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第九章 戦役
二十一話 戦奴ヴィンス
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シヴァルという街周辺にシーレッドは陣を敷いていた。
俺の目的は将軍であるメルレインに手紙を届ける事だ。彼ほどの地位にいれば、人族でなくとも街の中にある城砦で体を休めているだろうと踏んだ。
俺はポッポちゃんに夜の空を飛んでもらい、そこから自由落下で城砦の屋上へ着地する。
「じゃあ、外で待っててね」
俺が短くそう言うと、ポッポちゃんは「いってらっしゃいなのよ!」と夜なのに元気な様子を見せている。ポッポちゃんは鳩なのに結構夜に強いよな。まあ、加護を二つも持ってるから、普通じゃないだけか……
俺は夜なのにぱっちりおめめのポッポちゃんを見て、そんな事を思いながら城砦の屋上を歩く。
この街の城砦には傾斜の鋭い三角の屋根を持つ塔が幾つか立っている。高さ的には俺がいる平らな屋根より高い。俺が今いる屋根の上には、少し離れたところに点々と兵士の姿がある。隠密の力があるから発見されないが、本来ならば見つかってもおかしくはない。
今までの経験から発見されるつもりはないのだが、隠密を暴くアーティファクトの存在を知った今は、少し用心をしながら移動をする。
さて、今回メルレインを見つける手段としては、彼に従うイレケイ族兵士の存在をあてにする。
ラーレから聞いた限りでは、イレケイ族の中でも特に精鋭がメルレインを守護しているだろうとの事だ。身体的に彼らが人族を大きく上回っている訳ではないが、選ばれた兵士が周りを固めているならば、探知スキルを使えばそれなりに目立つはずだろう。
城砦の上で探知スキルの範囲を大きくすると、自分を中心とした円状で周りの様子が分かってくる。多くの気配がある中で、力を持つ存在が複数ある事が分かった。地位が高ければ力が強い傾向は軍にはある。城砦に入れるぐらいだから、将軍の下で働けるような兵が詰めているのだろう。
その中でも、五人の強者が固まっている場所があった。内部構造は分からないのでどう守備しているかは不明だが、その近くにはもう一人イレケイ族の気配がある。これがメルレインだろう。
実力的には今日相手にした将軍達に大分劣る。だが、メルレインは個の武で地位を得た人物ではない。彼は用兵とその側近の力、そして味方を強化するアーティファクトの力を持って将軍の地位に就いたのだ。
場所はこの城砦でも一番太い塔の中心辺りだ。
上の方にいてくれれば、この場所からでも容易に忍び込めそうなんだけど、そこはちゃんと考えて中頃にいるのだろう。ここからでは一度塔の外側に張り付いて、少し降りないと無理そうだ。
仕方がないので、ロッククライミングと洒落込もう。
一度城砦内部に入った方が確実だろうが、扉の前には絶対にイレケイ族の兵士がいるだろうから、最初は外からチャレンジする。
大きなレンガのような岩を組み合わせて作られた塔の壁には、思った以上に掴める場所があった。指の二本でも引っかかりがあれば体を支えられるので、これなら余裕だ。
軽快に壁を降りていくと、メルレインがいるだろう部屋の窓があり、中から会話が聞こえてきた。
「――ンス殿が言っていた情報が本当ならば、早く姫と王子のもとへ向かい、お助けするのが我々の役目では!? もし事実ならば、これ以上シーレッドの為に戦う必要はないはずです!」
窓から少し中を覗いてみると、二人のイレケイ族が部屋の中で対面している。片方はラフな格好をしているが、もう片方は黒い鎧に身を包んでいる。体格的に鎧の男は兵士だろう。ということは、やや細身の男がメルレインか。
……なるほど、ラーレが思い抱くのも分かる。ありゃ、いい男だわ。
「お前が言いたい事は分かるが、その程度の情報で動けると思っているのですか? その話は我々で事実が掴めるまで止めなさい。それより、エゼルは数日で攻めてくるでしょう。その対処を考えない事には、我々に明日はないのです」
断片的な話からだが、どうやら東の動乱が情報として伝わっているようだ。だが、まだ確信が持てるほどの情報は入っていないのだろう。もしかしたら、意図的に情報を与えられていない可能性もあるな。
まあ、知らないならば、俺が真実を伝えてやればいいだけだ。
