アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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第六章 安寧

九話 ヴァンパイア領主

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 昨日の精神修行から開放され、すぐに眠りに就くとすっきりとした目覚めを迎えられた。精神的にやられると、深い睡眠に入れるのだろうか?
 朝食をライアスさんと取り、早速目的を果たすために砦を出る。

「あのガキの【アイスブリンガー】は、ゼン君がもっとるのか」
「はい、後は槍が一本ありますね」
「大貴族並みにアーティファクトを持っとるな。コレクションでもする気か?」

 コレクションか……悪くないな。

 行きの馬車の中での話は、専ら武装の話だ。俺の視線が、ライアスさんの着ている鎧に向けられると、ニヤりと笑い説明をしてくれる。

「この【聖なる茨鎧】は、硬さはもちろん、攻撃をされると相手に幾らばかりの、お返しをする仕組みがあってな、なかなか重宝しとるよ」

 ライアスさんが着ている【聖なる茨鎧】は、全体的に白い色をしている全身鎧だ。至る所にバラのような棘があり、余り素手では触りたくない印象を受ける。
 話を聞く限り、壊れはするがアーティファクト以外は、大抵の攻撃を防ぐらしい。防御力の高いこの鎧を着て、ルーンメタル製のハンマーで戦うのが、ライアスさんのスタイルだ。
 硬い上に、棍術のスキルレベル四を持っていると、普通に戦ったら、この国で勝てる相手はいないんじゃないかと思ってしまう。
 アーティファクトの効果は、主に攻撃の反射みたいだ。殴ったら自分も痛いなんて、嫌な鎧だな!

「まあ、幾ら硬くとも、遠距離からアーティファクトを投擲されたら、簡単に貫きそうだがな」

 アーティファクトの反射が怖いが、気付かれる前に【テンペスト】を投擲したら、多分それで終わりだろう。まあ、それが戦いかと言われたら、違うのかもしれないけど。

「で、あの竜には乗せてもらえるのか?」
「これが終わったらでいいですか?」

 朝に一度は今日の予定を伝えるために、今乗っている馬車をスノアたちのいる場所に回してもらうと、現れたスノアたちを見て、ライアスさんは驚くこともなく、ペチペチと二頭の竜を触っていた。
 竜天がスノアを所有しているときから、一度は乗ってみたかったらしい。好奇心旺盛な人だ。

 目的地のロアンの街が近づいてきた。遠くから見えていた通り、結構な大きさだ。更に近付くと街から数頭の黒い馬が近付いてくる。馬上には武装した兵士が乗っていた。
 馬車は停止命令を受けて止まる。御者をしてくれている兵に戸惑った所はないので、日常なのかもしれない。
 ライアスさんが小窓を開くと、初めて見た種族が顔を見せた。長い耳に、褐色の肌、資料にあったダークエルフだろう。

「聖天殿、御用はいかがなものでしょう?」

 額にシワを寄せているダークエルフの男性は、この馬車に誰が乗っているか分かっているらしい。

「シラールド殿に、王からの使者だ。まさか帰れとは言わんよな?」

 ダークエルフの男は、俺に視線を移した。俺は印象を良くするために、笑顔を見せたのだが、男はすぐに視線をライアスさんに戻した。

「この子供がですか?」
「私が嘘を吐くと言うのか?」

 ライアスさんが一瞬ダークエルフの男をにらみつけると、男は恐怖からか顔を引いた。

「わ、分かりました。ですが、少しお待ちください」

 うぉ、貫禄凄まじいわ。にらんで一発で事が進んだぞ。
 俺が少し尊敬の瞳を向けていると、ライアスさんはそれに気付いたのか、ヘラっと笑い得意げな顔をしている。貫禄どこいったんだよ、できれば厳しい顔のままでいてほしかったわ……。

 程なくすると、許可が出たのか兵士の先導を受けて馬車が動き出す。城壁の外には街に入る人たちが並んでいたが、それを飛ばして入れてくれるらしい。
 開けっ放しの小窓からは、様々な人種が見えている。ジニーを送った街も、エルフと獣人が大量にいたが、ここはそれよりももっとファンタジー、いやカオスを感じる。

