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5巻
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「おおお、フリッツが負けたぞ!」
「なんだこの少年は!」
俺は勝利の余韻に浸る事なく、急いで【霊樹の白蛇杖】を取り出して『グレーターヒール』を唱える。
フリッツはあっという間に塞がっていく傷口と俺の顔を交互に見比べて、驚きとも呆れとも見える微妙な表情を浮かべる。
アニアが俺の背中に抱きつくのとほぼ同時に、二人の奥さんもフリッツに駆け寄ってきた。
「フリッツッ! 今すぐヒールするから!」
エルフの奥さんが悲痛な表情で呼びかけるが、既にフリッツの傷口は塞がっており、元の綺麗な状態に戻っていた。
「おい、ルック。グレーターヒールって、魔法技能いくつで使える?」
「レベル5だけど、まさか……」
「ふふ……ふははははっ! おいおいふざけるな、こいつ本物じゃねえか! そりゃ勝てんわ、ふははは」
フリッツは突然笑い転げた。本物って――俺の事を真なる勇者だと思ったのだろうか。
「完敗だ。まるで歯が立たなかった。光斬が当たっても、この回復魔法があれば意味がないからな。打つ手なしって奴だ」
彼は、清々しい笑顔で更に続ける。
「まあ、この際、お前の正体はどうでもいい。そういえば、お前は俺が敵になる事を防ぎに来たんだよな? ならば、さっきの契約は一度解除してくれないか?」
「それはどういう意味ですかね? 場合によっては……」
「おっと、勘違いするな。なに、簡単な事だ。俺が戦争に参加しないのではなく、お前の主の味方になるだけの話だ」
うーむ、これは良い展開なのか?
「あー、その顔は疑ってるな? でも心配はいらないぞ。内容を変えて、もう一度契約をやり直そう。今度は、そうだな……確かエリアス王子だっけか? その御方や軍には手を出さない、それと命令には逆らわないとでも契約すればいいか」
「それなら良いですけど、何故味方になってくれるのですか?」
「そりゃ、勝つ方が分かったからさ。いいか? 俺をここまで一方的に叩きのめせる奴は、この国にはいないんだ。聖天でも竜天でも氷天でも無理だろう。それどころか、お前はまだ底を見せていない。そんなお前がエリアス王子の味方をしているんだ。勝馬に乗るのは当たり前だろ」
いくらなんでも買いかぶりすぎだと思う。俺一人で何万人もの相手が出来るはずはないからだ。
しかし、勇者が自ら進んで味方になってくれるのであれば、是非とも引き込みたい。
だけど、気になる事があるんだよな……
「それなら是非お願いしたいところですが……本当にいいのですか? こんなに小さい子供がいるのに」
「だからこそなんだ! 子供を育てるには金がいる。そこまで困ってはいないが、出来れば王都にあるような良い学校に行かせてやりたい。そこでだ、俺を雇わないか? 大金貨二十……いや、十五枚でどうだ!?」
うーむ、この勇者、俗っぽいっ!
でもまあ、分かりやすく金で動いてくれて、その上契約で縛れるならば問題ないか。むしろ大金貨十五枚程度で勇者が動くのだから、安い買い物だろう。
「分かりました、それで契約しましょう。活躍してくれたら、追加報酬も出しますからね」
「あぁ、助かったわ。お前に負けた時点で、勇者の名前を汚したとかなんとか言われて、処分されるかもしれなかったからな」
おい……急に手の平を返した理由はそれかよ……
俺が勇者のしたたかさに呆れていると、彼が思い出したかのように口を開いた。
「あっ、例の演技はまだやるかもしれないが、その時は調子を合わせてくれよ?」
「……好きにしてよ、もう!」
こうして俺は勇者フリッツと契約を交わした。
考えてみると破格の条件で良い駒が手に入った。奥さん達二人は子育てが忙しいので不参加だが、フリッツの実力とアーティファクトがあれば、戦いに大きく貢献してくれるだろう。
今回の成果に思いをはせていると、興奮した様子のアニアが小走りで近付いてきた。
ていうか、さっきまでくっついてたはずなのに、いつの間に俺から離れていたんだ?
「ゼン様っ! 儲けました! 凄いです! 銀貨一枚が金貨二枚に!」
賭けの配当を受け取ったアニアは喜色満面だ。
それにしても、オッズは二百倍か。どれだけ俺は駄目だと思われてたんだよ。
逆に言えば、フリッツが評価されている証でもあるけどな。
喜びで飛び跳ねるアニアを横目に、ポッポちゃんは俺の肩に乗って熱い口づけを迫ってくる。
口づけというよりは、突かれていると言うべきか。
興奮して「主人強いのよー、すごいのよ!」と鳴きながら、何度も何度も突かれる。ポッポちゃん、そんなに求愛されても困っちゃうよ!
フリッツとの契約を終えた俺達は、その日は宿に一泊して、次の日には村を発つ事になった。
エリアス軍のもとへは馬車で向かう予定だ。
事前にポッポちゃんに手紙を運んでもらい、グウィンさんとの接触を図っておくとしよう。
◆
「……」
勇者フリッツを連れて現れた俺を見て、グウィンさんは無言で目を瞑った。
「いや、ちゃんと契約のスクロールで約束を交わしているから、大丈夫ですよ?」
「……もう坊ちゃまには、ゼン君が動いている事は知られています。ですので、今更気にしても仕方がないですが、どう紹介すればいいのでしょうかね?」
目を開けたグウィンさんは何かを悟ったような表情をしていた。
いや、これは諦めの顔か?