二人の話は終わったのか、鎧の男は部屋から出ていき、部屋にはメルレインだけになった。
俺は少しの間様子を見て、メルレインが椅子に座った事を確認し、ゆっくりとわずかに開いていた窓を開く。
すると、メルレインがこちらに視線を送ってきた。不自然に開いた窓を明らかに警戒している。
「ヴィンスですか?」
メルレインはどうやら別の誰かと俺を勘違いしているようだ。そう言えば、あの暗殺者は暗部のという情報機関の長でもあったはずだな。もしかしたら、アイツと勘違いしているのかもしれない。
今、隠密がなければ部屋に侵入してる俺が見えるはずだ。だが、高レベルの隠密は、ほとんど目の前にいる俺を隠蔽している。俺は足音を立てないようにゆっくりと部屋に侵入し、こちらを見つめるメルレインの意識を背けるために、彼の背後に向かって投擲用の鉄球を一つだけ投げた。
すると、メルレインは音がした方へと視線を向けた。その瞬間、俺は彼が座っていた机の上に手紙を置き、早々に侵入してきた窓から部屋の外に出た。
メルレインは鉄球の姿を見つける事が出来なかったのか、眉間に皺を寄せながら視線を俺がいる窓の方へと戻すと、おもむろに机の上に置かれている手紙へと視線を移動させた。
メルレインは手紙を手にすると、部屋の中をキョロキョロと見回す。だが、何も見つけられない。ややあって、手紙の封を切ると、中に入っている一枚の手紙と、一つの指輪を手にした。その時、メルレインの表情が変わった。どう見ても、それが何を意味するのか悟ったのだろう。
俺はそれを見届け屋上に戻り、ポッポちゃんを呼び寄せたのだった。
しかし、良く考えると、あれってかなり恐怖だよな。窓が開いたと思ったら、いきなり知らない手紙が目に入るんだから。俺なら絶対に幽霊的な物かと勘違いして、アニアを呼んじゃうだろう。
さて、帰ってアニアと少し話をするかな。今日侯爵様たちが言っていた、娘をやるとかいうヤバい話は、先に俺からアニアに言っておきたい。もちろん誤解を与える気がないからだけど、嫉妬をしてくれる表情も見たいんだ。口では別にと言いながら、気になってるあの姿はたまらない。
よし、今日はそれで締めるとするか。
◆
「いやー、それにしてもいいタイミングで来てくれた。戦場でスカウトは出来ないから、見つけ次第即やるつもりだったからね」
「はぁ……俺は運が良かったんですかね?」
俺が声を掛けるとヴィンスは、大きな溜息を吐きながら答えている。しぶしぶといった様子だ。
ヴィンスはエゼルの陣に戻る俺の一歩後ろを歩いている。そして、そのヴィンスの後ろには、三十人近い彼の部下が凹んだ様子で付き従っていた。
彼は先ほど少し離れた森の中で捕まえてきた。
アニアを訪ねて天幕に行くと、何やら変な気配を感じた。その地点に意識を集中してみると、いきなり何かが動いた気配を感じたのだ。急いでその気配を追いかけて、止まったところで話しかけてみたら、返事が返ってきたから交渉をしてみたんだ。
その結果、彼は俺の奴隷になった。正確に言うと、戦場の神の名のもとに戦奴として俺の物となったんだ。そのついでに、ヴィンスの部下たちも全員捕まえといた。首輪を着けたヴィンスに『命令』をして、全員を集めさせたところでお話し合いをさせてもらった。
まあ、息巻く奴はどうしても出るもんで、一人は舐めた口を聞いたから即ナイフを投げて始末したら、全員すぐに首を縦に振ってくれたんだ。俺も無駄な命を奪わずに済んで良かったと胸をなでおろしたね。
ぞろぞろ彼らを引き連れてエゼルの陣に近付くと、警備の兵士さんたちが集まってきてしまった。
だが、照会の為に呼ばれた騎士の一人がやってくると、すぐに俺の事を分かってくれて中に入れてくれた。
メルレインへ手紙を渡せた事を報告しようと、エアのもとへ向かう事を騎士へ告げると、案内を買って出てくれた。そのみちすがら、彼が話しかけてきた。
「あの、魔槍殿。あなたは分かったのですが、その後ろの者たちは一体? 奴隷ですよね?」
騎士はぞろぞろと連れて歩いている男たちを相当気にしていた。
「えぇ、先ほど捕まえてきましてね。まだ、王にも諸侯にも報告していないので、詳しくは言えませんが、近いうちに分かると思いますよ」
「はぁ……そうだったのですか。また手柄を上げられたのですね。この様子では、この戦いが終わった後は領地を頂けるとの噂は本当のようですね」
騎士は感心したかのように俺を見るとそう言った。何だよその話は、俺知らないんだけど?
