封筒と、宛名だけが書かれた青い封筒の2通だった。
送り主は言うに及ばず、固い字体の手紙はオリヴィエの師匠ライドールからのもの、のようだ。
というのも、体に良い薬草茶の作り方が書かれているだけで、それ以外に送り主の名も何もなかったのだ。養父なりの心配なのだろうが、それ以外に一言ぐらいつけたっていいものを。
もう一通の封筒にも、送り主の名はなかった。
内容は一文。──「君は私の魔石だ」
オリヴィエには、まるで意味が分からない。だが、送り主の見当はつく。オリヴィエが遊びでつけた名、蒼の君にちなんでわざわざこの戦時に青い封筒を使ってきたのだろう。
「2通とも送り主の名がないというのが、なんとも」
オリヴィエの部隊には、国王が一歩先に最前へ向かったという情報が先程入ったばかりだ。
国王エドモンド。
エドモンド・マグワイア・リル・ダートル。
現ダートル王家当主であり、ダートル王国第10代国王。
国王は幻の魔石の正体を知っている。幻の魔石が戦の火種。戦の原因は自らにあると述べた国王。そして命を狙われる国王。オリヴィエには幻の魔石の価値がさっぱり見出せなかったが、かの国にとってはそれほど価値のあるものなのだろう。
何かが、分かりそうで分からない。
ただ、エドモンドのためにオリヴィエに出来ることは、戦うことのみだった。
「通達!通達!エドモンド国王陛下が行方不明になられたとのこと!!」
「尚、周知であろうが陛下はお命が狙われている!」
「捜索隊の派遣を!!」
この通達が回ったのも、はや1週間前であろうか。
兵士、魔術師の悲痛な叫び声が聞こえる。味方か、敵か、判別がつかない。
オリヴィエは今、最前に身を投じていた。指示を仰ぐ上司は尻尾を巻いて逃げた。生きて帰れたなら必ず始末してやる。
「私は国王の盾、オリヴィエ・エストランディ・ライドールである!」
オリヴィエは声高々に叫ぶと、戦が始まって以来一度も抜かなかった剣を鞘から抜き去り、魔術を纏わせた。
あの胡散臭い国王が命を晒して戦ったのなら、自らも命を晒して戦い抜く。
1週間だ。国王の生存について、何の情報も回ってこなかった。
「くっ…!」
オリヴィエの魔力保有量は多くないため、通常ならば物陰に隠れ、目視できる遠隔地に魔術を放ち魔力消耗を最低限に収めている。
しかしながら今のように近接戦になってしまうと、防御魔術を使いつつ剣を振り攻撃魔術を放つため、魔力消耗が激しい。意識が遠のくことを感じたが、魔術攻撃に対抗できるのは魔術師だけだ。
「――オリヴィエ、止まれ!」
一瞬の閃光と共に聞こえたのは、オリヴィエを呼ぶ声。
「あ…蒼の君、国王陛下……」
そして、オリヴィエの剣を止めたのは、蒼の君。これは現実か。
「君の魔力保有量からして、それ以上の魔術は暴走の危険だと分かるか?」
1週間以上行方不明だったはずのエドモンドは何事もなかったかのように、魔力消耗で力の入らないオリヴィエを軽々抱きかかえる。
「……こ…国王陛下…なぜここに!」
朦朧とした頭で慌てて周囲を見渡す。国王はどこから現れたのか!気づくことができなかった。
相対していた敵たちはみな倒れこんでいるではないか。国王が現れた瞬間にオリヴィエに認識できない何かがあったのか?