そんな俺達の会話を聞いていたフリッツが口を開いた。
「なあに、この俺が、味方に付く。そう言えばいい」
またフリッツの演技が始まっている……。何故それにこだわるのか全く分からない。疑問に思った俺は、隣で微笑んでいるアニアに聞いてみた。
「なあ、アニア。本当にこういうクサいのが受けるのか?」
「いかなる時でも余裕を持ち、冷静に対処する姿は、格好いいのですよ?」
「まじかよ……」
こんな芝居じみた勇者が良いなんて、さっぱり理解出来ない。俺はまだまだこの世界に馴染めていないのか?
とにかく、ここでフリッツを引き渡さない事には話が進まない。
「まあ、実力は本物ですから。もし、エアの近くに寄らせたくないのであれば、グウィンさんの直属にでもすればいいと思いますよ」
「安心しろ。神の契約には、勇者たる俺でも逆らう事は出来ない」
この契約は奴隷契約に近いものを感じる。フリッツの言う通り、双方合意のもとで行われた契約によって、彼の行動は制限される。
制限というのは、たとえば……契約で禁止されている行為を実行しようと考えると、思考が違う事へと誘導されるらしい。流石神様の力だ。
まあ、契約に使われるスクロールだけでも結構な金額だけど、強制力もそれに見合ってるって事だよな。
契約が結ばれている事で多少安心したのか、グウィンさんは表情を緩めた。
「分かりました、勇者殿はお預かりします。それで、ゼン君は今後どうするのですか?」
「アルン達と合流したら、集結しつつある敵を事前に潰していこうと思います。今後の大規模戦闘を、少しでも有利にしたいですから」
俺の言葉にグウィンさんの表情が曇った。
「ゼン君だけなら心配はありませんが、アニアさんやアルン君は大丈夫なのですか?」
「この子達は後方支援ですよ。危ない事をさせるつもりはありませんから」
そう言って、隣にいるアニアの肩に手をかけると、彼女は微笑み返してくれた。
グウィンさんと別れた後、俺達は少し西に移動して、別行動していたアルン達を探す事にした。
ポッポちゃんに空を飛んでもらったところ、街道に沿って移動している彼らをすぐに見つける事が出来た。
「リッケンバッカー家の二名は無事送り届けました。引き渡しまで見届けたので、問題ないはずです」
アニアの双子であり、俺の弟分みたいなアルンが、キリッとした表情で立派に報告した。
「よくやってくれたな、アルン。偉いから撫でてやろう」
なんだか可愛かったので、グリグリと頭を撫でてやった。
アルンは少し恥ずかしそうにしているが、腹を立てる事はなく、笑顔でされるがままだ。
俺は後方で控えていた狐獣人のセシリャと、俺の奴隷として先日購入した二人――人族の女性で元兵士のパティと竜人族のファース――にも声をかける。
「三人ともご苦労様。今日は美味い食い物を用意しよう」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。ご主人様」
年長で真面目なパティはバカ丁寧な態度で一礼し、ファースも無言で頷いた。そして、笑顔のセシリャは機嫌がいいのか、おどけた様子で言った。
「私も撫でる? なんてね!」
彼女にしては珍しく、とてもくだけた感じだ。
しかし、本当に撫でようと手を伸ばしたら、逃げられた。
その夜は六人と一羽で、俺のマジックボックスに保存してある高級食材を使った料理を味わった。
ゆでた大エビのサラダに、ワイルドブルの尻尾をトロトロになるまで煮込んだシチュー、もちろん肉厚なステーキも外さない。
料理スキルは俺だけが持っているので、調理は自分で受け持った。
俺の料理スキルはレベル3。一般的にこれくらいあれば、店を出したら繁盛するレベルの料理を作れる。
包丁捌きはもちろん、肉を返すタイミングや火加減など、様々な調理技術でスキルの恩恵を受けられるので、とても上手く調理が出来るのだ。
皆旅続きで、こうしてゆっくり食事をするのは久々だった事もあるだろうが、料理はどれも好評だった。
食事の後は今後の話に移る。
「明日からアルン達には情報収集をお願いするよ。状況は常に動いているから、とにかく情報が欲しい」
俺の言葉に皆頷いたが、ファースは一人だけ不満げな表情をしている。本当は戦いたくて仕方がないのだろう。
それに気付いたアルンが、座っていても見上げるほどの体格差があるファースに声をかけた。
「ファースさん、情報収集中は僕と模擬戦をしましょう」
「っ!? ククッ、アルンのような子供に気を遣われたか。我はガキだな」
ファースは年下のアルンに気を遣わせた事に苦笑した。
具体的にどう動くかというところに話が進むと、パティの経験が役に立った。奴隷になる前は警備兵をしていた彼女は、戦時の兵の動きをある程度把握していたのだ。俺も多少の知識は持っているが、現場に勤めていた人間の意見は貴重である。
話が一段落したところで、俺はパティに気になっていた事を聞いてみた。
「今更だけど、パティは俺の下で動く事をどう思ってるんだ?」