「それって、噂になっているのですか?」
「もちろんですよ。少なくとも男爵並みの領地は確実と、我々は思っています」
なるほど……その噂の発信源はお前らって事か……
まあ、彼を攻めたところで意味はないのだろうから、話は聞き流してエアのもとへと向かった。
俺が向かっている事は、既に伝わっていたのか、エアの天幕にはすんなりと通された。今日の警備にはウィレムがいる事も大きいようだ。
彼に目配せをして天幕の中に入る。同行させるのはヴィンスだけだ。
「ゼン、何か捕まえてきたと報告が上がっていたのだが、誰だそれは?」
エアは俺の後ろで控えるヴィンスに視線を送ると、眉をひそめて問いてきた。
俺はそれに答える手っ取り早い方法を採るべく、ヴィンスに声をかける。
「ヴィンス、ローブを纏ってくれ」
俺の言葉にヴィンスは無言で従うと、羽織っていた【影歩の外套】を頭からすっぽりと覆った。その瞬間、ヴィンスの気配が恐ろしく薄くなり、俺の視界から姿が消えた。
「お、おいっ! そいつってあの将軍じゃねえか!」
エアは余程驚いたのか、体を仰け反らせると俺に向かって指をさして叫んだ。
警備の為に天幕内にいる騎士も同様の反応を見せている。
「だから、捕まえてきたんだって。彼は俺の戦奴として今後働く事になったから宜しくな。はい、ヴィンス君、王様に自己紹介を頼む」
俺の言葉にヴィンスは姿を現すとエアに向かって頭下げた。
「今日からゼン殿を主人として生きる事になったヴィンスと申します。……何故俺はこんな事になったのか、いまだに理解できていませんが、宜しくお願いします。あっ、ゼン殿、聞いてませんでしたけど、昨日の事は水に流して頂けるんですよね? 俺、色々やってるんですけど」
ヴィンスは途中で自分の扱いがどうなるのか気になったのか、俺の隣に来ると顔を覗き込んでそう言った。
「……大丈夫だ。俺がきっと守る」
「絶対に考えてませんでしたね……? あーぁ……俺死んだわこれ」
そういえば、ヴィンスは確かブラド様を刺してるんだっけ……? すっかり忘れてたわ。
俺がちょっとヤバいかなという表情を見せたからか、ヴィンスは絶対に制裁されると思っているようだ。その気持ちは分かるので、俺はエアに目配せをしてみた。
「あ、あぁ……。ヴィンス、貴公がした事は、敵だったから故の事だろう。今後はゼンの戦奴として生きるのだから、それに関しては考慮をしよう。……だが、一発ぐらいは覚悟をしてくれよ?」
エアはそう言うと、視線をヴィンスから俺へと移した。そこには、お前もどうにかしろという念を感じる。どうやら、ブラド様には一度ぐらいはぶん殴られる必要がありそうだ。
「まあ、そういう事だ。王からの許しが出たのだから、痛いぐらいで済むだろう」
「……本当に死なない程度でお願いしますよ?」
流石将軍だけあって、その辺の覚悟は簡単にするらしい。
少し間抜けな紹介を得て、椅子を勧められたので腰を下ろす。
奴隷の扱いであるヴィンスも、これから情報を話してもらうので座らせた。
「それで……えっと、まずはメルレインの事を聞こう」
「何でそんなに動揺してんだよ」
「いや、するだろ! 出て行って数時間後に敵の将軍を連れて帰ってきたんだぞ!」
「落ち着けエア、お前は王様だろ」
「……お前のその態度が忘れさせるんだよ」
エアが俺を恨めしそうに見る。実は普通にしゃべれて嬉しいくせにな。ただ、こんな会話をしていると話が進まないので、俺は咳ばらいをしてしゃべり始めた。
「メルレインには手紙を渡してきた。読んだところまで確認している。その直前に部下と話をしていたのを聞いたんだが、その内容から寝返る可能性は高そうだ。後は、戦場でその証拠を見せるだけだな」
「その件は分かった。後で諸侯にも伝えておく。それで……そのヴィンスの事だが……」
エアの質問に俺はヴィンスを捕まえた経緯を話す事にした。
「そうか……アニアに手を出さなくて本当に良かったな。もし何かしていたら、俺でも止められない男が、シーレッドの民を一人残らず滅ぼしていたと思うぞ」
「おい……それは流石に言い過ぎだろ……」
「そうか? お前は思量深いところがあるくせに、直情的な行動も取るからな。俺は外れた事は言っていないと思うぞ」
エアはそう言いながらワインを飲み干すと、俺を見て笑った。
「まあ……否定も肯定もしないわ。それより、聞きたい事があればヴィンスから聞いてくれ。俺にはどんな情報が必要なのか分からないからな」
「そうだな……これは明日にした方がいいだろう。諸侯を交えていないと不備が出ると思う。ヴィンス、すまないが明日また頼むぞ。針のむしろになるやもしれないが、手を出す事はさせない。まあ、ゼンの奴隷に手を出すほどの馬鹿は、エゼルにはいないだろうけどな」
という事で、話は明日にする事にした。夜も大分更けてきたので、今日のところは引き上げようと天幕から出ようとすると、こちらに向かってきている人物が見えた。
「あっ、やべえな。ヴィンス、姿を隠せ」
やってきたのはブラド様だ。どこからか、話を聞きつけたのだろう。
「ゼン殿、話は伺いました。今姿を消した男と少し話をさせて頂いても?」
丁寧に話しかけてきたブラド様だが、その目は笑っていない。俺に対して当たるつもりはないのだろうが、ヴィンスに対しては抑えきれない思いがあるのだろう。