 門を通され、馬車はそのまま真っすぐに街の中心を目指す。小窓から見える町並みは、人族が多く住む場所と差ほど違いはないみたいだ。分かる違いといえば、入り口が大きい所が多い。ここに住むハーフジャイアントは三メートルを超える種族なので、その対策かもしれない。
 探知を少し広げると、感じる気配は王都のものより密度は少ないが、一つ一つは大きい気がする。レベルの概念がある世界だが、人種によっても強さの差はあるので、そのせいだろう。

「ゼン君、前の窓を開いてみなさい。もう城が見えてくるはすだ」

 俺はよほど外の景色に魅了されていたのだろう、ライアスさんに少し笑いながらそう言われた。
 御者と会話をするための窓を開くと、そこからは複数の塔を持つ城が見える。王都のものよりかは小さいが、立派な城だ。

 水堀を超え、門をくぐると、そこには美しく整えられた庭が見える。見たことのない花も咲いていて、異世界情緒満載だ。ただ、少しだけ毒々しい。この辺りは人族との違いを感じられた。

 馬車を降りて見上げた城は、三階建ての白い壁をした建物だ。若干の装飾の違いは感じられるが、一応同じ国だけあって建築形式に大きな違いはないのだろう。
 ハーフジャイアントが警備する間を抜け、使用人らしき背中に羽を持つ種族に案内をされる。その羽根は、コウモリのように見える。濃い黄色の肌にとても明るい髪の色を持つこの人は、ネフィリムと呼ばれる種族だったはずだ。

 城の中にも様々な種族がいる。ダークエルフや俺のよく知るエルフに、獣人、人族と飽きることがない。だが、長いこと人族主体のエゼル王国に住んでいたので、正直違和感を覚える。

 既に連絡がされていたのか、通されたのは謁見の間と言うべき場所だった。魔王と戦ったあの場所を思い起こさせる。
 視線の先には一人の男性が座っている。一見人族に見えるが、血色の悪そうな肌の色は、前世でも良く物語などに出てきていた、ヴァンパイアを思わせる。長身でかなり筋肉質だ。顎に髭を蓄え貫録がある。この男がシラールドだろう。

「随分と素直に通してくれたものだな」

 部屋の中にズンズンと進んでいったライアスさんは、自然な様子でシラールドに話しかけた。

「何、使者を無下に扱うなど、下賤のすることだからな、当然のことよ」

 余裕を持った態度で答えたシラールドは、優雅な動きで足を組み直し、脇に置かれた飲み物を飲む。話したときに見えた口元には、一瞥して気付けるほど長い牙が見えていた。
 シラールドの視線が俺に向く。俺は一歩前に出て一礼をした後に口を開いた。

「エリアス王から召喚がなされています。こちらが親書になります」

 ほぼ独立勢力と言っても、相手は侯爵の地位を持つ相手だ。失礼があってはいけない。俺はできる限り丁寧に、懐に忍ばせていた手紙を取り出して、そばに控えている使用人に手渡した。
 シラールドはそれを受け取ると、一通り目を通し口を開いた。

「ご苦労、話は分かった。だが、王が変わったからと言って、いきなり頭を下げにこいは乱暴ではないか? なあ、ライアス殿」
「一応この国に所属している身ではなかったのか? 新たなる王が生まれたならば、挨拶をするのが当たり前だろ」

 迫力のある会話だ。俺にはまだまだ出せる気がしない雰囲気だな。

「古き盟約により、共に生きると決めただけのことだ。我々を従えたいなら何をすれば良いか分かっているだろ」
「全く、私の何倍も生きているのに頑固なじじいだ」
「見た目がじじいのお主に言われたくないがな」

 何だ、案外仲良さそうだな。まあ、ライアスさんも彼らと対峙することが、正しいこととは思ってなさそうだったしな。

「そもそも、お主らが先に砦を築き、兵を駐屯させたのだろう。我々は何もしていないのだぞ?」
「それに関しては私が頭を下げる。だが、新たな王は前王とは考えが違う方だ。双方の理解が深まれば、より良い未来が築けるだろ」
「新王とな……果たしてどの程度の者か。聞いた話では魔王を封じたとあるが、甚だ信じ難い。作り話をしてまで民を取り込もうとする愚王にしか思えんぞ」