「それは、祖国に盾突くのが気にならないのか、という事ですよね? 奴隷に落ちた身としては、ご主人様の指示に従うまでです。……ただ、本音を言えば、この戦でご主人様が功を成すほど、私の今後が明るくなるとも思っています。お恥ずかしいですが、やはり奴隷の身ですから……」
素直な意見だ。そして、本心を語っていると思える。
彼女には数年は奴隷生活を頑張ってもらうつもりだ。しかし、この戦が終わったら、働きによっては褒美として何か本人が望む物を与えるのもいいかもな。
続いてもう一人の奴隷であるファースにも同じ質問をする。
「我は、武を向上させる事が出来るならば、どこにでも行こう」
思っていた通りの答えで安心するわ。まあ、そう言うのであれば、今後は戦う機会を与えて頑張ってもらおう。
そんな事を考えていると、ファースが続けた。
「それにしても主、アルンは素晴らしいな。この歳で我と打ち合えるとは思わなかったぞ。もしかして、アニアも同じくらいなのか?」
「この子は魔法の方が得意だからな。ファースの好みじゃないと思うよ」
「ほう……主がそう言うのであれば、相当なのであろうな。あの歳で魔法だけで戦えるとすると、実に貴重な……」
ファースは感心した様子でしきりに頷く。
隣に座るアニアを見てみると、パティと楽しそうに話し込んでいた。本当にこの子はすぐに他人と仲良くなるな。
話し合いの結果、俺はまた単独で動く事になった。
とはいえ、もうすぐ起こる大規模な戦闘には間に合うように、定期的に戻るつもりだ。
まだまだ忙しいだろうけど、ジニーと交わしたエアを救うという約束を果たす為にも、気合を入れて頑張ろう。
◆
「何故追い付かぬっ!? 貴様ら馬を潰してでもあいつを殺せ!」
俺の後方からは男の怒号と、大地を蹴る馬の足音が聞こえてくる。
一瞬振り返って確認すると、十人ほどの追手が見えた。
どいつもこいつも、立派な鎧を着てやがる。
「待て貴様ァ! よくも父上をッ!」
待てと言われて待つ奴はいない。俺は速度を維持したまま走り続ける。
高レベル、高スキル値で増強された身体能力に補助魔法を組み合わせると、馬でも追いつけないほどの速さで走る事が出来る。
もちろん全力疾走なので長時間は無理だが、今追ってきている彼らを突出させて軍団から引き剥がすには十分だ。
そろそろいいだろう。
俺は走る勢いを落とさず、前方に高く跳びあがる。
空中で体を反転させ、マジックボックスから取り出したナイフを両手に持つ。
俺を追いかけてきた相手が視界に入ると、両腕を交差させてナイフを投擲した。
銀色の直線を描いて飛んでいくナイフは、こちらに向かって駆けてくる騎士の首に吸い込まれた。
投げたナイフの数と同じ、二人の騎士が落馬する。俺は地面に足が着くまでの間、更にナイフを投げ続けた。
「あぁ……貴様は、何者なんだ……。や、やめっ……っ!」
驚愕の表情を浮かべる最後の一人――敵方の子爵家の嫡男だと思われる男の眼球に、鉄のナイフを投擲した。少し残酷だと思うが、他の場所は頑丈そうな全身鎧と兜で守られているので仕方がない。
急いで死体をマジックボックスにしまい、上空で旋回していたポッポちゃんを呼び寄せる。
そして、すぐに先程始末した子爵の兵達がいる方角へと移動する。
草原に囲まれた一本道には、多くの兵士がひしめきあって、周囲を警戒していた。
隠密スキルを使って近付くと、胸部に鉄の槍が突き刺さって絶命している当主の姿が見えた。
周りでは、側近と思われる男達が無念そうに涙を流している。
敵兵の意識が当主に集まっている中、俺は密かに着地し、彼らが移送している兵糧をまるごとマジックボックスに収納して奪い取った。
敵方の貴族一団を始末した俺は、一度アニア達のところに戻り、次の目標に関する情報を尋ねた。
「次はシューカー伯爵の軍がこの道を通るのです。皆が集めた情報通りなら、あの作戦をするのですか?」
アニアが机の上に置かれた手描きの地図を指差しながら、敵に見立てた石を動かして提案した。
すると、パティが横から顔を出して異なる意見を出す。
「それより、先にゲージ子爵の飛行部隊を潰した方がいいかもしれません。あそこは伝令も兼ねていますから、優先順位は高いはずです」
「うむ、我も飛竜が地面に留まっている今が好機だと思うぞ」
ファースも同意のようだ。
二人の意見を受け、アルンが状況を分析する。
「シューカー伯爵はもう少し前進させても問題ないです。アニア、もっと先まで道は見てきてるだろ?」
指先で地図上の道を辿ったアニアは新たな場所を指示した。
「うん、それなら……この位置まで進ませてもいいのです!」
四人が集めて来た情報を元に、次の目標を定めてくれている。
最終的な判断は俺が下すが、アニアとアルンの勉強を兼ねて任せてみる事にした。パティとファースの二人がいるので、素人の俺が意見をしなくとも問題はないだろう。
そんな四人の話に耳を傾けながら、俺はポッポちゃんの小さな頭を撫で続ける。
片手で掴めてしまうほどの頭部に生える細かな羽毛の手触りはとても柔らかい。