「話をする事は良いのですが、手を出さないと約束をしてください。それが出来ないのであれば、当分会わせる事は出来ません」
目の前に本人がいるのに変な言い方だが、ブラド様は俺の言葉を理解してくれたようだ。一つ息を大きく吐くと口を開いた。
「大丈夫です、私も子供ではないので分かっています。ほんの少しだけ、あの時の事を思い出していら立っているだけですから」
「分かりました、その言葉を信じましょう……」
まだちょっと目が怖いが、大丈夫そうだ。つか、子供じゃないって、この人俺の祖父でもおかしくない年なんだよな……
ヴィンスに姿を出すように指示をすると、ブラド様は俺を通り過ぎてヴィンスに詰め寄った。
「それが貴方の顔か……。ゼン殿の奴隷になっていなければ、今すぐにでも八つ裂きにしたいが……」
ブラド様はそう言うと、激しく歯ぎしりをした。ヴァンパイアだからか、その音が物凄くでかい。歯が折れるんじゃないかと心配するほどだ。
それを目の前でやられたヴィンスは、困った顔をしている。だが、目を逸らすことなくブラド様を見ていた。
ややあって、ヴィンスが口を開いた。
「吸血鬼の旦那、許しを請う事はしませんが、このままじゃアンタの気が済まない事は分かってます。ここは一つこれで許しちゃくれませんか?」
ヴィンスはそう言うと、懐から短剣を取り出した。そして、俺の方へ視線を送る。
「ゼンの旦那、自分を傷つける許可をもらえます?」
「……何をするんだ?」
「吸血鬼の旦那に、このナイフで手を突き刺してもらうんですよ。それで一つ手打ちにしてもらいたい。いかがですか?」
ヴィンスはそう言うと、ブラド様をまっすぐに見つめた。その瞳は許しを請うよりかは、これで諦めろと諭しているようだ。
対するブラド様は、表情を一切変えずにヴィンスを見つめている。だが、ナイフを差し出されるとそれを手にして言った。
「ゼン殿、許していただけるならば、これで全て水に流します。良いですか?」
正直やる必要はないと言えばない。だが、ブラド様にはエゼルの大貴族である面子やプライドという物があるだろう。エゼルとしても俺が捕まえたからと言って、今までの事を簡単に水に流せと言うのは難しかった。だが、これでブラド様が認めれば、他の諸侯も何も言えなくなるだろう。
「ヴィンス、本当にいいんだな?」
「えぇ、この程度で許してもらえるならば、安い物でしょう」
ヴィンスの目には怯えはない。ただ、仕方がないという表情だ。
「ブラド様、分かりました。しかし、すぐに治療はしますからね?」
「それは、もちろんです。では、これで水に流しましょう」
ブラド様は俺に返事をした束の間、渡されていたナイフでヴィンスの手のひらを突き刺した。
ナイフが根元まで達すると、にこりと笑ってヴィンスを見た。
「二度刺されましたが、これで許しましょう。今後は、ゼン殿の為に働くのですよ?」
「へ、へぇ……」
ブラド様は満足したのか、ナイフを一気に引き抜いた。そして、そのナイフを高く上げると、滴り落ちる血を突き出した舌の上に落として味わった。おいおい、マジでヴァンパイアおっかねえよ!
その猟奇的とも思える光景に若干引いていると、ナイフはヴィンスに戻される。ブラド様は俺に軽く会釈をすると、機嫌よさげに帰っていった。
「何もさせないと言っておいて悪かったな。今すぐ治す。グレーターヒール」
「おぉ!? 何て魔法を使うんですかい!? って、もう治ってやがる……」
ヴィンスは俺の魔法を見て驚きの声を上げた。結構普通に使ってるけど、分かる奴からしたら『グレーターヒール』って魔法技能レベル5が必要な超魔法だからね。
さて、ある程度の制裁がある事は予想していたが、俺は一応手を出させないと言ってしまった。それを反故したのだから、これには詫びが必要だろう。
「ヴィンス、そのナイフ貸して」
俺がそう言うと、ヴィンスは不思議そうな顔をして、ナイフを渡してくれた。
「普通の鉄のナイフですよ。アーティファクトは流石にマズいんで出しませんでしたって、旦那!? アンタ何やって!?」
「ぐおおおおっ! 痛てええええっ!」
俺はお詫びを込めて同じ痛みを負うべく、ナイフを手のひらに刺したのだが、猛烈に痛い! 痛すぎて思わず叫んでしまった。
「おいおい、マジかよ!? 何でこんな痛いのに耐えられたんだよ! グレーターヒール! グレーターヒール!」
急いでナイフを抜いて『グレーターヒール』を連発する。魔法のお蔭ですぐに痛みは引いたのだが、一気に湧き出た汗が額から垂れてきた。
「ふぅ……我ながら馬鹿な事をした……。ヴィンス、これでさっきの件を許してくれ」
「はは……変な人が主人になったもんだ。でも、嫌いじゃないですよ。改めて、部下ともども宜しくお願いします」
ヴィンスは少し呆れた顔をしている。まあ、俺も同じ状況になったらそんな顔をするだろうな。
だが、俺の誠意は伝わったようだ。隠せていなかった疑いの表情が大分消えた気がする。さすが俺だ、人の心を操る術を分かっている。
……嘘だよ! 勢いでやったけど、痛すぎて超後悔したよ!
こうしてヴィンスは改めて俺の部下として公認される事になった。彼の今後はまだ思案中だ。今のところはシェードと絡ませて行動させるようと思ってるけど、どうしようかな?