 うーん、気持ちは分かるが余りエアを悪く言われると、気分が悪くなるな。

「失礼ですが、エリアス様が魔王を封じたのは本当でございます。その場には私も同席しておりましたので。事の真偽も古竜から知恵を頂きましたので、あれが魔王だったのは間違いないかと」
「ふむ。お主はただ者ではないと思っていたが、共に戦ったのか。しかし、古竜にツテがだと? 信じ難いぞ。余り大きなことを言うでない」

 信じないのは勝手だが、じゃあどうすれば良いんだよ……。

「なら、この子と戦ってみればいい。もちろん負けたら言うことを聞くんだろ、シラールド殿?」
「聖天殿、幾ら何でも舐めすぎだ。それならお主が戦うべきだろ。王が変わったら耄碌したか?」

 おいおい、俺は眼中にねえってか? しかも、エアも馬鹿にしてるだろこいつ。上等だ……。

「それは、王からの召喚を断るということで良いですか?」
「今、言っただろ。お主は少し黙っておれ」

 はぁ……。もういいや、どうせこんなやり取りしても意味ないなら、初めから力でねじ伏た方が楽だ。そもそも、俺は腹のさぐり合いなんてする気はねえんだ。

「おい、たかが地方の領主風情が、王からの召喚に応じないとは、どんな了見だ? いい加減そこから降りてこい」

 俺の言葉に二人は目を見開く。そして、シラールドの表情が一瞬で凶暴なものに変わる。

「笑えるぞ小僧、使者とはいえ無礼者は――ッ、グォオッ!」

 立ち上がったシラールドに、俺はマジックボックスから取り出した、ルーンメタルの槍を投擲する。辛うじて避けたようだが、手首から先を失っていた。

「貴様あああああっ!」

 俺を睨みつけ、こちらに向かって叫ぶシラールドに、更に投擲を加える。シラールドはその場から飛びのいて、ゴロゴロと床を転がった。

「『ブレス』『プロテクション』『ストーンスキン』」

 魔法の詠唱は要らないのだが、連発するなら言葉を発した方がやりやすい。俺は自分を強化魔法を掛ける。そして、手を床に付けしゃがみ込みこんでいるシラールドに向けて、『ファイヤボール』や『ライトニング』を連続して放った。
 シラールドは身に付けていたマントで体を隠して、魔法を防ぐ。
 そこまで効くとは思っていなかったが、ほとんど無傷のようで、魔法を打ち終えるとシラールドがこちらに飛び掛かってきた。

「ガアアアアアアア!」

 早い! だが、魔王に比べれば、それは脅威を感じるものではなかった。俺は冷静に飛び退いてそれを避け、お返しに槍を投擲する。

「ガッハッ!」

 槍は綺麗にシラールドの太腿に突き刺さり、そのまま床に縫い付ける。

「これ以上続けるか?」

 俺の言葉にシラールドは、長い犬歯をむき出しにして、睨みつけてきた。

「小僧ッ! このままで済ますはずなかろう!」

 シラールドは強引に槍を引き抜くと、その場に投げ捨てゆっくりと立ち上がる。あれほどの怪我を負ったというのに、それほど出血も見られないし、動きも多少阻害されている程度みたいだ。
 これぐらいなら死なないと思ってやったが、思った以上にヴァンパイアは頑丈な種族みたいだな。

「シラールド様! 賊ですかっ!?」

 バンッと大きな音を立てて扉が開かれた。先ほどの物音を聞き付けて、外にいた兵が駆けつけてきたのだ。
 部屋の中にも兵はいたが、一瞬のことだったので反応できずにいて、今更のように俺に向かって持っている武器を構えだす。