頭を撫で終えた後は、翼を広げて汚れがないか確かめる。美しい白さを保っている事を確認したら、翼の付け根を指で揉んで優しくマッサージする。
「ポッポちゃん、ここが気持ちいいのか?」
俺が呼びかけると、ポッポちゃんは「もっと強くなのよ……」と、クゥクゥ切なげに鳴きだす。
俺は更に力を込めて、強張った筋肉を揉みほぐした。
力が加わる度に、ポッポちゃんの鳴き声が響く。
目を閉じて快感に酔いしれるポッポちゃんに最後の一揉みを加え、マッサージは終了した。
「ゼン殿、なんだか手つきがエッチなんだけど……?」
四人の会話には加わらず、一人でチビチビと果実酒を飲んでいたセシリャが、いつの間にか俺の隣に移動していた。
真面目にポッポちゃんを癒していたのに、そんな風に思われるとは心外だ。なんならセシリャにもマッサージしてやろうかと言おうと思ったが、アニアがじっとこちらを見ていたからやめておいた。
アルン達の話もまとまったようなので、ポッポちゃんを膝からおろして声をかける。
「話はまとまったのか?」
アルンの肩に手を掛けて、机の上に広げた地図に目を落とす。
「大体まとまりました。あとはこの中からゼン様に選んでもらうだけです」
地図上には数ヵ所にバツ印が描かれていた。
俺は、アルン達が立てた作戦に少しばかり修正を加えて実行する事にした。
勇者フリッツをグウィンさんに引き渡してから数日が経つが、北上を続けるエア達の軍は、まだ敵の大規模な軍と当たる気配はない。次なる戦いの場所は、王都南の街フォルバーグ周辺になる見込みだ。
街の近くではあるが、攻城戦にはならないと予想されている。
兵数はこちらが八千、現王側がおよそ一万五千。
敵にはこちらを大きく上回る兵数があるので、わざわざ籠城などせずに野戦で一気に蹴りをつけにくるだろう。
流石に二倍近い兵力差があると、絶望的な気分になる。
しかし、いくら嘆いていても状況が変わる事はない。
大局からすれば小さな成果でしかないが、俺は引き続き現王軍に合流しつつある敵を襲撃して兵力を削いでいる。
当主の殺害や、食糧の強奪などを行い、二千程度の兵の合流を阻止して引き返させた。
思った以上の成果を上げられていると思う。
もちろん全て成功している訳ではなく、失敗も積み重ねた上で、だけどね。
しかし、時間が経つにつれて多くの諸侯が現王軍に合流している為、次第に俺が手を出せる相手も少なくなってきている。
あと数日のうちには部隊の集結が終わりそうなので、今のうちに襲えるところは片っ端から襲うつもりだ。
襲撃の過程でいくつかのアーティファクトらしき物を見かけた。
アーティファクトは戦局を左右する強力な兵器だ。
戦争状態になると、貴族達は戦功を立てようとして家宝のアーティファクトを持ち出すのだろう。
しかし俺は、基本的に遠距離から投擲で当主の殺害を行っているので、彼らがアーティファクトを持っていても、敵兵の真っ只中の死体に近付いて回収する事は出来なかった。もっとも、最近は一軍くらいなら一人で相手に出来そうな気もしているけど……
そんな中、俺は幸運にも一つのアーティファクトを手に入れた。
名称:【火の指輪】
素材:【ミスリル ルビー】
等級:【伝説級】
性能:【マナ増幅 火魔法強化 火精霊召喚】
詳細:【火の神のアーティファクト。装備した者のマナを増強し、火魔法を強化する。また、火の精霊を呼び出す事が出来る。火の精霊は召喚者の意思で操作が可能】
炎をモチーフにした装飾が特徴だが、一見すると普通のルビーをあしらったミスリルの指輪のようである。
持ち主は使う前に死んでしまったので、死体から拝借して鑑定し、はじめてこれがアーティファクトだと分かった。
検証の結果、マナの増幅は最大値の一・五倍の上昇が認められた。
火属性の魔法に関しては約二倍の威力上昇だ。
試したところ、魔法威力の増幅効果がある『医術と魔法の神の加護』と【霊樹の白蛇杖】にも相乗効果があった。
組み合わせると魔法技能レベル1で会得可能な『ファイアアロー』が、魔法技能レベル3の『ファイアボール』を超える威力になっていた。
『ファイアボール』は命中時に爆発するので、厳密には効果が違うが、『ファイアアロー』が命中した木は一気に燃え上がった。
もちろん『ファイアボール』の方も相当威力が強化されていて、爆発に巻き込まれた大木の幹をことごとくなぎ倒すほどだ。
もう一つの効果、火精霊召喚は、火の玉のような、宙に浮かぶ炎の塊を四つ呼び出すものだった。
自分の周りをクルクルと回り、回転数の変更や狙った方向へと飛ばす事などが出来る。
人型のファイアエレメンタルが出てくるのかと思っていたのだが、これはこれでかなり面白い。
この指輪を手に入れて、攻撃方法を魔法に鞍替えしてもいいんじゃないかと真面目に考えてしまった。
しかし、やはり俺には投擲が一番合っている。
アニアに使わせようと思って指輪を手渡したら、彼女はしれっと左手の薬指を指定してきたので、中指に無理やり嵌めてやった。
「なんだこの少年は!」
俺は勝利の余韻に浸る事なく、急いで【霊樹の白蛇杖】を取り出して『グレーターヒール』を唱える。