「ほら見ろ、焦点が定まっていないではないか。お互いに無事でいてほしいと願ったのにも関わらず、無茶をするとは。酷いやつだ」
「そんなのっ!あなたに言われ…たくありません…!」
この辛辣な言葉。オリヴィエと共に樹の根に座り、会話を楽しんだ蒼の君だ。
オリヴィエは言い返すも、見る限りエドモンドが無事であったことに笑みが零れてしまう。
「だが俺は無事だ。──オリヴィエ」
エドモンドが額に口づける感覚を最後に意識が沈んだ。
あとで聞いた話によれば、エドモンドは隣国を欺くためにわざと行方不明を演じていたらしい。「自軍の士気が下がったらどうするつもりだったのか!」と多くの魔術を放った精神的な興奮で、思わずそう問い詰めたオリヴィエであったが、国王に一笑された。
「ははっ。──君の暴走を止められるのは俺ぐらいだろ?」
「こ…答えになっていませんし、あなたに止めていただかなくても結構です!暴走なんてしていないし!」
この会話が後に脚色され伝説として言い伝えられることを、当人たちは知らない。
オリヴィエが戦の最前線に一番近い駐屯地で受け取った郵便物は、これまた堅物がいかにも書きそうな固い字体で書かれた手紙の入った封筒と、宛名だけが書かれた青い封筒の2通だった。
送り主は言うに及ばず、固い字体の手紙はオリヴィエの師匠ライドールからのもの、のようだ。
というのも、体に良い薬草茶の作り方が書かれているだけで、それ以外に送り主の名も何もなかったのだ。養父なりの心配なのだろうが、それ以外に一言ぐらいつけたっていいものを。
もう一通の封筒にも、送り主の名はなかった。
内容は一文。──「君は私の魔石だ」
オリヴィエには、まるで意味が分からない。だが、送り主の見当はつく。オリヴィエが遊びでつけた名、蒼の君にちなんでわざわざこの戦時に青い封筒を使ってきたのだろう。
「2通とも送り主の名がないというのが、なんとも」
オリヴィエの部隊には、国王が一歩先に最前へ向かったという情報が先程入ったばかりだ。
国王エドモンド。
エドモンド・マグワイア・リル・ダートル。
現ダートル王家当主であり、ダートル王国第10代国王。
国王は幻の魔石の正体を知っている。幻の魔石が戦の火種。戦の原因は自らにあると述べた国王。そして命を狙われる国王。オリヴィエには幻の魔石の価値がさっぱり見出せなかったが、かの国にとってはそれほど価値のあるものなのだろう。
何かが、分かりそうで分からない。
ただ、エドモンドのためにオリヴィエに出来ることは、戦うことのみだった。
「通達!通達!エドモンド国王陛下が行方不明になられたとのこと!!」
「尚、周知であろうが陛下はお命が狙われている!」
「捜索隊の派遣を!!」
この通達が回ったのも、はや1週間前であろうか。
兵士、魔術師の悲痛な叫び声が聞こえる。味方か、敵か、判別がつかない。
オリヴィエは今、最前に身を投じていた。指示を仰ぐ上司は尻尾を巻いて逃げた。生きて帰れたなら必ず始末してやる。
「私は国王の盾、オリヴィエ・エストランディ・ライドールである!」
オリヴィエは声高々に叫ぶと、戦が始まって以来一度も抜かなかった剣を鞘から抜き去り、魔術を纏わせた。
あの胡散臭い国王が命を晒して戦ったのなら、自らも命を晒して戦い抜く。
1週間だ。国王の生存について、何の情報も回ってこなかった。
「くっ…!」
オリヴィエの魔力保有量は多くないため、通常ならば物陰に隠れ、目視できる遠隔地に魔術を放ち魔力消耗を最低限に収めている。
しかしながら今のように近接戦になってしまうと、防御魔術を使いつつ剣を振り攻撃魔術を放つため、魔力消耗が激しい。意識が遠のくことを感じたが、魔術攻撃に対抗できるのは魔術師だけだ。
「――オリヴィエ、止まれ!」
一瞬の閃光と共に聞こえたのは、オリヴィエを呼ぶ声。
「あ…蒼の君、国王陛下……」
そして、オリヴィエの剣を止めたのは、蒼の君。これは現実か。
「君の魔力保有量からして、それ以上の魔術は暴走の危険だと分かるか?」
1週間以上行方不明だったはずのエドモンドは何事もなかったかのように、魔力消耗で力の入らないオリヴィエを軽々抱きかかえる。
「……こ…国王陛下…なぜここに!」
朦朧とした頭で慌てて周囲を見渡す。国王はどこから現れたのか!気づくことができなかった。
相対していた敵たちはみな倒れこんでいるではないか。国王が現れた瞬間にオリヴィエに認識できない何かがあったのか?
「ほら見ろ、焦点が定まっていないではないか。お互いに無事でいてほしいと願ったのにも関わらず、無茶をするとは。酷いやつだ」
「そんなのっ!あなたに言われ…たくありません…!」
この辛辣な言葉。オリヴィエと共に樹の根に座り、会話を楽しんだ蒼の君だ。
オリヴィエは言い返すも、見る限りエドモンドが無事であったことに笑みが零れてしまう。
「だが俺は無事だ。──オリヴィエ」
エドモンドが額に口づける感覚を最後に意識が沈んだ。
あとで聞いた話によれば、エドモンドは隣国を欺くためにわざと行方不明を演じていたらしい。「自軍の士気が下がったらどうするつもりだったのか!」と多くの魔術を放った精神的な興奮で、思わずそう問い詰めたオリヴィエであったが、国王に一笑された。
「ははっ。──君の暴走を止められるのは俺ぐらいだろ?」
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