「手を出すな! ワシがこの小僧を血祭りに上げてやる!」

 フシューと音をさせ、口から息を吐くシラールドは、俺に迫ろうとした兵を制す。兵士が来た所で、対処は楽そうだったんだけどな。

「小僧、汚いまねをするじゃないか」

 そう言うシラールドの眼光は鋭く、よく見ると残っている手の先には、伸びた爪が見えていた。

「汚い? 案外甘いんだな、この勢力は。それともお前が甘いだけか?」

 取り出していたルーンメタルの槍で、肩を叩きながら挑発する。少しやり過ぎかもしれないが、よーいドンで戦うなど、アホのすることだとは、前の戦いの時点から分かってるしな。

「フッ、言うわ。だが、生きて帰れるとは思うなよ」
「それは困る。俺はこの後、この街の美味いものでも食べようと思ってるからな」
「よくさえずるわッ!」

 獣じみた怒りの表情をしたシラールドは、足元が爆発したかと思ったほどの勢いをつけて俺に突っ込んでくる。一瞬で距離を詰めたシラールドの手には、いつの間にか光を放つ黄金色の美しい剣が見えた。

「フンンヌウウウウウッ!」

 剣と言うには小ぶりだが、短剣と言うには長いその剣を、両手に持ったシラールドは、俺へと剣を振り下ろす。二振りの軌道は、俺の両肩を狙っていた。
 俺は右肩を引き、左手には【魔道士の盾】を展開して、片方だけを受ける。盾の障壁に激突した剣は弾かれるが、もう片方の剣はそのまま振り下ろされた。勢い余ったのかその剣は、シラールドの手から離れて床へと勢い良く落ちる。
 シラールドの見た目からは余り想像できない、少し間抜けな行動に怪しいと思いながらも、反撃をしようと【テンペスト】をマジックボックスから取り出していると、床に落ちていたはずの剣が俺へと向かって飛んできていた。

「うぉっ! 痛ッ!」

 飛んできた剣は炎竜の鱗を貫き、二の腕に刺さった。そして、電気が入ったかのような感覚が腕を支配して、力が入らなくなる。反射的に剣を抜こうとつかもうとしたが、剣は勝手に抜けるとシラールドの腕に戻っていった。

「ハハッ! 竜の鱗だろうが、この【天帝】なら意味はないぞ? それにほれ、その腕はもう動かんだろ」

 シラールドが【天帝】と呼んだ剣を、ジャグリングのように放ると、そのまま空中で回転したまま留まる。
 見た目から、ただの剣だとは思っていなかったが、まさか飛んでくるとは思わなかった。アーティファクトなんだろうが、まだまだ俺の想像を超えるものが沢山あると痛感した。
 攻撃を受けたが、痛みに関しては問題ない。高レベルの俺ならば、この程度なら痛い程度で済む。しかし、この痺れは厄介だ。全く力が入らない。ステータスを確認すると、状態は麻痺となっていた。

「地方の領主風情は間違いだったな。俺もそろそろ本気を出すか」
「フッ、人族には、ちとその怪我はキツイのではないか? 対してワシは既に傷は癒えているぞ?」

 シラールドが両手に剣を持っていたときに気付いていたが、既に最初に破壊した手は元に戻っている。回復魔法を使った形跡はなかったので、自然回復かそれに近いことをしたのだろう。
 これは少し、種族の性能差を感じてしまうな。

「俺も回復させてもらうよ。『キュア』『グレーターヒール』」

 自分に回復魔法を使うと、痺れと痛みが引いていく。
 状態変化なので、多分【キュア】が効くだろうと予想したが、結構簡単に治ってしまった。そう言えば俺は回復を強化する神の加護を持っている。もしかしたらそのお蔭かもしれない。

 さて、本気を出すと言った手前、もう倒すことだけを考えよう。
 俺は【英霊の杖】を取り出して、スケルトンたちを召喚する。

「行け」

 俺の命令を受けたスケルトンたちは、シラールドへと突撃を開始した。合計四十体のスケルトンは、手に持った剣を振りかざしながら駆けていく。

「無駄なことを!」

 シラールドはフンッと鼻息を吹かすと、自分に迫るスケルトンたちに向かい【天帝】を飛ばす。だが、骨で構成されたスケルトンは、
体の一部を破壊されてもその行動は止まらない。
 シラールドが、見た目からも強靭そうな肉体も使い、拳も交えてスケルトンを相手している間に、俺は更に【草原の鐘】を使い、スノアを召喚する。
 美しい鈴の音を響かせると、空間が歪み、そこからスノアがゆっくりと現れてくる。