フリッツはあっという間に塞がっていく傷口と俺の顔を交互に見比べて、驚きとも呆れとも見える微妙な表情を浮かべる。
アニアが俺の背中に抱きつくのとほぼ同時に、二人の奥さんもフリッツに駆け寄ってきた。
「フリッツッ! 今すぐヒールするから!」
エルフの奥さんが悲痛な表情で呼びかけるが、既にフリッツの傷口は塞がっており、元の綺麗な状態に戻っていた。
「おい、ルック。グレーターヒールって、魔法技能いくつで使える?」
「レベル5だけど、まさか……」
「ふふ……ふははははっ! おいおいふざけるな、こいつ本物じゃねえか! そりゃ勝てんわ、ふははは」
フリッツは突然笑い転げた。本物って――俺の事を真なる勇者だと思ったのだろうか。
「完敗だ。まるで歯が立たなかった。光斬が当たっても、この回復魔法があれば意味がないからな。打つ手なしって奴だ」
彼は、清々しい笑顔で更に続ける。
「まあ、この際、お前の正体はどうでもいい。そういえば、お前は俺が敵になる事を防ぎに来たんだよな? ならば、さっきの契約は一度解除してくれないか?」
「それはどういう意味ですかね? 場合によっては……」
「おっと、勘違いするな。なに、簡単な事だ。俺が戦争に参加しないのではなく、お前の主の味方になるだけの話だ」
うーむ、これは良い展開なのか?
「あー、その顔は疑ってるな? でも心配はいらないぞ。内容を変えて、もう一度契約をやり直そう。今度は、そうだな……確かエリアス王子だっけか? その御方や軍には手を出さない、それと命令には逆らわないとでも契約すればいいか」
「それなら良いですけど、何故味方になってくれるのですか?」
「そりゃ、勝つ方が分かったからさ。いいか? 俺をここまで一方的に叩きのめせる奴は、この国にはいないんだ。聖天でも竜天でも氷天でも無理だろう。それどころか、お前はまだ底を見せていない。そんなお前がエリアス王子の味方をしているんだ。勝馬に乗るのは当たり前だろ」
いくらなんでも買いかぶりすぎだと思う。俺一人で何万人もの相手が出来るはずはないからだ。
しかし、勇者が自ら進んで味方になってくれるのであれば、是非とも引き込みたい。
だけど、気になる事があるんだよな……
「それなら是非お願いしたいところですが……本当にいいのですか? こんなに小さい子供がいるのに」
「だからこそなんだ! 子供を育てるには金がいる。そこまで困ってはいないが、出来れば王都にあるような良い学校に行かせてやりたい。そこでだ、俺を雇わないか? 大金貨二十……いや、十五枚でどうだ!?」
うーむ、この勇者、俗っぽいっ!
でもまあ、分かりやすく金で動いてくれて、その上契約で縛れるならば問題ないか。むしろ大金貨十五枚程度で勇者が動くのだから、安い買い物だろう。
「分かりました、それで契約しましょう。活躍してくれたら、追加報酬も出しますからね」
「あぁ、助かったわ。お前に負けた時点で、勇者の名前を汚したとかなんとか言われて、処分されるかもしれなかったからな」
おい……急に手の平を返した理由はそれかよ……
俺が勇者のしたたかさに呆れていると、彼が思い出したかのように口を開いた。
「あっ、例の演技はまだやるかもしれないが、その時は調子を合わせてくれよ?」
「……好きにしてよ、もう!」
こうして俺は勇者フリッツと契約を交わした。
考えてみると破格の条件で良い駒が手に入った。奥さん達二人は子育てが忙しいので不参加だが、フリッツの実力とアーティファクトがあれば、戦いに大きく貢献してくれるだろう。
今回の成果に思いをはせていると、興奮した様子のアニアが小走りで近付いてきた。
ていうか、さっきまでくっついてたはずなのに、いつの間に俺から離れていたんだ?
「ゼン様っ! 儲けました! 凄いです! 銀貨一枚が金貨二枚に!」
賭けの配当を受け取ったアニアは喜色満面だ。
それにしても、オッズは二百倍か。どれだけ俺は駄目だと思われてたんだよ。
逆に言えば、フリッツが評価されている証でもあるけどな。
喜びで飛び跳ねるアニアを横目に、ポッポちゃんは俺の肩に乗って熱い口づけを迫ってくる。
口づけというよりは、突かれていると言うべきか。
興奮して「主人強いのよー、すごいのよ!」と鳴きながら、何度も何度も突かれる。ポッポちゃん、そんなに求愛されても困っちゃうよ!
フリッツとの契約を終えた俺達は、その日は宿に一泊して、次の日には村を発つ事になった。
エリアス軍のもとへは馬車で向かう予定だ。
事前にポッポちゃんに手紙を運んでもらい、グウィンさんとの接触を図っておくとしよう。
◆
「……」
勇者フリッツを連れて現れた俺を見て、グウィンさんは無言で目を瞑った。
「いや、ちゃんと契約のスクロールで約束を交わしているから、大丈夫ですよ?」
「……もう坊ちゃまには、ゼン君が動いている事は知られています。ですので、今更気にしても仕方がないですが、どう紹介すればいいのでしょうかね?」
目を開けたグウィンさんは何かを悟ったような表情をしていた。
いや、これは諦めの顔か?