俺の目的は将軍であるメルレインに手紙を届ける事だ。彼ほどの地位にいれば、人族でなくとも街の中にある城砦で体を休めているだろうと踏んだ。
俺はポッポちゃんに夜の空を飛んでもらい、そこから自由落下で城砦の屋上へ着地する。
「じゃあ、外で待っててね」
俺が短くそう言うと、ポッポちゃんは「いってらっしゃいなのよ!」と夜なのに元気な様子を見せている。ポッポちゃんは鳩なのに結構夜に強いよな。まあ、加護を二つも持ってるから、普通じゃないだけか……
俺は夜なのにぱっちりおめめのポッポちゃんを見て、そんな事を思いながら城砦の屋上を歩く。
この街の城砦には傾斜の鋭い三角の屋根を持つ塔が幾つか立っている。高さ的には俺がいる平らな屋根より高い。俺が今いる屋根の上には、少し離れたところに点々と兵士の姿がある。隠密の力があるから発見されないが、本来ならば見つかってもおかしくはない。
今までの経験から発見されるつもりはないのだが、隠密を暴くアーティファクトの存在を知った今は、少し用心をしながら移動をする。
さて、今回メルレインを見つける手段としては、彼に従うイレケイ族兵士の存在をあてにする。
ラーレから聞いた限りでは、イレケイ族の中でも特に精鋭がメルレインを守護しているだろうとの事だ。身体的に彼らが人族を大きく上回っている訳ではないが、選ばれた兵士が周りを固めているならば、探知スキルを使えばそれなりに目立つはずだろう。
城砦の上で探知スキルの範囲を大きくすると、自分を中心とした円状で周りの様子が分かってくる。多くの気配がある中で、力を持つ存在が複数ある事が分かった。地位が高ければ力が強い傾向は軍にはある。城砦に入れるぐらいだから、将軍の下で働けるような兵が詰めているのだろう。
その中でも、五人の強者が固まっている場所があった。内部構造は分からないのでどう守備しているかは不明だが、その近くにはもう一人イレケイ族の気配がある。これがメルレインだろう。
実力的には今日相手にした将軍達に大分劣る。だが、メルレインは個の武で地位を得た人物ではない。彼は用兵とその側近の力、そして味方を強化するアーティファクトの力を持って将軍の地位に就いたのだ。
場所はこの城砦でも一番太い塔の中心辺りだ。
上の方にいてくれれば、この場所からでも容易に忍び込めそうなんだけど、そこはちゃんと考えて中頃にいるのだろう。ここからでは一度塔の外側に張り付いて、少し降りないと無理そうだ。
仕方がないので、ロッククライミングと洒落込もう。
一度城砦内部に入った方が確実だろうが、扉の前には絶対にイレケイ族の兵士がいるだろうから、最初は外からチャレンジする。
大きなレンガのような岩を組み合わせて作られた塔の壁には、思った以上に掴める場所があった。指の二本でも引っかかりがあれば体を支えられるので、これなら余裕だ。
軽快に壁を降りていくと、メルレインがいるだろう部屋の窓があり、中から会話が聞こえてきた。
「――ンス殿が言っていた情報が本当ならば、早く姫と王子のもとへ向かい、お助けするのが我々の役目では!? もし事実ならば、これ以上シーレッドの為に戦う必要はないはずです!」
窓から少し中を覗いてみると、二人のイレケイ族が部屋の中で対面している。片方はラフな格好をしているが、もう片方は黒い鎧に身を包んでいる。体格的に鎧の男は兵士だろう。ということは、やや細身の男がメルレインか。
……なるほど、ラーレが思い抱くのも分かる。ありゃ、いい男だわ。
「お前が言いたい事は分かるが、その程度の情報で動けると思っているのですか? その話は我々で事実が掴めるまで止めなさい。それより、エゼルは数日で攻めてくるでしょう。その対処を考えない事には、我々に明日はないのです」
断片的な話からだが、どうやら東の動乱が情報として伝わっているようだ。だが、まだ確信が持てるほどの情報は入っていないのだろう。もしかしたら、意図的に情報を与えられていない可能性もあるな。
まあ、知らないならば、俺が真実を伝えてやればいいだけだ。
二人の話は終わったのか、鎧の男は部屋から出ていき、部屋にはメルレインだけになった。
俺は少しの間様子を見て、メルレインが椅子に座った事を確認し、ゆっくりとわずかに開いていた窓を開く。