 スノアが完全に動けるまでは時間が掛かる。俺はその間に、シラールドに向かって槍を投擲し続ける。

「グウッ! 厄介なことを!」

 俺の槍は、スケルトンを破壊しながらシラールドへと迫る。最初の数本は防がれたが、四投目が肩に当たった。

「この程度の怪我など、すぐに治るわ!」

 シラールドは、突き刺さった槍を自ら引き抜いて、それを使い周りに群がるスケルトンをなぎ払う。俺はその隙を突いて、マジックボックスから取り出した【アイスブリンガー】をシラールドへ向かって投擲した。
 【アイスブリンガー】は、回転することなく刃を向けて真っすぐにシラールドへ向かっていく。そして、射線上にいたスケルトンの頭を砕きながら、シラールドの太ももに突き刺さると、氷結効果を発動させ足を凍結させる。

「スノア、放て」

 完全に召喚が済んだスノアに命令を下す。
 俺の意思を読み取っていたスノアは、用意していたブレスを吹き出した。
 冷気のブレスがシラールドを覆う。ブレスは数秒続き、終わった頃には、部屋の中には冷気でできた濃いモヤがかかっていた。
 最後の止めとして、【テンペスト】を取り出し、シラールドの元へと近付いていく。段々と散っていくモヤの中から見えてきたのは、体中を白い氷で覆われ、床に貼り付けられたシラールドの姿だった。周りにいたはずの、残っていたスケルトンたちは、全てスノアのブレスで吹き飛んだみたいだ。
 俺はシラールドの首元へ【テンペスト】を突き付ける。

「ヴァンパイアも、首を飛ばされれば死ぬだろ? 王に頭を下げるだけで、命が助かるのだがどうする?」

 これでも言うことを聞かないなら、首を落として領主のすげ替えをすれば良いだけだ。俺にはそれをするのに、最早躊躇など全くない。

「お主が魔槍か……。魔王を一人で抑えたという方が、真実だったか……」

 ヴァンパイアなので冷気には強そうな印象だったが、氷漬けにされれば動けないらしい。シラールドは抵抗する気がなくなったのか、いまだ握っていた【天帝】をマジックボックスへと収納した。

「良いだろう、新たな王へ挨拶に行こう。だがっ! ワシが従うのはお主にだ! フハハッ、良いぞ! この歳で主を得るとは思わなんだぞ!」

 何を言い出してんだ、このおっさんは……?

「どうした主よ。いきなり間の抜けた顔をしおって。何、ワシがこの地を出ても、息子らがどうにかする。今までどおりエゼル王国の一員としてやっていくぞ」
「待て、何故あんたがこの地を出る?」
「それは当然、主の配下として、同行するからだろ」

 ちょっと待て、どうしてこうなった……?

「いやー、ゼン君。本気だすと君、凄まじいな。まともにやりあったら近づける気がせんぞ。しかし、ここまで圧倒すると、シラールド殿も素直に主として認めるのだな」

 今まで黙ってみていたライアスさんが、笑顔でこちらに近付いてくる。当然のようにシラールドが、俺を主として認めると言ってるけど、もしかして知ってたのか?

「俺が勝ったらこうなるって、知ってたんですか?」
「いや、ここまで簡単にいくとは思ってはいなかった。この地の人間は勝者に従う傾向が強いとはいえ、シラールド殿がそうなるとはなあ」

 そういえば、エアはぶっ飛ばしてこいと言ってたな。まさかアイツ、これを知ってたのか!?

「改めてよろしく頼むぞ主」

 氷漬けから開放されたシラールドが、腕を組みながら笑顔で俺を見下ろす。戦いで破れた服の隙間からは、分厚い胸筋がピクピクと動いているのが見えた。
 俺を主とするなら、その態度はどうなのかと思ったが、そんなことより、この状況にあっ気に取られていると、ノソノソと俺の隣へ歩いてきたスノアが、「ご主人様、新たな配下の獲得。おめでとうございます」と頭を下げた。お前も認めちゃうのかよ!
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