そんな俺達の会話を聞いていたフリッツが口を開いた。
「なあに、この俺が、味方に付く。そう言えばいい」
またフリッツの演技が始まっている……。何故それにこだわるのか全く分からない。疑問に思った俺は、隣で微笑んでいるアニアに聞いてみた。
「なあ、アニア。本当にこういうクサいのが受けるのか?」
「いかなる時でも余裕を持ち、冷静に対処する姿は、格好いいのですよ?」
「まじかよ……」
こんな芝居じみた勇者が良いなんて、さっぱり理解出来ない。俺はまだまだこの世界に馴染めていないのか?
とにかく、ここでフリッツを引き渡さない事には話が進まない。
「まあ、実力は本物ですから。もし、エアの近くに寄らせたくないのであれば、グウィンさんの直属にでもすればいいと思いますよ」
「安心しろ。神の契約には、勇者たる俺でも逆らう事は出来ない」
この契約は奴隷契約に近いものを感じる。フリッツの言う通り、双方合意のもとで行われた契約によって、彼の行動は制限される。
制限というのは、たとえば……契約で禁止されている行為を実行しようと考えると、思考が違う事へと誘導されるらしい。流石神様の力だ。
まあ、契約に使われるスクロールだけでも結構な金額だけど、強制力もそれに見合ってるって事だよな。
契約が結ばれている事で多少安心したのか、グウィンさんは表情を緩めた。
「分かりました、勇者殿はお預かりします。それで、ゼン君は今後どうするのですか?」
「アルン達と合流したら、集結しつつある敵を事前に潰していこうと思います。今後の大規模戦闘を、少しでも有利にしたいですから」
俺の言葉にグウィンさんの表情が曇った。
「ゼン君だけなら心配はありませんが、アニアさんやアルン君は大丈夫なのですか?」
「この子達は後方支援ですよ。危ない事をさせるつもりはありませんから」
そう言って、隣にいるアニアの肩に手をかけると、彼女は微笑み返してくれた。
グウィンさんと別れた後、俺達は少し西に移動して、別行動していたアルン達を探す事にした。
ポッポちゃんに空を飛んでもらったところ、街道に沿って移動している彼らをすぐに見つける事が出来た。
「リッケンバッカー家の二名は無事送り届けました。引き渡しまで見届けたので、問題ないはずです」
アニアの双子であり、俺の弟分みたいなアルンが、キリッとした表情で立派に報告した。
「よくやってくれたな、アルン。偉いから撫でてやろう」
なんだか可愛かったので、グリグリと頭を撫でてやった。
アルンは少し恥ずかしそうにしているが、腹を立てる事はなく、笑顔でされるがままだ。
俺は後方で控えていた狐獣人のセシリャと、俺の奴隷として先日購入した二人――人族の女性で元兵士のパティと竜人族のファース――にも声をかける。
「三人ともご苦労様。今日は美味い食い物を用意しよう」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。ご主人様」
年長で真面目なパティはバカ丁寧な態度で一礼し、ファースも無言で頷いた。そして、笑顔のセシリャは機嫌がいいのか、おどけた様子で言った。
「私も撫でる? なんてね!」
彼女にしては珍しく、とてもくだけた感じだ。
しかし、本当に撫でようと手を伸ばしたら、逃げられた。
その夜は六人と一羽で、俺のマジックボックスに保存してある高級食材を使った料理を味わった。
ゆでた大エビのサラダに、ワイルドブルの尻尾をトロトロになるまで煮込んだシチュー、もちろん肉厚なステーキも外さない。
料理スキルは俺だけが持っているので、調理は自分で受け持った。
俺の料理スキルはレベル3。一般的にこれくらいあれば、店を出したら繁盛するレベルの料理を作れる。
包丁捌きはもちろん、肉を返すタイミングや火加減など、様々な調理技術でスキルの恩恵を受けられるので、とても上手く調理が出来るのだ。
皆旅続きで、こうしてゆっくり食事をするのは久々だった事もあるだろうが、料理はどれも好評だった。
食事の後は今後の話に移る。
「明日からアルン達には情報収集をお願いするよ。状況は常に動いているから、とにかく情報が欲しい」
俺の言葉に皆頷いたが、ファースは一人だけ不満げな表情をしている。本当は戦いたくて仕方がないのだろう。
それに気付いたアルンが、座っていても見上げるほどの体格差があるファースに声をかけた。
「ファースさん、情報収集中は僕と模擬戦をしましょう」
「っ!? ククッ、アルンのような子供に気を遣われたか。我はガキだな」
ファースは年下のアルンに気を遣わせた事に苦笑した。
具体的にどう動くかというところに話が進むと、パティの経験が役に立った。奴隷になる前は警備兵をしていた彼女は、戦時の兵の動きをある程度把握していたのだ。俺も多少の知識は持っているが、現場に勤めていた人間の意見は貴重である。
話が一段落したところで、俺はパティに気になっていた事を聞いてみた。
「今更だけど、パティは俺の下で動く事をどう思ってるんだ?」