すると、メルレインがこちらに視線を送ってきた。不自然に開いた窓を明らかに警戒している。
「ヴィンスですか?」
メルレインはどうやら別の誰かと俺を勘違いしているようだ。そう言えば、あの暗殺者は暗部のという情報機関の長でもあったはずだな。もしかしたら、アイツと勘違いしているのかもしれない。
今、隠密がなければ部屋に侵入してる俺が見えるはずだ。だが、高レベルの隠密は、ほとんど目の前にいる俺を隠蔽している。俺は足音を立てないようにゆっくりと部屋に侵入し、こちらを見つめるメルレインの意識を背けるために、彼の背後に向かって投擲用の鉄球を一つだけ投げた。
すると、メルレインは音がした方へと視線を向けた。その瞬間、俺は彼が座っていた机の上に手紙を置き、早々に侵入してきた窓から部屋の外に出た。
メルレインは鉄球の姿を見つける事が出来なかったのか、眉間に皺を寄せながら視線を俺がいる窓の方へと戻すと、おもむろに机の上に置かれている手紙へと視線を移動させた。
メルレインは手紙を手にすると、部屋の中をキョロキョロと見回す。だが、何も見つけられない。ややあって、手紙の封を切ると、中に入っている一枚の手紙と、一つの指輪を手にした。その時、メルレインの表情が変わった。どう見ても、それが何を意味するのか悟ったのだろう。
俺はそれを見届け屋上に戻り、ポッポちゃんを呼び寄せたのだった。
しかし、良く考えると、あれってかなり恐怖だよな。窓が開いたと思ったら、いきなり知らない手紙が目に入るんだから。俺なら絶対に幽霊的な物かと勘違いして、アニアを呼んじゃうだろう。
さて、帰ってアニアと少し話をするかな。今日侯爵様たちが言っていた、娘をやるとかいうヤバい話は、先に俺からアニアに言っておきたい。もちろん誤解を与える気がないからだけど、嫉妬をしてくれる表情も見たいんだ。口では別にと言いながら、気になってるあの姿はたまらない。
よし、今日はそれで締めるとするか。
◆
「いやー、それにしてもいいタイミングで来てくれた。戦場でスカウトは出来ないから、見つけ次第即やるつもりだったからね」
「はぁ……俺は運が良かったんですかね?」
俺が声を掛けるとヴィンスは、大きな溜息を吐きながら答えている。しぶしぶといった様子だ。
ヴィンスはエゼルの陣に戻る俺の一歩後ろを歩いている。そして、そのヴィンスの後ろには、三十人近い彼の部下が凹んだ様子で付き従っていた。
彼は先ほど少し離れた森の中で捕まえてきた。
アニアを訪ねて天幕に行くと、何やら変な気配を感じた。その地点に意識を集中してみると、いきなり何かが動いた気配を感じたのだ。急いでその気配を追いかけて、止まったところで話しかけてみたら、返事が返ってきたから交渉をしてみたんだ。
その結果、彼は俺の奴隷になった。正確に言うと、戦場の神の名のもとに戦奴として俺の物となったんだ。そのついでに、ヴィンスの部下たちも全員捕まえといた。首輪を着けたヴィンスに『命令』をして、全員を集めさせたところでお話し合いをさせてもらった。
まあ、息巻く奴はどうしても出るもんで、一人は舐めた口を聞いたから即ナイフを投げて始末したら、全員すぐに首を縦に振ってくれたんだ。俺も無駄な命を奪わずに済んで良かったと胸をなでおろしたね。
ぞろぞろ彼らを引き連れてエゼルの陣に近付くと、警備の兵士さんたちが集まってきてしまった。
だが、照会の為に呼ばれた騎士の一人がやってくると、すぐに俺の事を分かってくれて中に入れてくれた。
メルレインへ手紙を渡せた事を報告しようと、エアのもとへ向かう事を騎士へ告げると、案内を買って出てくれた。そのみちすがら、彼が話しかけてきた。
「あの、魔槍殿。あなたは分かったのですが、その後ろの者たちは一体? 奴隷ですよね?」
騎士はぞろぞろと連れて歩いている男たちを相当気にしていた。
「えぇ、先ほど捕まえてきましてね。まだ、王にも諸侯にも報告していないので、詳しくは言えませんが、近いうちに分かると思いますよ」
「はぁ……そうだったのですか。また手柄を上げられたのですね。この様子では、この戦いが終わった後は領地を頂けるとの噂は本当のようですね」
騎士は感心したかのように俺を見るとそう言った。何だよその話は、俺知らないんだけど?