「それは、祖国に盾突くのが気にならないのか、という事ですよね? 奴隷に落ちた身としては、ご主人様の指示に従うまでです。……ただ、本音を言えば、この戦でご主人様が功を成すほど、私の今後が明るくなるとも思っています。お恥ずかしいですが、やはり奴隷の身ですから……」
素直な意見だ。そして、本心を語っていると思える。
彼女には数年は奴隷生活を頑張ってもらうつもりだ。しかし、この戦が終わったら、働きによっては褒美として何か本人が望む物を与えるのもいいかもな。
続いてもう一人の奴隷であるファースにも同じ質問をする。
「我は、武を向上させる事が出来るならば、どこにでも行こう」
思っていた通りの答えで安心するわ。まあ、そう言うのであれば、今後は戦う機会を与えて頑張ってもらおう。
そんな事を考えていると、ファースが続けた。
「それにしても主、アルンは素晴らしいな。この歳で我と打ち合えるとは思わなかったぞ。もしかして、アニアも同じくらいなのか?」
「この子は魔法の方が得意だからな。ファースの好みじゃないと思うよ」
「ほう……主がそう言うのであれば、相当なのであろうな。あの歳で魔法だけで戦えるとすると、実に貴重な……」
ファースは感心した様子でしきりに頷く。
隣に座るアニアを見てみると、パティと楽しそうに話し込んでいた。本当にこの子はすぐに他人と仲良くなるな。
話し合いの結果、俺はまた単独で動く事になった。
とはいえ、もうすぐ起こる大規模な戦闘には間に合うように、定期的に戻るつもりだ。
まだまだ忙しいだろうけど、ジニーと交わしたエアを救うという約束を果たす為にも、気合を入れて頑張ろう。
◆
「何故追い付かぬっ!? 貴様ら馬を潰してでもあいつを殺せ!」
俺の後方からは男の怒号と、大地を蹴る馬の足音が聞こえてくる。
一瞬振り返って確認すると、十人ほどの追手が見えた。
どいつもこいつも、立派な鎧を着てやがる。
「待て貴様ァ! よくも父上をッ!」
待てと言われて待つ奴はいない。俺は速度を維持したまま走り続ける。
高レベル、高スキル値で増強された身体能力に補助魔法を組み合わせると、馬でも追いつけないほどの速さで走る事が出来る。
もちろん全力疾走なので長時間は無理だが、今追ってきている彼らを突出させて軍団から引き剥がすには十分だ。
そろそろいいだろう。
俺は走る勢いを落とさず、前方に高く跳びあがる。
空中で体を反転させ、マジックボックスから取り出したナイフを両手に持つ。
俺を追いかけてきた相手が視界に入ると、両腕を交差させてナイフを投擲した。
銀色の直線を描いて飛んでいくナイフは、こちらに向かって駆けてくる騎士の首に吸い込まれた。
投げたナイフの数と同じ、二人の騎士が落馬する。俺は地面に足が着くまでの間、更にナイフを投げ続けた。
「あぁ……貴様は、何者なんだ……。や、やめっ……っ!」
驚愕の表情を浮かべる最後の一人――敵方の子爵家の嫡男だと思われる男の眼球に、鉄のナイフを投擲した。少し残酷だと思うが、他の場所は頑丈そうな全身鎧と兜で守られているので仕方がない。
急いで死体をマジックボックスにしまい、上空で旋回していたポッポちゃんを呼び寄せる。
そして、すぐに先程始末した子爵の兵達がいる方角へと移動する。
草原に囲まれた一本道には、多くの兵士がひしめきあって、周囲を警戒していた。
隠密スキルを使って近付くと、胸部に鉄の槍が突き刺さって絶命している当主の姿が見えた。
周りでは、側近と思われる男達が無念そうに涙を流している。
敵兵の意識が当主に集まっている中、俺は密かに着地し、彼らが移送している兵糧をまるごとマジックボックスに収納して奪い取った。
敵方の貴族一団を始末した俺は、一度アニア達のところに戻り、次の目標に関する情報を尋ねた。
「次はシューカー伯爵の軍がこの道を通るのです。皆が集めた情報通りなら、あの作戦をするのですか?」
アニアが机の上に置かれた手描きの地図を指差しながら、敵に見立てた石を動かして提案した。
すると、パティが横から顔を出して異なる意見を出す。
「それより、先にゲージ子爵の飛行部隊を潰した方がいいかもしれません。あそこは伝令も兼ねていますから、優先順位は高いはずです」
「うむ、我も飛竜が地面に留まっている今が好機だと思うぞ」
ファースも同意のようだ。
二人の意見を受け、アルンが状況を分析する。
「シューカー伯爵はもう少し前進させても問題ないです。アニア、もっと先まで道は見てきてるだろ?」
指先で地図上の道を辿ったアニアは新たな場所を指示した。
「うん、それなら……この位置まで進ませてもいいのです!」
四人が集めて来た情報を元に、次の目標を定めてくれている。
最終的な判断は俺が下すが、アニアとアルンの勉強を兼ねて任せてみる事にした。パティとファースの二人がいるので、素人の俺が意見をしなくとも問題はないだろう。
そんな四人の話に耳を傾けながら、俺はポッポちゃんの小さな頭を撫で続ける。
片手で掴めてしまうほどの頭部に生える細かな羽毛の手触りはとても柔らかい。
頭を撫で終えた後は、翼を広げて汚れがないか確かめる。美しい白さを保っている事を確認したら、翼の付け根を指で揉んで優しくマッサージする。
「ポッポちゃん、ここが気持ちいいのか?」
俺が呼びかけると、ポッポちゃんは「もっと強くなのよ……」と、クゥクゥ切なげに鳴きだす。
俺は更に力を込めて、強張った筋肉を揉みほぐした。
力が加わる度に、ポッポちゃんの鳴き声が響く。
目を閉じて快感に酔いしれるポッポちゃんに最後の一揉みを加え、マッサージは終了した。
「ゼン殿、なんだか手つきがエッチなんだけど……?」
四人の会話には加わらず、一人でチビチビと果実酒を飲んでいたセシリャが、いつの間にか俺の隣に移動していた。
真面目にポッポちゃんを癒していたのに、そんな風に思われるとは心外だ。なんならセシリャにもマッサージしてやろうかと言おうと思ったが、アニアがじっとこちらを見ていたからやめておいた。
アルン達の話もまとまったようなので、ポッポちゃんを膝からおろして声をかける。
「話はまとまったのか?」
アルンの肩に手を掛けて、机の上に広げた地図に目を落とす。
「大体まとまりました。あとはこの中からゼン様に選んでもらうだけです」
地図上には数ヵ所にバツ印が描かれていた。
俺は、アルン達が立てた作戦に少しばかり修正を加えて実行する事にした。
勇者フリッツをグウィンさんに引き渡してから数日が経つが、北上を続けるエア達の軍は、まだ敵の大規模な軍と当たる気配はない。次なる戦いの場所は、王都南の街フォルバーグ周辺になる見込みだ。
街の近くではあるが、攻城戦にはならないと予想されている。
兵数はこちらが八千、現王側がおよそ一万五千。
敵にはこちらを大きく上回る兵数があるので、わざわざ籠城などせずに野戦で一気に蹴りをつけにくるだろう。
流石に二倍近い兵力差があると、絶望的な気分になる。
しかし、いくら嘆いていても状況が変わる事はない。
大局からすれば小さな成果でしかないが、俺は引き続き現王軍に合流しつつある敵を襲撃して兵力を削いでいる。
当主の殺害や、食糧の強奪などを行い、二千程度の兵の合流を阻止して引き返させた。
思った以上の成果を上げられていると思う。
もちろん全て成功している訳ではなく、失敗も積み重ねた上で、だけどね。
しかし、時間が経つにつれて多くの諸侯が現王軍に合流している為、次第に俺が手を出せる相手も少なくなってきている。
あと数日のうちには部隊の集結が終わりそうなので、今のうちに襲えるところは片っ端から襲うつもりだ。
襲撃の過程でいくつかのアーティファクトらしき物を見かけた。
アーティファクトは戦局を左右する強力な兵器だ。
戦争状態になると、貴族達は戦功を立てようとして家宝のアーティファクトを持ち出すのだろう。
しかし俺は、基本的に遠距離から投擲で当主の殺害を行っているので、彼らがアーティファクトを持っていても、敵兵の真っ只中の死体に近付いて回収する事は出来なかった。もっとも、最近は一軍くらいなら一人で相手に出来そうな気もしているけど……
そんな中、俺は幸運にも一つのアーティファクトを手に入れた。
名称:【火の指輪】
素材:【ミスリル ルビー】
等級:【伝説級】
性能:【マナ増幅 火魔法強化 火精霊召喚】
詳細:【火の神のアーティファクト。装備した者のマナを増強し、火魔法を強化する。また、火の精霊を呼び出す事が出来る。火の精霊は召喚者の意思で操作が可能】
炎をモチーフにした装飾が特徴だが、一見すると普通のルビーをあしらったミスリルの指輪のようである。
持ち主は使う前に死んでしまったので、死体から拝借して鑑定し、はじめてこれがアーティファクトだと分かった。
検証の結果、マナの増幅は最大値の一・五倍の上昇が認められた。
火属性の魔法に関しては約二倍の威力上昇だ。
試したところ、魔法威力の増幅効果がある『医術と魔法の神の加護』と【霊樹の白蛇杖】にも相乗効果があった。
組み合わせると魔法技能レベル1で会得可能な『ファイアアロー』が、魔法技能レベル3の『ファイアボール』を超える威力になっていた。
『ファイアボール』は命中時に爆発するので、厳密には効果が違うが、『ファイアアロー』が命中した木は一気に燃え上がった。
もちろん『ファイアボール』の方も相当威力が強化されていて、爆発に巻き込まれた大木の幹をことごとくなぎ倒すほどだ。
もう一つの効果、火精霊召喚は、火の玉のような、宙に浮かぶ炎の塊を四つ呼び出すものだった。
自分の周りをクルクルと回り、回転数の変更や狙った方向へと飛ばす事などが出来る。
人型のファイアエレメンタルが出てくるのかと思っていたのだが、これはこれでかなり面白い。
この指輪を手に入れて、攻撃方法を魔法に鞍替えしてもいいんじゃないかと真面目に考えてしまった。
しかし、やはり俺には投擲が一番合っている。
アニアに使わせようと思って指輪を手渡したら、彼女はしれっと左手の薬指を指定してきたので、中指に無理やり嵌めてやった。
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