「それって、噂になっているのですか?」
「もちろんですよ。少なくとも男爵並みの領地は確実と、我々は思っています」
なるほど……その噂の発信源はお前らって事か……
まあ、彼を攻めたところで意味はないのだろうから、話は聞き流してエアのもとへと向かった。
俺が向かっている事は、既に伝わっていたのか、エアの天幕にはすんなりと通された。今日の警備にはウィレムがいる事も大きいようだ。
彼に目配せをして天幕の中に入る。同行させるのはヴィンスだけだ。
「ゼン、何か捕まえてきたと報告が上がっていたのだが、誰だそれは?」
エアは俺の後ろで控えるヴィンスに視線を送ると、眉をひそめて問いてきた。
俺はそれに答える手っ取り早い方法を採るべく、ヴィンスに声をかける。
「ヴィンス、ローブを纏ってくれ」
俺の言葉にヴィンスは無言で従うと、羽織っていた【影歩の外套】を頭からすっぽりと覆った。その瞬間、ヴィンスの気配が恐ろしく薄くなり、俺の視界から姿が消えた。
「お、おいっ! そいつってあの将軍じゃねえか!」
エアは余程驚いたのか、体を仰け反らせると俺に向かって指をさして叫んだ。
警備の為に天幕内にいる騎士も同様の反応を見せている。
「だから、捕まえてきたんだって。彼は俺の戦奴として今後働く事になったから宜しくな。はい、ヴィンス君、王様に自己紹介を頼む」
俺の言葉にヴィンスは姿を現すとエアに向かって頭下げた。
「今日からゼン殿を主人として生きる事になったヴィンスと申します。……何故俺はこんな事になったのか、いまだに理解できていませんが、宜しくお願いします。あっ、ゼン殿、聞いてませんでしたけど、昨日の事は水に流して頂けるんですよね? 俺、色々やってるんですけど」
ヴィンスは途中で自分の扱いがどうなるのか気になったのか、俺の隣に来ると顔を覗き込んでそう言った。
「……大丈夫だ。俺がきっと守る」
「絶対に考えてませんでしたね……? あーぁ……俺死んだわこれ」
そういえば、ヴィンスは確かブラド様を刺してるんだっけ……? すっかり忘れてたわ。
俺がちょっとヤバいかなという表情を見せたからか、ヴィンスは絶対に制裁されると思っているようだ。その気持ちは分かるので、俺はエアに目配せをしてみた。
「あ、あぁ……。ヴィンス、貴公がした事は、敵だったから故の事だろう。今後はゼンの戦奴として生きるのだから、それに関しては考慮をしよう。……だが、一発ぐらいは覚悟をしてくれよ?」
エアはそう言うと、視線をヴィンスから俺へと移した。そこには、お前もどうにかしろという念を感じる。どうやら、ブラド様には一度ぐらいはぶん殴られる必要がありそうだ。
「まあ、そういう事だ。王からの許しが出たのだから、痛いぐらいで済むだろう」
「……本当に死なない程度でお願いしますよ?」
流石将軍だけあって、その辺の覚悟は簡単にするらしい。
少し間抜けな紹介を得て、椅子を勧められたので腰を下ろす。
奴隷の扱いであるヴィンスも、これから情報を話してもらうので座らせた。
「それで……えっと、まずはメルレインの事を聞こう」
「何でそんなに動揺してんだよ」
「いや、するだろ! 出て行って数時間後に敵の将軍を連れて帰ってきたんだぞ!」
「落ち着けエア、お前は王様だろ」
「……お前のその態度が忘れさせるんだよ」
エアが俺を恨めしそうに見る。実は普通にしゃべれて嬉しいくせにな。ただ、こんな会話をしていると話が進まないので、俺は咳ばらいをしてしゃべり始めた。
「メルレインには手紙を渡してきた。読んだところまで確認している。その直前に部下と話をしていたのを聞いたんだが、その内容から寝返る可能性は高そうだ。後は、戦場でその証拠を見せるだけだな」
「その件は分かった。後で諸侯にも伝えておく。それで……そのヴィンスの事だが……」
エアの質問に俺はヴィンスを捕まえた経緯を話す事にした。
「そうか……アニアに手を出さなくて本当に良かったな。もし何かしていたら、俺でも止められない男が、シーレッドの民を一人残らず滅ぼしていたと思うぞ」
「おい……それは流石に言い過ぎだろ……」
「そうか? お前は思量深いところがあるくせに、直情的な行動も取るからな。俺は外れた事は言っていないと思うぞ」
エアはそう言いながらワインを飲み干すと、俺を見て笑った。
「まあ……否定も肯定もしないわ。それより、聞きたい事があればヴィンスから聞いてくれ。俺にはどんな情報が必要なのか分からないからな」
「そうだな……これは明日にした方がいいだろう。諸侯を交えていないと不備が出ると思う。ヴィンス、すまないが明日また頼むぞ。針のむしろになるやもしれないが、手を出す事はさせない。まあ、ゼンの奴隷に手を出すほどの馬鹿は、エゼルにはいないだろうけどな」
という事で、話は明日にする事にした。夜も大分更けてきたので、今日のところは引き上げようと天幕から出ようとすると、こちらに向かってきている人物が見えた。
「あっ、やべえな。ヴィンス、姿を隠せ」
やってきたのはブラド様だ。どこからか、話を聞きつけたのだろう。
「ゼン殿、話は伺いました。今姿を消した男と少し話をさせて頂いても?」
丁寧に話しかけてきたブラド様だが、その目は笑っていない。俺に対して当たるつもりはないのだろうが、ヴィンスに対しては抑えきれない思いがあるのだろう。
「話をする事は良いのですが、手を出さないと約束をしてください。それが出来ないのであれば、当分会わせる事は出来ません」
目の前に本人がいるのに変な言い方だが、ブラド様は俺の言葉を理解してくれたようだ。一つ息を大きく吐くと口を開いた。
「大丈夫です、私も子供ではないので分かっています。ほんの少しだけ、あの時の事を思い出していら立っているだけですから」
「分かりました、その言葉を信じましょう……」
まだちょっと目が怖いが、大丈夫そうだ。つか、子供じゃないって、この人俺の祖父でもおかしくない年なんだよな……
ヴィンスに姿を出すように指示をすると、ブラド様は俺を通り過ぎてヴィンスに詰め寄った。
「それが貴方の顔か……。ゼン殿の奴隷になっていなければ、今すぐにでも八つ裂きにしたいが……」
ブラド様はそう言うと、激しく歯ぎしりをした。ヴァンパイアだからか、その音が物凄くでかい。歯が折れるんじゃないかと心配するほどだ。
それを目の前でやられたヴィンスは、困った顔をしている。だが、目を逸らすことなくブラド様を見ていた。
ややあって、ヴィンスが口を開いた。
「吸血鬼の旦那、許しを請う事はしませんが、このままじゃアンタの気が済まない事は分かってます。ここは一つこれで許しちゃくれませんか?」
ヴィンスはそう言うと、懐から短剣を取り出した。そして、俺の方へ視線を送る。
「ゼンの旦那、自分を傷つける許可をもらえます?」
「……何をするんだ?」
「吸血鬼の旦那に、このナイフで手を突き刺してもらうんですよ。それで一つ手打ちにしてもらいたい。いかがですか?」
ヴィンスはそう言うと、ブラド様をまっすぐに見つめた。その瞳は許しを請うよりかは、これで諦めろと諭しているようだ。
対するブラド様は、表情を一切変えずにヴィンスを見つめている。だが、ナイフを差し出されるとそれを手にして言った。
「ゼン殿、許していただけるならば、これで全て水に流します。良いですか?」
正直やる必要はないと言えばない。だが、ブラド様にはエゼルの大貴族である面子やプライドという物があるだろう。エゼルとしても俺が捕まえたからと言って、今までの事を簡単に水に流せと言うのは難しかった。だが、これでブラド様が認めれば、他の諸侯も何も言えなくなるだろう。
「ヴィンス、本当にいいんだな?」
「えぇ、この程度で許してもらえるならば、安い物でしょう」
ヴィンスの目には怯えはない。ただ、仕方がないという表情だ。
「ブラド様、分かりました。しかし、すぐに治療はしますからね?」
「それは、もちろんです。では、これで水に流しましょう」
ブラド様は俺に返事をした束の間、渡されていたナイフでヴィンスの手のひらを突き刺した。
ナイフが根元まで達すると、にこりと笑ってヴィンスを見た。
「二度刺されましたが、これで許しましょう。今後は、ゼン殿の為に働くのですよ?」
「へ、へぇ……」
ブラド様は満足したのか、ナイフを一気に引き抜いた。そして、そのナイフを高く上げると、滴り落ちる血を突き出した舌の上に落として味わった。おいおい、マジでヴァンパイアおっかねえよ!
その猟奇的とも思える光景に若干引いていると、ナイフはヴィンスに戻される。ブラド様は俺に軽く会釈をすると、機嫌よさげに帰っていった。
「何もさせないと言っておいて悪かったな。今すぐ治す。グレーターヒール」
「おぉ!? 何て魔法を使うんですかい!? って、もう治ってやがる……」
ヴィンスは俺の魔法を見て驚きの声を上げた。結構普通に使ってるけど、分かる奴からしたら『グレーターヒール』って魔法技能レベル5が必要な超魔法だからね。
さて、ある程度の制裁がある事は予想していたが、俺は一応手を出させないと言ってしまった。それを反故したのだから、これには詫びが必要だろう。
「ヴィンス、そのナイフ貸して」
俺がそう言うと、ヴィンスは不思議そうな顔をして、ナイフを渡してくれた。
「普通の鉄のナイフですよ。アーティファクトは流石にマズいんで出しませんでしたって、旦那!? アンタ何やって!?」
「ぐおおおおっ! 痛てええええっ!」
俺はお詫びを込めて同じ痛みを負うべく、ナイフを手のひらに刺したのだが、猛烈に痛い! 痛すぎて思わず叫んでしまった。
「おいおい、マジかよ!? 何でこんな痛いのに耐えられたんだよ! グレーターヒール! グレーターヒール!」
急いでナイフを抜いて『グレーターヒール』を連発する。魔法のお蔭ですぐに痛みは引いたのだが、一気に湧き出た汗が額から垂れてきた。
「ふぅ……我ながら馬鹿な事をした……。ヴィンス、これでさっきの件を許してくれ」
「はは……変な人が主人になったもんだ。でも、嫌いじゃないですよ。改めて、部下ともども宜しくお願いします」
ヴィンスは少し呆れた顔をしている。まあ、俺も同じ状況になったらそんな顔をするだろうな。
だが、俺の誠意は伝わったようだ。隠せていなかった疑いの表情が大分消えた気がする。さすが俺だ、人の心を操る術を分かっている。
……嘘だよ! 勢いでやったけど、痛すぎて超後悔したよ!
こうしてヴィンスは改めて俺の部下として公認される事になった。彼の今後はまだ思案中だ。今のところはシェードと絡ませて行動させるようと思ってるけど、どうしようかな?
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